第6話 帰還祝いと歓迎パーティー

 こちらに来てから一カ月、明日からは王宮を出て王都にある大公邸へと移る。

 一カ月かかった理由は麻里亜が慣れた日本の便利な暮らしにより近い状況にするため改装を行なったからだとか。

 その甲斐あってかなり快適な住まいになっているらしいが、今日は王宮住まいの最終日で且つ両親の帰還祝いと花音と風雅の歓迎のためのパーティーが王宮にあるホールを使って開かれる。

 花音は白地に濃い緑をアクセントにしたカクテルドレスに風雅は同じ色合いのタキシードに着替えさせられていた。

 「堅苦しい」

 「ちょっと窮屈よね」

 お互いにめかし込んだ衣装を見ながら苦笑していると、これでもかと着飾った麻里亜と騎士服に身を包んだ一朗が合流した。

 「今日は花音ちゃんと風雅ちゃんのお披露目も兼ねてるからねえ」

 「いやあ、もうね馬車の数も凄いよ?まだずっと並んでるんだって」

 と、ほのほのと気の抜けた締まりのない笑顔で一朗が呑気に話す。

 「態々そんな大っぴらにやらなきゃならないのか?」

 風雅がため息混じりに問いかけると、呼びに来たのであろうレジェロが控室の入り口からそれに応えた。

 「仕方ありません、お二人とも伝説の英雄の子であり王族の一員ですから」

 「どれも俺たちの知ったことじゃあないんだけどな」

 風雅も花音も両親の過去を持ち出されることも見ず知らずの国の王族にされていきなり責任を負わされることも、実のところまだ飲み込めてはいない。

 そういう嫌悪感を隠さない風雅にレジェロは苦笑しながら、「そろそろ参りましょう、皆さんお待ちになっています」と四人を促して会場へと連れ出した。


 シャンデリアが眩く煌めき、豪華な刺繍の入ったカーテンが壁を覆う。

 高い天井には神代の伝承が天井画として描かれ、それを縁取る石膏の柱には精密な彫刻が為されている。

 荘厳な音楽を奏でるオーケストラに花音と風雅は唖然と目を見張った。

 混雑を避けるため王族と同じ入場口に案内され、会場より少し高い位置にある控えの間から会場を覗く。

 「なんかこういうの、童話モチーフの映画なんかで見たことあるけど」

 「実際に目の当たりにすると派手過ぎて引くわ」

 そんな二人の気も知らず、会場にアナウンスが流れ国王陛下と王妃が入場したのが見えた。

 会場の拍手が聞こえ、ややあってレジェロが二人に手を振り先に会場へと向かった。


 「十五年ぶりに帰還した我が妹マリアと救国の勇者であるイチロー、そして二人の子であるフーガとカノンだ」

 国王の挨拶の中で紹介を受けながら会場へと入る。

 麻里亜は慣れたようににこやかに手を振り、一朗はヘラヘラと笑いながら時々知り合いを見つけては手を振っている。

 花音と風雅は集まる視線に緊張が高まる。

 花音と風雅が紹介される中、二人が双子であると国王が告げると会場が響めき、歓声が上がった。

 びっくりする二人に耳打ちしたのはレジェロだ。

 「この世界には月も太陽も二つあるでしょう?だから双子は神聖視されているんですよ」

 「双子なだけだが?」

 「しかも我が国で王族の双子は建国以来初めてですからね」

 ホクホクとした微笑みを浮かべるレジェロに風雅は胡乱げな視線を送るが、会場から向けられる視線は否応にもレジェロの言葉が真実だと伝えてくる。


 ひと通り紹介が終われば両親はあっという間に人並みに攫われて囲まれてしまった。

 一朗に抱きつきながら泣いている中年の恰幅の良い男性は聞けば前騎士団長らしい。

 遠目に両親を眺めながら花音と風雅はゆっくり壁際に寄り、騒動を遠巻きに見るつもりだった。

 「カノン様とフーガ様、ご挨拶させていただきます、私アダージョ侯爵家が一子グラツィオーソ・アダージョと申します」

 「僕はカランド・コン・フォーコ、フォーコ伯爵家第一子です」

 壁に凭れる二人に年齢の変わらぬ二人が話しかけてきた。

 グラツィオーソと名乗る少女は鮮やかな赤の強いピンクの髪をふわりとウェーブさせ、ハーフトップで纏め上品な雰囲気を醸し出している、赤い瞳が兎のようだと思っていれば、長い耳がヒョコと跳ねた。

 カランドと名乗った少年は銀髪にグレーの瞳を持った一見怜悧な印象を受けるが、朗らかな笑みがそれを打ち消し人当たりの良い空気を醸し出している。

 「レジェロ様から伺いました、まだこちらに慣れていないそうでご無理のないよう、貴族家の子息令嬢を代表し本日は私たち二人がご挨拶をさせていただきますね」

 「よ、よろしく?」

 レジェロの名前を聞いてチラッと二人が遠くに居るレジェロに視線をやれば、バチンッと片目を瞑り良い笑顔が返ってきた。

 何故かすごくイラッとした。

 「彼のああいうところ、たまにイラッとするのよね」

 ため息を吐きながらグラツィオーソが言えばつい二人も同意してしまい、四人は顔を見合わせて吹き出した。


 暫くすれば会場は落ち着き始め、同時に人々の興味が花音と風雅に向かい出す、不躾な視線に不快感を持つより早くグラツィオーソとカランドが上手く人々の視界から二人を遮ってくれていた。

 おかげで戸惑い以上の不快感を得ることなくパーティーは無事終了した。

 グラツィオーソとカランドには落ち着いてからまた会う約束をしてその場は解散となった。

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