第7話 大公邸と新しい出会い
王宮を中心に円形に街並みが広がっている。
中心に近いほど高位貴族が住む邸が建ち、外側に商業街と学園や神殿などが達並ぶ。
さらに外側は森になっており、南側から地上に降りるためのステーションがあるらしい。
王宮や貴族街がある浮島と地上は飛空艇で繋がれていて、地上には各ギルドを始めとした施設に平民街がある。
その浮島の東側、王宮から程近い場所に大きな邸が建っていた。
黒地の壁に深い青の屋根、金色の装飾が重苦しい邸を前に花音と風雅は口を開けっ放しにして呆然と馬車から邸を見上げていた。
「でかすぎじゃね?」
「そうねえ、私も一朗くんもこんな広さはいらないって言ったんだけどね」
「大公邸が小さいのも外聞が良くないんだって、貴族ってめんどくさいよね」
「まあ向こうと違って掃除したり洗濯したりはメイドのお仕事だし、広いってだけだから」
そうだろうが、慣れない生活を一カ月過ごして漸く家族でまたゆっくり住めると思ったところでこの広さは戸惑いしかない。
引っ越しの荷解きなどはメイドが率先して片付けてしまう上に、荷物自体が少ないこともあり三日もすればすることは無くなり、入学準備に手を取られていた。
ブレザータイプの制服は男女共にブレザーの色で科がわかるようになっている。
「見た目は可愛いのよねぇ、魔法科はこの濃い赤で緑が普通科だっけ?」
「そうそう、騎士科が青で貴族科が白だったはず」
制服を合わせながら花音と風雅は、事前に受けた説明をお互いに確認し合う。
「花音は良く似合ってるが、俺は赤って似合わなくないか?」
風雅が姿見を見ながら眉を寄せる。
「花音の黒髪に赤いこの上着は映えるけどな、俺はこの髪だからなぁ」
紅茶色の髪をくしゃりと掻いて風雅は苦笑した。
制服の確認が済んだ頃、両親に呼び出され麻里亜の執務室に向かった。
転勤というよりは転職なのではないのかと思っているなど口に出来ないが、実際には向こう側と此方側が微妙に繋がれていたらしく、向こうに居る時から此方側へずっと指示を出していたらしい。
そのか細い繋がりは女神との約束として麻里亜と一朗が此方へ帰ってきたと同時に切れたらしい。
おかげでスマートフォンは相変わらず圏外だし、そろそろ充電もなくなるだろう。
そんな麻里亜の執務室には先客が二人居た。
執務室の壁際に立つ二人に花音と風雅の視線が向かうと二人は軽く頭を下げた。
「アルカートとドルチェっていうの、花音ちゃんと風雅ちゃんの侍従侍女兼護衛ね」
「え?ご、護衛?」
戸惑う二人に麻里亜は少し困ったように笑った。
「慣れないと思うけど、そういうものだと思ってね」
「慣れないよ?無理だよ?」
「侍従とか侍女とかってのも良くわかないんだけど、母さん説明!」
腕を組んで風雅が麻里亜に詰め寄る、それに応えたのは傍らに立っていたアルカートだった。
水色の背中につく長い髪を後ろにひとつまとめた風雅より上背のあるアルカートは胸に手を当て一歩前に出ると風雅に一礼をした。
「それは私から説明させていただきます、この国の貴族は幼い頃から使用人が付けられていることが大半で、特に高位貴族ともなれば複数人の世話役が置かれます、学園へは各々一人世話役を連れて行くことが許されており、雑務や身の回りのお世話それと一番大事なことは護衛としてお守りすることがほぼ義務付けられています」
「義務付け?必ず、連れて行かないと行けないのか?」
「そうねえ、まあこの世界が物騒っていうのもあるしそれも一つの雇用でもあるのよ」
花音はアルカートの半歩後ろに立つ女性を見た。
焦茶の髪はふわふわとしていて二つに結んでいる、髪の隙間から厚みのある耳がひょこと覗いている。
「ドルチェは犬の獣人です、私やドルチェは平民ですのでお二人に付いて学園へ行くことで学園で学ぶことにもなるのです」
アルカートの言う話は風雅にも花音にも半分も伝わらなかった。
階級制度のない世界から来たからこそ、学ぶ機会が不平等だとか考えもしないし護衛なんて必要なのかもわからない、ただ日本ではない分身の危険があるのだと言われればそこは頷くしか無い。
「よく、わからないけど二人は私と風雅と一緒に学園に行くのね?」
「はい」
「うーん、まあでも決まってるなら仕方ないか、アルカートだっけ?よろしくな」
「はい、フーガ様」
「ドルチェさん、よろしくね?」
「ドルチェ、で。カノン様よろしくお願いします」
四人の固い顔合わせを麻里亜が嬉しそうに見ていた。
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