第12話 週末の旅
「そっかぁ、ダンジョンに行くのかぁ」
一朗が花音と風雅の話を聞きながらウンウンと頷き、サラダに入っているトマトを口に放り込んだ。
朝食と夕食は出来るだけ家族揃って取りたいというのは一朗の譲れない希望だった。
なので学園であった話などは夕食の時に話すのがほとんど。
引っ越し当初こそ大公や伯爵の仕事に追われて食事の時間を取れなかったが、最近は落ち着いてきて四人で夕食をゆっくりとるのが家族にとっても楽しみの一つになっている。
「装備はどうするの?花音は回復や補助魔法だったよね?風雅は身体強化あるなら武器が要るでしょ?」
一朗に聞かれて風雅は首を傾げた。
「いや、武器とか装備とかわからん」
「私もわかんない」
「そうねえ、大体学園に上がる前にその辺りはなんとかしてるものだし」
それまで話を聞いていた麻里亜が貴族科以外の学園生は入学前からその辺りの準備をしていたと聞いて花音も風雅も驚いている。
「騎士科なんて今から始めたんじゃあ遅いもの」
「ああ、確かに、じゃあ花音と風雅の装備一度探しに行こうか」
「そうね、週末にしましょう、飛空艇の使用許可取っておくわ」
「麻里亜さん、よろしくね」
花音と風雅を置いてとんとん拍子に話が決まり、週末は家族で外出となった。
週末、良く晴れた朝早くから叩き起こされた花音と風雅は朝食を詰め込む暇もなく馬車に押し込まれた。
「今のうちに食べておいてくださいね」
アルカートがバスケットに入れたサンドイッチを花音と風雅に渡す、ドルチェは水筒に入れた紅茶をカップに注いだ。
「ありがとう、父さんたちは?」
「前の馬車に乗っていますよ」
「何処に行くの?」
「飛空艇の発着場に」
簡単な朝食を馬車でとった二人はやがてついこの間地上に降りるために向かった飛空艇の発着場に着いた。
「花音ちゃん、風雅ちゃん行きましょうか」
馬車が停まり内側からアルカートが扉を開ける前に麻里亜によって馬車の扉が開かれた。
馬車から降りればすぐそこに巨大な飛空艇が停まっている。
「王家所有の飛空艇を借りたの」
「僕たちが昔使っていた飛空艇だから安心して乗ってよね」
麻里亜と一朗がキャラキャラと笑いながら二人を連れて飛空艇に乗り込む。
船内にある応接室のような場所に連れて行かれ、キョロキョロと周りを見ているうちに飛空艇が動き出した。
「此処から獣人国を経由してドワーフ国まで行くわよ」
「鍛治師といえばドワーフ国だからね、知り合いの鍛治師に会いに行こう」
どうやら両親の昔の知人を訪ねるらしい、初心者向けダンジョンに向かうための装備購入にしては大掛かりになったと花音と風雅は飛び始めた飛空艇の中で目を白黒させていた。
程なくして飛空艇の窓の下に巨大な鉄道が見えてきた。
「電車?」「違うっぽい?何だろう列車なんだろうけど」
花音と風雅が窓から地上を見る。
「ああ、魔導列車だね、獣人国やドワーフ国ではメジャーな移動手段だよ」
「そうなんだ」
長い線路が二列に並び地上を走る姿をぼんやり見ていれば要塞に似た浮島と街が見えてきた。
「あれが獣人国の首都だよ」
一朗が指差した先には幾つもの飛空艇が発着しているのが見えた。
「此処で鎧か服をみようね、武器はドワーフ国に行ってからね」
一朗が説明するうちに飛空艇は獣人国の発着場に着いた。
発着場から馬車に乗り換え一時間ほど走ったところで獣人国の首都に着いた。
直ぐに冒険者ギルドへ向かい滞在の知らせを家族揃って登録する。
慌ただしく流れに任せて一朗と麻里亜にくっついていくだけの花音と風雅は商会の客室に通されて漸く落ち着いて周りを見ることが出来た。
ラピス商会という商会は会長がアライグマの獣人のオーガスタで、一朗と麻里亜から用向きを聞いたあと張り切って商品を並べ出した。
制服の上に着れるようにと薄手の革を使った胸当てとガントレット、武器を収納できる革ベルトを花音と風雅、アルカートとドルチェの分を購入した。
物理防御の魔法石が着いたガントレッドはラピス商会の新製品らしく、白地に金の装飾が美しい。
胸当ても革の周囲を白地の金属が覆っていて見た目も悪くない。
麻里亜が自分のガントレッドも欲しいと言い出したりしながら、滞在時間もわずかに首都を出ると発着場から飛空艇に乗り換えまた直ぐに飛び立った。
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