第6話 父
校舎裏で証拠動画を確認していたら、いきなり知らない女子が話しかけてきた。
綺麗な長い黒髪と黒い瞳。
鼻筋が通っており、非常に整った顔立ちの美少女だった。
うち高校の制服を着ているが、その顔を学校で見たことがない。
更に言うならスタイルが抜群だ。
「えーと、どちら様ですか?」
「これ、要る?」
「え?」
そう言って女子が俺に見せてきたのは、伊川が俺を殴っている場面を写真としてスマホに収めたものだった。
「君、いじめられてるんでしょ。で、多分反撃を考えてる」
「何の話だか」
「別に他言するつもりはないよ。写真、要らないなら要らないで削除するし」
「……一応、もらってもいいですか?」
「ん。じゃあこれ、私のラ◯ンアカウント」
俺はメッセージアプリで女子生徒を登録し、写真を受け取った。
今は一つでも反撃の材料がほしい。
どこの誰かは知らないが、それをタダでくれるならもらおう。
「じゃあね」
「ああ、どうも」
もう話は無いと言わんばかりに立ち去ってしまった女子生徒。
……名前を聞きそびれたな。
あ、そうだ。メッセージアプリのアカウントで名前分かるじゃん。
「
俺は謎の少女に首を傾げつつも、その場を後にすることにした。
一応、今日は神成さんに生徒会の手伝いを頼まれてきたわけだからな。
ここで顔を生徒会室に顔を出さずに帰るのは不自然だ。
本当は行きたくないけどね!!
生徒会室に向かうと、神成さんがドアを開けて俺を迎えた。
「お、遅かったな、正宗」
「……少し寝坊しちゃいまして」
白々しく俺を迎える神成さん。
その顔はどこか不安そうで、冷や汗を掻いているように見える。
ああ、この人の顔を見るとイライラする。
でもより確実な証拠を集めるためには、我慢せねばならない。
俺は極力いつも通りに振る舞うのであった。
数日後。
「ぜはあ、ぜはあ、し、死ぬ……ッ!! 死んでしまう!!」
「おおー!! まさか十日足らずでレベル10になるとは思わなかったのじゃ!! しかも小鬼はおろか大鬼まで倒すとは!! 流石は旦那様なのじゃ!!」
俺は黙々と証拠を集めながら日々異界で命がけのトレーニングをしていた。
小鬼であれば二、三匹まとめて相手にできるようになってきたところで今日は小鬼以上の大物に遭遇してしまった。
背丈に関しては俺よりもデカイ。
二メートルはあるであろう身長と筋骨逞しい肉体の二本角の大鬼。
その手には何かの生き物の骨を削って作ったかのような棍棒が握られており、たった一振りで周辺の木々を薙ぎ倒した時は流石にビビった。
「もう大鬼とは戦いたくない……」
「くふふ、よほど怖い思いをしたのじゃな。よしよし、妾が慰めてやるのじゃ♡」
俺は真白に頭をナデナデされながら、異界から自分の部屋に戻った。
それから風呂に入り、真白の作った食事を食べて自室のベッドに寝転がりながらスマホを確認する。
遊ぶわけではない。
「おお、また凄いのが撮れたな」
「んん? 何を見ておるのじゃ?」
「神成さんと伊川、あと何人かのセフレが生徒会室で乱交してるとこ」
「むむ。妾、乱交モノは好かぬのじゃ。一対一の純愛イチャラブが好きなのじゃ」
俺はあれから何度か神成さんに呼び出されることがあった。
本当に生徒会が忙しくて呼んだのか、それとも伊川の命令だったのか。
それは分からないが、学校に行ったら毎度伊川が待ち伏せていて金を取られているので、偶然ではないだろう。
せっかくのチャンスを利用しない手は無いと思い、俺は監視カメラを通販でポチった。
カメラの細かい設定に手こずったが、いつの間にか機械類に強くなっていた真白が代わりにやってくれたので本当に助かっている。
その結果、生徒会で行われている情事を赤裸々に撮影することができた。
もうね、それはもう沢山。
「ふーむ。やはり何度見比べても旦那様のイチモツの方がデカイのじゃ」
「どこ見てんの、真白」
「いや、のう? 見たところ交尾も雑というか、目の前のメスを孕ませるという気概を感じぬというか。ただ快楽を貪っておるだけじゃな。今の旦那様ならば許嫁を寝取り返せるのではないかの?」
「冗談でも嫌だ」
何が悲しくて伊川と穴兄弟にならなくてはならないのか。
俺はもう神成さんに対して情が無い。
ただやったことへの清算はきっちりしてもらおうとしか思わない。
「……ふむ。ならば旦那様、妾この小娘がほしいのじゃ!!」
「え? なんで?」
「人間の小娘は嬲るといい声で泣くのじゃ。妾はそれを聞くのが好きでのう。旦那様に嫌われたくない手前、我慢はしておったのじゃが……。旦那様が要らぬと言うならもらうのじゃ!!」
