第18話 波乱の親睦パーティー
社交の入り口として、またプレデビューとして催される学園の貴族科を中心とした親睦パーティーは、貴族科棟に併設されたパーティーホールを使用する。
昼間に準備されたパーティー会場は二つの月が見え始めた頃から開場され、婚約者が居る者はパートナーとして参加が暗黙の了解となっている。
賑わう会場を遠目に、学園長室がある全ての棟の中央に位置する本館の一室に緊張した花音と風雅がいた。
「フーガ、よろしく頼むよ」
レジェロがキラキラと後光を背負いながら部屋に入ってくる、白を基調とした正装がよく似合っている。
「わ、わかった、けど俺まだそんなに上手くエスコート?なんて出来ないから何かあったら小声ででも教えてくれ」
レジェロの後ろからグラツィオーソに連れられてコルネットが淡いピンクのドレスで現れた。
「は、はい、フーガさまよろしくお願いします」
緊張するコルネットに風雅は歩み寄ると片手を差し出して握手を求めた、それに最初は戸惑っていたコルネットも差し出された手を握って返せば少し柔らかくなった表情で笑顔を見せた。
「カノン嬢のパートナーは私が務めさせてもらうよ、カノン嬢いいかな?」
「え?いや、待って王子さまの相手は荷が重いよ?」
「大丈夫だよ、従兄弟だし」
「そういう話じゃないよ」
「まあまあカノンさん、ならカランドにエスコートして貰う?」
「グラツィオーソ嬢、それは僕とカノン嬢の家格が合わないよ」
「そうね、だから今日はレジェロさまで我慢してちょうだい」
グラツィオーソが扇子を口に添えて笑みを作る。
花音はまだ納得しきれないものの、ここまで言われたレジェロに対しての罪悪感もあり仕方なく頷いた。
カランドはそんな花音を見てホッと息を吐いた。
「では、カランドは私をエスコートさせて差し上げますわ」
「はいはい、仰せのままに」
笑いながらカランドが手をグラツィオーソに差し出した。
花音もまたレジェロの手を取り、次々と来場者が入場していくパーティー会場に向かって歩き出した。
煌びやかな場内へ最初に案内されて入場したのはカランドとグラツィオーソ、ざわりと場内が騒めいている。
落ち着く間もなく風雅にエスコートされたコルネットが入場すると騒めきが戸惑いに変わり妙な緊張感が場内を包んだ。
奥の方から人を掻き分けて柳眉を釣り上げた男女が近寄ろうとする中、レジェロにエスコートされた花音が入場してきた。
当然、注目は貴族科から魔法科に行った王族のレジェロと大公家の風雅と花音に集中する。
しかし、コルネットを含めレジェロと花音に風雅、グラツィオーソとカランドが和かに輪を作り話していれば、そこに割って入る勇者は存在しない。
慣れない花音と風雅にとってはコルネットのおかげでそんな周囲の自分たちを見る目に気づきはしないので助かったとも言えた。
遠巻きに見る生徒たちを尻目に六人は奥へと進む。
レジェロや花音、風雅たちが居るため会場内での立ち位置に移動しながら周囲の様子をそれとなく観察する。
当たり前だがコルネットが風雅にエスコートされて来ていることの戸惑いが多い、次いでレジェロが花音をエスコートしている点だが、王妹が大公であり二人が従兄妹同士であることもあり、半ば納得はしている様子。
その中で強い視線を感じて其方をチラリと見てみれば、栗色の髪の少年と金髪の少女が六人を睨みつけていた。
「彼がコモド・フルートね」
「隣に居るのが例の男爵令嬢か」
小声で話しながら奥に着いて六人で固まるように会話を続けていると、例の二人が此方に向かい歩いて来た。
「コルネット・アマービレ!」
周りにいるレジェロたちにもパートナーとして参加している大公令息である風雅にすら挨拶もなくコモドが声を張り上げコルネットを呼びつけた。
その無礼に最初に動いたのはカランドだ。
「フルート侯爵令息、何かお忘れではありませんか?」
「なんだ?貴様」
伯爵家の令息であるカランドを下に見た態度にレジェロの眼光が鋭くなる。
「貴様なぞに用はない!コルネット!こっちへ来い!話がある!」
「フルート侯爵令息、何故パートナーであるフーガさまを無視なさるのです?増して今は殿下の御前ですわよ?」
庇うようにグラツィオーソがコルネットの前に立ち扇子で口元を隠しながらそう言い募る。
ギリっと歯噛みしたコモドがグラツィオーソの後ろに居るコルネットを睨み付けた。
「あら、怖い」
クスクスとグラツィオーソが笑う。
「何よ!あなた!失礼ね!」
男爵令嬢がコモドの腕にぶら下がりながらグラツィオーソへ噛み付くように叫んだ。
グラツィオーソはそれに目を向けるでもなく澄まして笑いながら口元に扇子を当てている。
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