第3話 頼りになるのはやっぱり相方

 案内された部屋から直ぐに風雅は花音の部屋へとやって来た。

 紅茶を用意してくれた壮年のメイドに礼を言って、慣れない豪奢なソファに二人で座り込んだ。

 「とりあえず今わかってる事から整理しようぜ」

 鞄に入れていたメモ帳を開いて、王妃に聞いた話を箇条書きにメモする風雅の手元を花音も見ていた。

 「学園ってのは高校みたいなもんなのかな」

 「話の中に出て来た冒険者とかいうのも気になるわ」

 「竜もいるんだしな、魔法も覚えれるとか言ってたよな」

 「パパが光の玉を出した時はびっくりしたわ」

 アレコレと気になったことや重要らしいことを口に出していけば、自然と頭の中が整理出来てきた。

 暫くはこの世界のことを知るために教師もつけてくれるらしいし、家族が離れ離れになるわけでもない。

 そう結論づけると、二人の興味は俄然『魔法』というところへ行き着く。

 簡単に受けた説明では、教会や神殿、泉など特定の場所で女神やら精霊やらからそれぞれ適応した加護が得れる。

 その加護が持つ効果が魔法ということらしい。

 今居る王宮には王族や王宮に住まう人たちが祈るための祈祷室と、庭園の一つにある水場の噴水で加護が受けれるらしい。

 明日、その二箇所に案内をしてくれると言われている。

 魔法にも興味はあるし、異世界転移ものや転生ものに慣れた現代人的な感覚の二人は当然冒険者にも興味がある。


 落ち着いてきたところで夕食の用意が出来たとメイドが迎えに来たので、二人はメモを仕舞いメイドに案内されながら長い廊下を歩いた。

 「この先に食堂ございます」

 メイドが片手を差し出し、二人に先を譲ろうとした瞬間、何かが横からすっ飛んできた。

 「あなたね!異世界から帰ってきたって言うのは……ふぅん、なんだ、大した事ないじゃない」

 慇懃な物言いで花音を見据えるのは紅茶色の髪を縦ロールで整え、ピンクのリボンがたっぷり使われたドレスに身を包んだ少女だった。

 「うわっ縦ロールだ」

 「マジの縦ロールとか初めて見たわ」

 花音と風雅は目の前の少女に対する感想を口々に言っているが大半は自分たちが実際に目にするには滅多にない、見事な縦ロールに言及している。

 少女はカッと顔を赤くしてビシッと音が鳴りそうなくらいの勢いで花音を指差した。

 「あんた!田舎者がいい気にならないでよね!ワタクシはあなたなんか認めないから!何が勇者の娘よ、どうせ詐欺か何かなんでしょう、よく見れば品のない顔をしているもの!」

 地団駄を踏みながら大声で叫ぶような言葉に耳を押さえて風雅がため息を吐いた。

 「で?ちんちくりん、お前はなんなの?花音に喧嘩売るなら俺が買うけど?」

 高い位置から見下ろしながら凄む風雅に少女がビクッと肩を跳ね上げた。

 「こら、オスティナート」

 剣呑な雰囲気を凛と通るテノールの声が制した。

 「君たちが私たちの従兄弟だね、私はレジェロ・リュート・クレッシェント、君たちの従兄弟でこの国の第一王子だよ」

 涼やかに笑みを浮かべて現れたのは金糸の髪に明るい琥珀色の瞳の少年だ。

 風雅は花音の半歩前に出て警戒心を露わにする。

 「この煩いのがオスティナート、第一王女で十三歳、もう一人第二王子にあたる六歳のトレモロというのが居るんだけど、トレモロは後で紹介するよ、あ、私は君たちと同じ歳になるね、それよりオスティナート、先に王妃殿下から注意されたろう?」

 現れるなり場を制するように話を始めたレジェロと名乗った王子はオスティナートを謝罪させるべく嗜めている。

 「ねえ」

 花音が頭一つ高い風雅の背後から顔を出して話に分け入る。

 「食事の前にすごく疲れたから私戻っていいかな」

 「俺もこんな雰囲気で飯なんて食えねえし、戻るか」

 花音の背に手を当て、促すように来た道を戻ろうとする風雅を慌てて引き留めたのはレジェロだ。

 肩に手をかけて引き留めるレジェロに風雅の鋭い視線が突き刺さる。

 「待って!待って!」

 「花音を虐めるやつと飯なんか食えねぇから」

 レジェロの手を払い除け、風雅は花音を庇うようにしながら廊下を戻り歩き出す、オロオロと状況が飲み込めず困った風に風雅とレジェロを見比べていたメイドに花音が声をかけた。

 「部屋に、夕食を持ってきてもらうことって出来ますか?」

 「は、はい、出来ます、お部屋にお食事をお持ちしますね」

 そう言ってメイドは走るような早歩きで近くにあった階段を降りて行った。

 「従兄弟、ね」「従兄弟ねぇ」

 花音も風雅も頭では理解していても現状に感情はついていけていない。

 いきなり罵声を浴びせてくる相手が例え子どもだとしても警戒心を前面に出してしまう。

 「帰りたい」「まあな、明日にでも父さんと母さんに話しようぜ」

 ぽそぽそと二人にしか聞こえない距離で話をしながら二人は後ろを一度も振り返ることなく客室に戻った。

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