第5話 加護
翌日早朝から両親をとっ捕まえて事情の説明を求めたが、そういう約束だったからというだけで、欲しい答えは出て来なかった。
ならばと自分たちだけでも元の家に帰りたいと詰め寄ったが「今すぐは無理かな、どうしても帰りたいなら聖国で女神に会って取引かなぁ、僕らの場合は十五年後に戻ってくることが条件だったんだよねえ」などと言い出し、結局のところ暫くはこの世界で暮らしていくしかないという結論に至った。
因みに聖国へは中央の帝国を抜け東へと旅するしかないらしいのだが、ここ数年は没した国があったり内乱があったりとかなり帝国より東は治安が悪いらしく、ロクにこの世界の知識もない二人が向かえる状況ではないらしい。
「それって帰れないのとかわらなくない?」と花音が言えば麻里亜はフフと笑いながら「飛空艇と戦って勝てる力があれば大丈夫よ」と何の参考にもならない返事が返って来た。
それから二週間、王妃が用意してくれた教師陣に習いながらある程度この世界について学びながら、大公子大公女としての礼儀作法も何とか形になった頃、二人は王宮にある祈祷室で初めての加護を受けることになった。
加護を受ければ魔法が使えるようになる、現代日本ではあり得ない話だがそれはそれとして花音も風雅も内心楽しみにはしていた。
「属性?ってのも今日わかるんだっけ?」
「らしいな」
花音と風雅がワクワクする以上に期待をしているのは周囲の者たちだ。
勇者の子どもだからと過度な期待を胸に今日を楽しみにしていたのか、周囲は朝からソワソワと落ち着かない。
コンコンと軽いノックの後、返事の前に扉が開かれて花音は眉を顰めた。
「おはようございます、お迎えに来ました」
キラキラと輝くような笑みを浮かべたレジェロを花音と風雅がジトっと睨め付ける。
「一応女の子の部屋だからさ、返事してからドア開けてくれないかな」
「え?うわっ!す、すいません!気がはやってしまってつい……」
しどろもどろになりながら頭を勢いよく下げるレジェロに風雅が釘を指した。
「というより、アンタは花音の部屋に近づくな」
「ちょっと風雅!」
「この国の成人年齢は十五歳だろ、アンタも花音も成人してるってことだから、全部言わなきゃわかんないか?」
止めようとする花音を押し留め風雅は毛を逆立てるようにレジェロを威嚇する。
「そ、そうだね、うん、私が浅慮だったよ」
素直に頭を下げるレジェロに風雅は鼻をふんと鳴らして花音の手を取り立ち上がった。
「じゃあ加護とやらを貰いに行こうぜ」
王宮にある祈祷室は然程大きくはないものの、柱の彫刻や置かれた椅子、真っ白に輝く女神像とその前に置かれた杯、パイプオルガンのような楽器とどこを見ても豪奢で繊細な造りになっていた。
赤いカーペットを進み女神像の前で言われた通りに膝を付き手を前で組む。
目を閉じればふわりと体を空気の層が包んだような柔らかな感覚が襲った。
「回復?ヒール?水なんだ?」
「加速と、これは風の刃みたいな……なるほど?俺は風か」
頭に自然と溢れてくる言葉と知識に驚きながらも自らの内側から湧き出てくる不思議な力に花音と風雅は知らず頬を紅潮させた。
やがて体を包んでいた空気の層が霧散すると、二人はゆっくり目を開けた。
「無事、加護を得られたようですね」
穏やかな微笑みを浮かべたロップイヤーの神官が二人を寿ぐ。
立ち上がった二人は神官から次に庭園にある噴水に向かうように伝えられた。
庭園へはレジェロが率先して案内をしてくれた。
「こちらの庭園は王家の者しか入れないんです」
案内された庭園は整った他の庭園とは違い、林のように木立が並び緑の匂いが濃い場所だった。
自然というには人の手が入った気配のある石畳の小道を歩く。
両脇には低木に白い花が咲いている。
微かに葉ずれの隙間から水音が聞こえてくると小道の先に小さな泉と中央に水が噴き出す噴水が現れた。
「どうぞ」
レジェロに促され花音と風雅が泉の縁で膝を付き両手を組む。
目を閉じれば再び体を空気の層が包んだ。
王宮で手に入る加護はこれで全てらしく、明日からは今までの勉強に加えて初歩的な魔法についての講義も加わることになった。
「えっと、私が水属性で回復と水球、水の盾かな」
「俺は風属性らしい、加速と風の刃に剛腕……」
「剛腕?」
両親の部屋で貰った加護について報告を兼ねてこれからの相談に来ていた。
「風雅ちゃんは一朗くんに似たのかしら、加速や剛腕があるなら騎士にもなれるわよ」
「そうだねえ、魔法の適性が高いのは二人とも麻里亜さんに似たんだろうねえ」
呑気に答える両親になるほどと花音も風雅も身に宿る慣れない力にソワソワとしている。
「あ、なら学園はどうしましょう?今のところ普通の貴族科になってるけどちゃんと勉強するなら騎士科や魔法科に変えれるわよ?」
「そういう大事な話はもっと早くにしてよ!学園ってそんな感じなの?」
近々入学すると言われるだけ言われていた学園の話がひょっこり出て来たことに花音は目を見開く。
「あ、なら俺魔法科がいい」
「私も魔法科がいい、折角使えるんだからちゃんと習いたい」
「風雅ちゃんは騎士科じゃなくていいの?」
「俺、体育会系って苦手なんだよ、母さんなら知ってるだろ」
久しぶりに肩肘を張らない会話をしながら近く入学する学園では魔法をより深く知りたいと思い始めていた。
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