第14話 腕試し

 翌月のダンジョン探索が迫ると教室内もザワザワとどの生徒も落ち着きがない。

 先日採取した薬草を使用しての初級ポーション作りにも熱が入る。

 探索の目的はダンジョン内の素材回収と採取、その中には魔法薬の材料になる魔獣から採取するものもあり、戦闘は不可避。

 となると気になるのは互いの実力、というわけで魔法科棟の地下に設置された演習場に花音と風雅を含めたグループのメンバーが集まった。

 入学祝いにと渡された空間魔法を施されたアイテムボックスから花音と風雅はそれぞれ新調したロッドと刀を取り出す。

 「珍しい剣だな」「刀だね、絵図で見たことはあるけど本物は初めてだ」

 レジェロとカランドが風雅の刀を見て興奮しているのを遠巻きに見ているのは女性陣だ。

 「あら、アルカートも彼らのところへ行かなくてよろしいの?」

 グラツィオーソが花音の傍に控えるアルカートに声をかけるが、アルカートは首を横に振って答えた。

 「男子、こういうの好きですよね」

 ポソリとドルチェが言いながらナックルを指に嵌める。

 グラツィオーソは長い柄に斧のような刃が付いたハルバードを取り出した。

 身の丈より大きなハルバードをくるくると回して構える、侯爵令嬢として普段の淑女然とした姿と相まって凛々しくさえ見えた。

 「凄い!グラツィオーソ格好いい!」

 花音がはしゃぐ声を聞き、レジェロが金の柄を持つ両刃の長剣を取り出す、同じ装飾のある小振りの盾が付いた腕当てが眩しい。

 「なんかこう、レジェロのは王子様って感じがするな」

 「ああ、わかる」

 風雅の感想に頷きながらカランドが長弓を取り出した。

 「カランドの弓、大きいな」

 「前衛は向かないけど威力はあるからね」

 皆が自身の相棒を手に、それぞれの所感を話し合っている。

 そのうち、今の実力やどの程度動けるか把握したいという話になってきた。

 「一番いいのは近辺の小型魔獣討伐だろうな」

 「まあ無難でしょうね」

 「でも、カノンさまとフーガさまにいきなり実戦は難しくないでしょうか」

 ドルチェが控えめながらも、今口を出さないといけない、と従者の立場から恐る恐る苦言を口にした。

 「ああ!確かに!魔獣も初めてなんだよね」

 カランドがドルチェの決死のパスを受けた。

 「なら、幻影ではどうです?」

 足音もなく現れたゲネラル先生が人差し指を振りながら提案した。

 「この演習場はちょっとした仕掛けがあってね、ほいって」

 ゲネラル先生が指をパシンと鳴らすと風雅たち男子が固まっている場所に五体のツノが生えた大きな鼠が現れた。

 「っ角鼠!」

 「幻影だからね、君たちには痛みとかはないけど攻撃はしてくるよ」

 スッと下がりながらゲネラル先生がにこやかに言う。

 スッと前に出たのはドルチェとアルカート、それにグラツィオーソだ。

 背後に駆け込んだ花音がロッドの球体部分を角鼠に向けて魔力を流す。

 バリバリと電気が走り角鼠に当たる、驚いた角鼠が飛び上がったのを走り込んできたカランドが短剣で切り裂いた。

 パシュッと小気味良い音がして光の粒子に角鼠が姿を変える。

 「やるわね、じゃあ私も」

 グラツィオーソがハルバードをぐるりと回して構えるとひと息に目の前の角鼠を薙ぎ払う、その背後から火を纏った矢が矢継ぎ早に打ち込まれ、逃げ出した角鼠をドルチェが撃ち据える。

 残った角鼠に走り込んできた風雅とレジェロが刃を振りかざす。


 次々と現れてくる角鼠の幻影を相手に一時間ほど戦闘を繰り返すうちにお互いの相性も肌で感じ始めた。

 「俺は帰ってから父さんにちょっと鍛えて貰うわ」

 「風雅はパパに教えてもらうなら私はママに聞いてみるわ」

 「しかし、抜けて強いのはアルカートとドルチェ、それにグラツィオーソ嬢かな」

 「私とドルチェはカノンさまとフーガさまの護衛も兼ねていますから」

 レジェロの言葉にアルカートが答える。

 「まあそれぞれ課題も見えたし、ダンジョン探索の本番までにお互い出来ることをやりましょう」

 そうグラツィオーソが締めて演習場を後にした。

 

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