第9話 学園入学

 学園の入学まではあっという間に時間が過ぎていった。

 真新しい制服に袖を通しエントランスへ向かうと、既に待ちくたびれた風雅が「遅い」と不満を口にしながら扉へと向かう。

 執事が開けた玄関扉の先には学園に通うためにと新調した四人乗りの小さめな真新しい馬車が停まっている。

 アルカートが足場を用意しサッと扉を開く、風雅が乗り込み続いてドルチェに手を差し出された花音が風雅の隣に座る。

 直ぐにドルチェが乗り込みアルカートが乗ると同時に扉を閉めた。

 アルカートが背後の御者席にコンと合図を送ると馬車がゆっくり動き出す。

 長い庭先を抜けて門を出る。

 馬車は王宮の正面にある広場を抜けて貴族街を南へ走っていく。

 商業街が朝の準備に慌しさを滲ませる中、大きな建物が見えてくる。

 立派な門を通り抜けると薄紅の花びらが舞う並木道が続き、正面に校舎が見えてくる。

 「馬車止めまで行ってから入学式の会場に向かいましょう」

 アルカートに言われて花音と風雅が頷いた。

 馬車止めに着くと、既に馬車が彼方此方に停められ生徒らしき人たちがチラホラ見える。

 停まった馬車からアルカートがサッと降りドルチェが続く、アルカートに手を差し出された花音がアルカートに支えられながら馬車から降り、次いで風雅が降りた。

 「カノン!フーガ!おはようございます」

 鈴を鳴らしたような声に前を見ればグラツィオーソとカランドが揃って駆け寄って来た。

 「二人ともおはよう」

 「おはよう、カノン、フーガもおはよう」

 「おはよう」

 口々に挨拶をしながら微笑み合っているとグラツィオーソの侍女らしき女性がグラツィオーソに耳打ちをした。

 「そうね、会場に向かいながら話をしましょう」

 侍女が先立って案内する後ろをゾロゾロと付いて歩く。

 真新しい制服のブレザーは皆揃って濃赤色をしている。

 「魔法科は今年も志願者が限られているからクラスはひとつなんですって」

 グラツィオーソが人差し指を立てる。

 「じゃあ皆同じクラス?わぁ離れたら寂しいなって思ってたの!良かった!」

 「ひとクラスしかないからクラス替えもないし、三年間よろしくな」

 「カランドが居てくれるのは俺も心強いよ、よろしく」

 そんな風に和気藹々と会話を楽しんで歩く私たちの前に突然大きな声が会話を遮った。

 「ひどいじゃないか!」

 紅茶色の髪をふわりと揺らせたレジェロが涙目で立っている、真っ白なブレザーが目に眩しい。

 「魔法科に行くなんて私は聞いてないよ!」

 「聞かれなかったからなぁ」

 そう嘯く風雅をレジェロはキッと睨んで隣のグラツィオーソとカランドを見る。

 「抜け駆けなんて!ずるいぞ」

 「人聞きの悪い……知らなかったのは気の毒ですが、自分からお聞きにならなかったのでしょう?」

 「そうだが……」

 「レジェロ、おはよう」

 唇を噛むレジェロに花音が挨拶をすればレジェロが花音に目を向ける。

 「制服、良く似合ってるわ、同じ学園だし話す機会も少なからずあるでしょう、三年間よろしくね」

 「あ、ああ!そうだね!うん、よろしく頼むよ」

 花音の手を両手で握りながら詰め寄るレジェロを風雅が身体ごと割り込んで引き離す。

 「レジェロ様は式で挨拶をされるんでしょう?行かなくて大丈夫ですか?」

 カランドが誘導するように言いながらレジェロの後ろに控えている護衛に視線を送る。

 レジェロは護衛や侍従にうながされながら立ち去っていった。


 「どの世界でも入学式とかってあんまり変わらねえな」

 「えらいひとの話が長いのもね」

 準備された席に受付から案内され座った風雅と花音はヒソヒソと話す。

 周囲を見れば真新しい制服姿の生徒、壇上では学園長が話している。

 学園長の挨拶が終われば今年は王族から第一王子が入学するからと言って壇上にレジェロが挙げられ、入学の意気込みみたいなものを話している。

 中身があるようなないような話が終われば共通する学内の注意事項が述べられ、一時間ほどで式を終え各クラスへと向かう。

 教室は学科ごとに棟が分かれていて木造の赤い屋根がついた校舎に向かう。

 上のクラスになれば色々な選択科目が増えるらしいが、花音と風雅の入る一年生はまだひとクラスしかなく、教室に着けば一斉に人の目が二人に向かった。

 アルカートが直ぐ空いた後ろの席を確保し、ドルチェに連れられ席に座る。

 花音と風雅の両脇にドルチェとアルカートが、前の席にグラツィオーソとカランド、その侍従と侍女が座る。

 遠巻きに見つめる生徒たちがコソコソと話す声が聞こえてきた。

 「勇者の……」「噂の」などどうやら向こうも此方の出方待ちに見えて花音と風雅は居心地が悪い。

 そのうち、教師がやってきて教室は静かになった。

 

 「一年間君たちを担当するゲネラルパウぜだ、よろしく」

 モノクルをかけた青い髪の男性教師が教壇に立ち教室を見回す。

 「暫くは魔術の基礎的な授業とグループワーク、それと君たちには冒険者登録をしてもらうことになる」

 冒険者登録と聞いて風雅が目を輝かせる。

 「魔術書やら素材やらどうしても魔法科は外に出なきゃならんからな」

 冒険者登録は一カ月後にクラス全員で今学園が建っている浮島の下、王都にある冒険者ギルドで行うらしい。

 それまでにグループを幾つか作らなければならず、それが一年間行動を共にするためのパーティーになる。

 直ぐにグラツィオーソとカランドが花音と風雅を振り返り、二人の連れた侍従と侍女を覗く六人がひとつのグループとなった。

 グラツィオーソとカランドの侍従と侍女は既に学園を卒業しているため、グループの中には含められない。

 アルカートとドルチェはその辺りのことも考えたのだろう、花音たちと同じ年齢で入学しているため侍従侍女であり同級生となる。

 難しい話もなく、グループ分けだけ行い今日は解散となった。

 

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