第8話 来客

 アルカートとドルチェが花音と風雅に付き添うようになって漸く花音と風雅に周囲を見る余裕が生まれ始めた。

 わからないこと知らないことを直ぐに相談出来る相手が近くにいるという安心感もあり、花音と風雅が二人に心を開くまで時間はかからなかった。

 「まあ、マリア様もイチロー様も感覚派ですからね、特に先に頭で考えるタイプのフーガ様には言葉が足りなく感じるのでしょう」

 「言葉が足りなさ過ぎるのよね」

 花音の部屋のテーブルセットに腰掛けながら四人で書類を広げている。

 学力という面では日本に居た時と今は違いが少なく学園に行ってからの心配はないらしいが、魔法科の授業については全く違う。

 殆ど詰め込んだだけの花音と風雅に一般的な魔法知識をアルカートが教えながら学園へ行くための準備を整えていく。

 「獣人ってこの世界だと普通に居るの?」

 「そうですね、帝国のような人族至上主義という古い体質もありますが、帝国より西側は多様な人種が住んで居ることもあり、我が国なんかは人種には寛容だったりします」

 「もっと西にいけばエルフ族が居るんだけと、エルフはエルフでエルフ族至上主義だから」

 「東側は?」

 「東に行けば行くほど女神の加護が強く、翼を持つ人々が強い権利を持っていますね」

 花音と風雅が少しずつこの世界を知っていく度にアルカートやドルチェは嬉しそうに笑う。

 「帝国から東側は女神の加護が西側は精霊の加護が強いんだよね?」

 花音が確認するように聞けばアルカートが頷く。

 「エルフやドワーフ、獣人は西側に国を建てています、対して東側は聖国のような翼人族が多く、人族のみの国も多くあります」

 「なんだろう、そこだけ聞いてると西側の方が生きやすく聞こえる」

 「間違いではないですよ、実際西側の方が人口も多いですから」

 ドルチェが人差し指を立てて風雅に頷く。

 そうこうしているうちに正午近くになっていた。

 「今日は午後からアダージョ侯爵令嬢とフォーコ伯爵子息がいらっしゃいます」

 「あ、パーティーでお話した二人ね!」

 「じゃあ早めに書類片付けて出迎えの用意しなきゃだな」

 風雅は書類の束を袖を捲りながら片付け始めた。

 

 昼食後、美しく手入れされた邸の庭園にある四阿にお茶を用意してもらい、花音と風雅は客人を待った。

 程なくしてアルカートに案内されたグラツィオーソとカランドが四阿にやって来た。

 「ごきげんよう」

 「こんにちは」

 挨拶を交わし、それぞれが席に着く。

 花音の背後にドルチェが風雅の背後にアルカートが控えた。

 「素敵なタウンハウスね」

 「私たち、何にも聞かされてなかったから初めて見た時は驚いたのよ」

 改めて引っ越しの祝いを受け、ひと段落つけると話題は学園のことに移っていく。

 「二人は魔法科に行くのか、貴族科ではなく?」

 「カランドたちは貴族科なのか?」

 「そのつもりだったけど、お二人が魔法科に行かれるなら私も科を変更しようかしら」

 「ああ、僕も変更しよう」

 「簡単に変えていいの?」

 花音と風雅に合わせ科を変えるという二人に花音が驚いて問いかける。

 「元々貴族科なんて他に学ぶものがないから行くだけだからね」

 「中位程度までの貴族なら伝手作りや少しでも良い結婚相手をってね、私やカランドはその辺りの心配も要らない立ち位置だから、お二人と一緒の学園生活の方がずっと学園に通う価値があるのよ」

 得意げにそう言ってのけるグラツィオーソはとても頼もしい。

 その後は学園について花音や風雅が知らない話をあれこれと教えて貰い、二週間後の入学までが楽しみに思えて来た。

 「俺たちが居たとこはさ、魔法なんて無かったし加護とかもなかったんだよな」

 「そうなんですの?」

 「うん」

 「折角、魔法が使えるんだ、それを深く知りたいって思うよな」

 花音と風雅がニシシと笑えば、グラツィオーソとカランドも笑いながら頷いた。

 「そういえば家名が決まったの」

 「元の野原ってのがこっちでは発音しにくいらしいんだよな、んでフィールドって直訳だけども」

 「良くはわからないけど、フィールド大公家になるのね」

 「そうらしいの」

 のんびりとテーブルに並べられた菓子を食べながら雑談を続け、気がつけば二つの太陽が傾き影が長く伸び始めていた。

 遅くまでありがとうと帰っていくグラツィオーソとカランドを見送り、花音と風雅は近く入学する学園生活に思いを馳せた。

 

 

 

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