第4話 従兄弟たち
客室に運ばれた食事をとり、両親へ「いい加減ちゃんと説明して」と伝言を頼んで、客室に数冊申し訳程度に置かれた本を手にした。
「これ、読めるよな」
「読めちゃうね」
どう見ても知らない形象文字を目に、内容が問題なく頭に入ることの違和感に二人は頭を抱えた。
夢というわけではないのは理解しているものの、連続する不可思議に感情は置いて行かれたまま。
先程のいきなり罵声を浴びせてきた少女のように、いきなり敵意を剥き出しにされても、困るわけで。
警戒するのは仕方がない、理由もろくに話さない両親の能天気さが恨めしいところ。
本に書かれた内容は先に王妃から聞いたこの世界についての話が大半で、更に深く世界の始まりの伝承なんかが書かれている。
他には竜を倒した勇者と勇者を支えたお姫様のラブロマンス、これは恐らく自分たちの両親の話だろうと二人は眉間を押さえた。
コンコンと控えめなノックが静かな客室に響いた。
「はい?」
「レジェロです、少しお話がしたくて」
二人は顔を見合わせるとどちらともなく頷いた。
「どうぞ」
カチャリと控えめな金属音を鳴らしてドアノブが回り、ゆっくり重い扉が開くと、先程顔を合わせたレジェロとその足元にレジェロのミニチュア版がひょこりと顔を出した。
「先程はすまなかったね、紹介が遅れたのだけど、第二王子となる弟のトレモロだよ、トレモロお姉さんたちにご挨拶を」
ととと、と小走りに部屋に入ったトレモロがぴょこんと頭を下げて「はじめまして、クレッシェント第二王子トレモロ・リュート・クレッシェントです」とニコリと笑った。
「初めまして、花音です」「風雅だ」そう名乗るとキラキラと瞳を輝かせた。
「カノン様とフーガ様!勇者の子どもたち!」
あ、そういう?と二人は困ったように扉の近くに居たレジェロを見る。
「勇者と姫の伝説はこの国の子どもたちの憧れだから」
「私たちは何も知らないんですけどね」
花音の言葉にレジェロは少し考えて、ならばと手を打った。
「私が答えれることならば何でも聞いてください」
「特にはないかな、俺も花音も何がわからないのかがわからないし、ここは俺たちが知る常識とは何もかもが違うみたいだからな」
実際には状況についていくのがやっとなだけだが。
「私たちとしては早いとこママかパパとっ捕まえて、私と風雅だけでも前の家に帰れないのか相談したいかな」
「え?」
帰りたいというのが予想外だったのかレジェロは端正な顔を崩して驚きに目を見張る。
「え?な、何故?」
「そりゃあ、アンタもいきなり異世界とかに連れて来られて放置されたらわかるんじゃないか?」
風雅が呆れ混じりに言えばレジェロは明らかに気を落とした様子を見せた。
「オスティナートのことなら、私から謝罪します」
「そういえば、彼女は何故いきなり私を嫌っていたのかな?初めて会うし嫌われる理由が思い当たらないのよね」
「理由なんてどうでもいいよ、花音に害のあるやつなら俺が」
「待って待って待って。オスティナートはずっと王族で唯一の姫だったから、注目が自分以外に向く事に拗ねているだけなんだ」
敵意を隠さない風雅に慌ててレジェロが取り繕う。
「そんな身勝手で傲慢な理由なら尚更許せないんだが?」
「風雅、それくらいにしなよ、相手は子どもじゃない」
「子どもなら誰彼構わず喧嘩を売っていいわけじゃないさ」
「喧嘩?」
心配そうに眉尻を下げたトレモロが花音の側に寄ってきた。
花音はトレモロを抱き上げ膝に座らせると「大丈夫よ」と安心させるように微笑んだ。
それを見たトレモロが目を輝かせ、レジェロが頬を染める。
そんなレジェロを風雅が鋭利に見つめた。
「と、兎も角私やトレモロ、父と母もあなた方を歓迎しているので、もう少しこの国を知ってもらいたいと思ってるんです」
レジェロが早口に言い募るが、花音と風雅は困ったように顔を見合わせるばかり。
「正直さ、急にこんなとこに連れて来られてロクに説明もされてないから、まだ俺も花音も混乱してるんだよ、明日にでも父さんと母さんから話聞いて、それからだな」
「状況の説明くらいして欲しいし、二人ともここに着いてから顔も合わせてないから、見かけたら顔を出すように言ってくれない?」
「わかった」
遅くなるのも悪いからとレジェロはトレモロを連れて客室を出た。
花音と風雅は窓から見える二つの月を見ながら長いため息を吐いた。
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