第11話 ワガママ王子

 学園にも当然ながら加護を受けれる場所があるので、オリエンテーションを兼ねた本日の授業は校内加護巡りとなった。

 魔法科である以上、受けれる加護は出来るだけ受けてたくさんの魔法が使えたらいいよねっていう考えらしい。

 各グループに一枚地図を渡されて、印のある場所を回っていく。

 「そのうち浮島の中にある場所も周るべきよね」

 「そうだな」

 地図を見れば魔術棟の一階から裏庭に出た場所に一箇所印がある。

 「一番近いのはココですね」

 「じゃあ先ずはそこに向かいましょう」

 教室を出てゾロゾロと裏庭へ進んでいく。

 裏庭の一角に胸像が立っていた。

 「ここかな」「え、これ誰?」「初代学園長らしいよ」「へえ」

 などと呑気に話しながら胸像の前に六人で膝をつく。

 手を組んで目を閉じればブワリと体を空気の層が包んだ。

 やがてゆっくり空気の層が剥がれ新しく宿った力に自分たちの手のひらを見る。

 「よし、時間も少ないし次回ろうぜ」

 ワイワイとはしゃぎながら校内を周る彼らを遠巻きに見つめる目があった。


 翌日、いつもなら始業と共に教室に顔を出すゲネラル先生がなかなかやって来ないことで、ざわりと教室内がどよめいていた。

 かなり遅れて疲れた顔をしたゲネラル先生が教壇に立った。

 「あーっと、別クラスからの編入生になるんだよ、まあ本来であれば入学して直ぐの編入は認めてないんだが、今回は特殊な事情でな、例外というやつだ」

 濁しながらも嫌味ったらしい言い回しでそう言って入って来た生徒を見て舌打ちをしたのはグラツィオーソだった。

 「あの王子、我儘を押し通したのね」

 「宰相閣下が今頃泣いてそうだね」

 グラツィオーソとカランドがそう言ってゲネラル先生の横に立った生徒を見た。

 「レジェロ・リュート・クレッシェントだ、時期はずれだがよろしく頼む」

 第一王子の編入にクラス内が騒めく。

 「席と、グループは悪いが最後列のそこの高位貴族組に入れてやってくれ」

 「私たちってそんな名前なの……」

 「厄介者とかルビ売ってそうだよな」

 不満を露わにする花音たちに大股でゆっくり歩いてきたレジェロが満面の笑みを向けた。

 「よろしくね」

 「はぁ」「まあ」

 気乗りしないとあからさまではないにしろ、伝わっているのだろうがレジェロは気にするでもなくカランドの隣に座った。


 「来月だが、ダンジョン探索の授業がある、グループごとに潜って貰うから来月までにチームワークを何とかしておけよ」

 授業の終わりにゲネラル先生がそう言って教室を出て行った。

 「ダンジョン探索ねぇ、敵が出たりするのかしら」

 「恐らく学園が保有しているダンジョンだろうから、強くはない魔獣ぐらいはいるだろう」

 グラツィオーソとカランドの話を聞きながら、魔獣について調べたいと花音が手を上げた。

 「私と風雅が住んでいたところは魔獣なんて居なかったから」

 「ああ、それなら幾つか本をお持ちしますよ」

 カランドが侍従に目を向けて合図すればすぐに侍従が動いた。

 「このまま大公家に集まる?」

 「そうだな、敵が出るんならパーティー戦になるだろうし、自分たちの手札を見せ合う必要もあるだろう」

 「ではこのまま今日は大公家に行きましょう、レジェロもそれでいいかしら?」

 「もちろんだよ」

 ニコニコと笑うレジェロにグラツィオーソが溜息を吐いた。

 「なんで、貴族科から編入なんてしたの?」

 「私もね?知っていれば最初から魔法科に来たんだよ」

 「次期国王なんだから安全地帯に居ればいいのに」

 「次期国王だからこそ、今しか出来ないことをしたいんだよ」

 そんな無茶なと溜息しか出ないグラツィオーソとカランドを尻目にレジェロは朗らかに笑っていた。

 

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