「いや、まあ、別に神成さんは誰のものでもないし、好きにしたら? でも分かってると思うけど、俺の復讐だけは邪魔しないでね」
「うむ!!」
と、その時だった。
玄関の方から扉の開いた音がして、誰かが家に入ってきた音が聞こえる。
「……誰じゃ? 賊か?」
「あー、多分大丈夫。父さんだ」
「む。お父君じゃと!?」
真白は何に驚いているのか。俺にだって当然、父親がいる。
まあ、殆ど家に帰って来ないから、あまり仲良くはないけどね。
「少し、話をしてくる。真白は部屋で待ってて」
「う、うむ」
俺は部屋を出て、父さんの顔を見に行く。
リビングに向かうと、ネクタイを緩めている父さんと目が合った。
相変わらず威厳というか、言葉に詰まる雰囲気を感じる。
俺は父さんが苦手だ。
小学校の授業参観や運動会、中学の卒業式や高校の入学式にも来てもらったことがないのだ。
仕事が忙しいという理由で。
「わざわざ話とはなんだ? すまないが、手短に頼むぞ。この後も仕事が入っている」
「た、たまには休んだら?」
「休みなど要らん」
こういうタイプの人なのだ。苦手である。
「あー、えっと、その、実は相談があってさ」
「相談? それは、相手が俺でなくてはならない話か?」
「うん」
「……そうか。時間は有限だ。手短に話しなさい」
そう言って椅子に座る父さん。
俺はテーブルを挟んだ反対側の椅子に座り、スマホを取り出した。
「父さん。俺は、神成さん……神成天音との婚約を破棄したい」
「!?」
「いや、ホント急で申し訳ないけどさ」
俺の一言に父さんは目を見開いている。
俺と神成さんの婚約は父さんが出世するために必要なことだった。
つまり、婚約を解消することは父さんの意に沿わない。
いきなり言ったところで反対されるだろう。
でも、もう決めた以上はしっかりと話をして筋を通しておくべきだと思った。
「……理由は? お前と神成さんのご令嬢は仲が良かったと認識しているが」
「俺もそう思ってたよ。でも、ほら」
ここ数日で集めた浮気現場や俺から金を巻き上げるために呼び出す旨の会話などを記録した写真や映像、音声をスマホで見せる。
「その、父さんには申し訳ないけど。俺はもう神成さんとやっていける気がしな――」
「ふざけるな……ッ!!」
「っ」
怒気に満ちた父さんの声に思わず身体が震えてしまう。
やっぱり父さんは婚約破棄を許さないか、そう思った時。
「よくも俺の息子を裏切りやがったな……人の子供を何だと思ってやがるッ!!」
「……え? と、父さん? ちょ、どこ行くの!?」
「神成さん家だ。娘にどういう教育してんのか怒鳴り込む」
「ちょ、ストップストップ!!」
「止めるな正宗!! 神成さんも神成さんとこの令嬢も四、五発殴らにゃ気が済まん!!」
俺は父さんを羽交い締めにして止めた。
幸いというか、レベルが上がったからか父さんはビクともしなくなる。
「と、父さん、怒らないの?」
「怒っている!! 腸が煮えくり返りそうだ!!」
「そうじゃなくて!! 俺に、怒らないの? その、俺と神成さんの婚約は、父さんの出世のために必要なんじゃ……」
「出世? ああ、そんなもんただの趣味だからな」
え、趣味? 趣味って言った?
「愛した妻との間にできた子を、この世でたった一人の大切な家族を侮辱されたんだ。半殺しじゃ許さん。ぶちのめして犬の餌にしてやる!! だから離せ!!」
「いや、ちょ、暴力はダメだって!! 止ま、一回止まれバカ!!」
俺は知らなかった。
父さんはてっきり俺に無関心で、ちっとも愛していないのではないかと。
そうじゃなかったと気が付いた。
いじめのことを、もし父に相談していたら何かが違っていたのだろうか。
俺がそう思うのは、ただ感傷に浸っているだけだからか。
決行の日は近い。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ええお父ちゃんやん」
正宗「学校の行事には行こうとしたけど、何故か仕事でトラブルが重なっていたらしい。周囲を振り切って学校に行こうとしたら間に合わなかったとのこと」
作者「あと二、三話で終わります。できるだけ綺麗に終わらせる所存」
「安立ちゃん、何者だ!?」「ええお父ちゃんやん」「もう終わりか」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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