第23話 折角ですから
夏前にある筆記試験がひと段落つくと二週間ほどの休暇にはいる。
その間試験の出来が悪かった生徒が補習したりするのだが、それは後半から難しくなる授業内容についていけるようにという配慮らしい。
この期間は自習にもあてられていて、平民や田舎の貴族でも長子以外の者はいつか就職後に貴族に絡む仕事に着いた場合を考えたマナー講座などもある。
当然筆記試験となればレジェロを始めとしたグループの全員が難なく終わらせて良い結果を出していた。
レジェロは王族の執務に二週間をあて、カランドは側近候補としてその補助に。
グラツィオーソは高位貴族の社交があるらしくゲンナリとした顔で休暇を迎えた。
風雅はこの間に大公家の嫡男として次期大公の勉学がスタートした。
同時にコルネットも大公夫人の教育が始まり、風雅がただでさえ慣れない大公邸に暫く居るのだからと、ドルチェを大公邸に居る間の世話係として麻里亜に直談判した。
そうして何ということもなく時間が出来た花音は意を決して風雅の部屋を訪ねた。
「うん、だからこの二週間アルカートを借りてもいいかな」
「俺は構わないが、アルカートと母さんや父さんにも聞いてみないと」
「ママとパパは風雅と話し合いなさいって」
「そうか」
風雅は首の後ろに手をやりながら暫く考えてアルカートを部屋へ呼んだ。
「アルカート、学園が休みの間花音に付き合ってくれないか?」
そう言われてアルカートは一瞬目を丸くし直ぐに平静を取り戻すと恭しく頭を下げた。
「仰せのままに」
「いや、命じてんじゃなくてなんだ、あれだ友人への頼みみたいなもんだ」
照れ臭い笑みを浮かべた風雅に今度こそ目を見張ったアルカートは屈託なく微笑んで頷いた。
そうして休暇初日に花音とアルカートが向かったのは街の冒険者ギルドだった。
依頼の貼ってある掲示板を真剣に見る花音の後ろにアルカートが立つ。
「これ、どうかな」
花音が指し示したのは近場にある古びた塔での採取依頼。
街からは馬車で一日ほど先にある村から行けるようだ。
「泊まりになりますが?」
「うん、でも魔導書とかはこういうところから見つかるんだよね?」
「そう言われていますね」
「じゃあ塔とかは経験するにはいいと思うんだ」
花音は真剣に言うが、アルカートとしては年頃の子女であり支えるべき相手との外泊ということが気になっている。
風雅から花音が「折角冒険者証もあるし、ちょっと経験を積みたい」と言っているから付き合って守って欲しいと言われている。
とはいえ、出来れば外泊は避けたいと思うのも本音で。
「はぁ、一応私も年頃の男なのですが」
「ん?アルカート何か言った?」
「いえ」
アルカートの漏らした呟きはギルド内の喧騒に塗れて花音には届かなかったようで、小さくほっと息を漏らした。
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