第21話 風雅とコルネット

 その後はあっという間に全ての手続きが済んだ。

 今回の件で直接の関与が確定した男爵令嬢はコルネットの嘆願もあり表沙汰にはならなかったものの、学園は自主退学となり男爵家は彼女を修道院に送ることで、取りなしを求めた。

 コモドは元より次男ということで侯爵家を継ぐということもなかったので、学園はそのままに卒業後は侯爵家から除籍されることが決まった。

 この先、なりふり構わず勉学に取り組むなりすれば文官への道も僅かながら残っている、変われなければ卒業後は平民となるだけだ。

 

 そしてコルネットと風雅の婚約も直ぐに手続きが行われ、一カ月後にはお披露目の茶会を開催する流れとなった。


 「ねえ、風雅?」

 「なんだ?」

 花音はひと通り落ち着いた頃、風雅の部屋を訪ねた。

 「本当に良かったの?」

 「コルネット嬢のことか?」

 「うん」

 現世日本に彼女が居るなんて話は聞いたことがない花音も、急に決まった風雅の婚約に戸惑いが隠せない。

 風雅は花音を向かいのソファに座らせると鼻を掻きながら困ったように笑った。

 「多分、花音が心配してるような理由じゃないんだよな、あの元婚約者を見てて、彼奴の隣にコルネット嬢が立ってるところを想像したらさ」

 「うん」

 「死ぬほどムカついたんだわ」

 どうやら風雅なりにコルネットを想っての行動だったらしい。

 「そっか、じゃあちゃんと好きなんだね」

 「俺はな、だからちょっと他に目を向けられないように頑張んなきゃな」

 「そうかぁ、コルネットさんがお義姉さんになるのねえ」

 「花音はどうするんだ?」

 風雅の問いかけに花音は首を傾げる。

 「私はまだまだ結婚なんて考えれないよ」

 「まあ俺たちはな、でもここで生きるなら日本の基準だとヤバくないか?」

 「それはそうなんだけど、私はまだ……」

 いつの間にか風雅はこの世界で未来を考えていたらしいと気づいた花音が小さく溜息を吐いた。

 「せめて、学園に居る間は考えさせて欲しいかな」

 「そうか」

 風雅はそれ以上花音に何も聞かなかった。


 「本当なら、伯爵令嬢の私が大公家に嫁入りなど出来ないのですよ」

 ほうと溜息を吐いたコルネットを庭の四阿に用意したティーセットを挟み風雅が向かい側に座って聞いている。

 「俺はさ、こっちに来たのが最近でそういうのは全然分かってないんだけど、なんだろう絶対逃しちゃいけないって想ったんだよな」

 「そうなのですか?」

 風雅の言葉にコルネットは首を傾げている。

 「あんなさ、危ない場所で心細かったろうし怖かったはずなのに、コルネット嬢は俺やレジェロたちに綺麗な礼を、カテーシーだっけ?をして見せたじゃない、あの時に多分」

 最後は言葉を濁した風雅が照れ臭そうに頭を掻いた、コルネットは顔を赤くして扇子で顔を隠した。

 「俺がコルネット嬢に惹かれてるというのも本当だし、あの時に話したように防波堤になって欲しいってのも本当なんだ」

 「防波堤はわかります、レジェロ殿下では届かなくてもフーガさまならと考える貴族は少なからず居るでしょうから」

 実際、釣書がわんさと届いている、花音よりも風雅に釣書が多いのはその地位がこの世界で有益である証左だろう。

 「向こうにも見合い結婚とかはあるけど、俺としてはちゃんと好きになれる相手が良かったし」

 「そうですね、貴族であれば諦めることも多いですが、恋愛結婚がないわけではないですから」

 「だからさ、こんな形になっちゃったんだけど俺としてはコルネット嬢とちゃんと恋愛したいなぁって」

 「そそそそ、そう、ですか……あの、えっと」

 キョロキョロと目が泳ぎ耳や首まで真っ赤になったコルネットが俯きながら小さく答えた。

 「は、はい、よろしくお願いします」

 

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