第20話 思いがけない提案

 突然の騎士団の乱入と連れ去られた男爵令嬢、場内が騒然となる中ハァと長い溜息をレジェロが吐いた。

 「フルート侯爵令息、場所を変えよう」

 「は、はい」

 何が起きたのかまだ理解できないコモドはレジェロに言われるがまま、六人の後ろを着いて場内を後にした。

 レジェロは全員を振り返り、何処で話すかを黙って問う。

 手を挙げたのは風雅だ。

 「うちが良いだろ、王宮じゃあ大袈裟過ぎる」

 「そうね、我が家なら王宮も近いから連絡も取りやすいし」

 「た、大公邸に、ですか?」

 大公家に迷惑をかけれないと遠慮するコルネットを風雅が宥める。

 「そんなことは気にしなくていいよ、この騒ぎ自体はレジェロがやらかしたんだし」

 そう言いながら立てた親指でレジェロを指せばレジェロも笑いながら頷く。

 「まあ事を大きくしたのは、態とだしね」

 馬車どめまで歩き、馬車に乗り込む。

 レジェロとカランドに監視されながら護衛を交えてコモドが馬車に押し込まれた。

 風雅と花音の乗る大公家の馬車にコルネットとグラツィオーソが乗り込んだ。

 動き出した馬車の中で口を開いたのは風雅だ。

 「グラツィ、ちょっと聞きたいんだけど」

 「フーガさま、どうしました?」

 「うん、この国で婚約破棄された女性ってどうなるんだ?」

 グラツィオーソはチラッとコルネットを見る、そして少し考えてから口を開いた。

 「そうね、年齢にも寄るでしょうが今回ならコルネットに非がないとしても醜聞は免れないでしょう」

 グラツィオーソの言葉に花音は息を呑みコルネットは俯いて膝に置いた手を握った。

 「定番は修道院やどこかの後妻なんかでしょうか」

 「そうなんだ」

 風雅は暫く考えていたが、馬車が大公邸に着くと花音とグラツィオーソにコルネットを任せ風雅は先に大公邸に入っていった。


 軽く着替えを済ませて応接室のひとつに集まる。

 借りて来た猫の如く震えて小さくなるコモドにレジェロが問いかけた。

 「君は、貴族の婚姻が何だと思っていたの?」

 「そ、れは」

 「うん、多分君は何も考えてなかったのかな?侯爵家の結婚なんだ、婚約という契約の承認に何故王宮を通すと思う?」

 優しい口調だが、レジェロの顔からはいつもの笑みがない。

 「君たち貴族の婚姻はね、権力の偏りを防ぐためにも手前勝手に出来ないようになっているんだよ、要するに君とコルネット嬢の婚約は王家の承認を得ているんだよ」

 「君の身勝手で軽率な行動で伯爵令嬢の殺人未遂まで起こさせてしまった、その意味がわかるかな」

 レジェロは黙って俯いているコモドに言葉を重ねた。

 「なあ、あんたコルネット嬢とは婚約破棄するんだよな?」

 「いや、それは、言葉のあやというか、その」

 「あんな場所であれだけの衆人が聞いている場で婚約破棄を口にしておいて?言葉のあや?」

 風雅のこめかみにビキっと青筋が浮く。

 「まあいいや、コルネット嬢が良ければだけど俺と婚約するかい?」

 何気ない話とばかりに軽く婚約を提案した風雅に花音を始め全員の視線が集まる。

 「っても形だけだけど、この先良い相手が出来るならそれでいいし、その時は白紙や解消にすりゃあいいだろ」

 風雅の提案に口を開けて驚いていたコルネットが眉尻を下げた。

 「そ、それではあまりにもご迷惑に」

 「いや、俺にも利があるから、さ」

 風雅は頭をガリガリ掻いて困ったように笑った。

 「コルネット嬢には俺の防波堤になって欲しいんだ」

 その言葉に納得したのはレジェロだ。

 「ああ、確かにコルネット嬢なら適任だね、でもコルネット嬢に良い相手が見つからない場合はどうするんだい?」

 「俺が喜んで結婚するけど?コルネット嬢さえ良ければ、だが」

 「あ、あの、えっと……」

 返答に迷っているコルネットに風雅はニコリと笑みを深めた。

 「両親にはさっき話した、君の家には今うちの両親から話が行っているはずだよ」

 そう話している最中にドアがノックされた。

 アルカートがドアを開けば女大公である麻里亜と伯爵である一朗が顔を出した。

 「風雅、彼女が良いなら良いって返事をいただいたわ」

 「早いわ」

 花音が呆れて声をあげれば嬉しそうに麻里亜が笑った。

 「本当に、良いのですか?」

 コルネットが風雅を見上げると風雅は照れ臭そうに笑いながら頷く。

 「では、よろしくお願いします」

 コルネットの返事を聞いてレジェロが立ち上がる。

 「叔母さま、すぐに書類を整えましょう、カランド、彼は送り返して侯爵には王宮への出頭を」

 「了解しました」

 「グラツィオーソ、悪いが後を任せても?」

 「よろしくてよ」

 「ではすぐに参りましょう、フーガとコルネット嬢はご両親と一緒に王宮へ」

 「では、アマービレ伯爵家への使いは私が」

 アルカートがそう言えば、一朗が麻里亜から封書を受け取りアルカートに手渡した。

 

 とんとん拍子に進む話の中、展開についていけない花音は茫然とそれを眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る