第5話 反撃の牙を研ぐ




 真白が作ってくれた料理は何故か油揚げを使ったものが多かった。


 いなり寿司や豆腐と油揚げの味噌汁、あと油揚げと小松菜のおひたし。

 更には油揚げとコンニャク、人参などの炊き込みご飯だ。


 ついでに言うならメインディッシュは油揚げのステーキである。


 狐だし、好きなのだろうか。


 お風呂で長いことエッチしていたせいか、料理は冷めてしまっていたが……。


 どういうわけか、僕は温かく感じた。



「さーて、旦那様♡ 風呂と食事が済んだら朝までラブラブ交尾の時間なのじゃ♡」


「こ!? え、も、もう一回するの!?」


「む。違うのじゃ、旦那様。さっきのはラブラブエッチで、今からするのはラブラブ交尾なのじゃ」



 どうしよう。何が違うのか分からない……。



「ラブラブエッチは快楽を貪るためにするもの。対してラブラブ交尾は子を作るためにするものなのじゃ」


「子ッ!?」



 僕は思わず味噌汁を吹いてしまった。


 その拍子に味噌汁が気管支へ入ってしまい、酷いむせ方をする。


 うぅ、苦しい……。



「何を驚いておるのじゃ、旦那様。夫婦が子を作るのは当たり前じゃろ」


「ま、まあ、いつかは作りたいけど……あれ? 待てよ? 冷静に考えてみたら、避妊具とか使ってなくない?」


「んん? 避妊具? 要らんじゃろ、そんなもん。そもそも妾はある程度の妖力を宿した男でなくば孕まんのじゃ」


「あ、そうなの?」


「うむ。そうじゃのう、旦那様ならレベル100くらいで妾を孕ませられると思うのじゃ。今晩のラブラブ交尾はその時に備えての練習じゃな」



 結構、というかかなり道のりが遠い。



「そっか、僕も頑張らなきゃ。……でも避妊具は大切だと思うよ!? 望まぬ妊娠とか病気とか防げるし……」


「うーむ、今の世は分からんことばかりで満ちておるのう。子を産み母となることは女の幸せじゃろうに。あ、ちなみに妾は病気など持っておらんぞ?」



 大昔の感覚しか知らないからか、真白は首を傾げて言った。


 ……子供、か。


 僕は奴らの人生をぶっ壊して、後は真白と幸せになるつもりでいる。

 復讐の後の人生設計、考えておいた方がいいかもしれないな。



「真白は子供、何人欲しいの?」


「そうじゃのう……。娘が十人は欲しいのじゃ!!」


「お、多いなあ」


「妾と娘たちで旦那様の子を作り、更に孫と子供を作って百人千人と子を作る。そうしていつかは国を盗るのじゃ。夢が広がるのじゃー♡」


「ははは……え? いや、冗談だよね?」


「む?」


「え?」



 僕が真白と何か致命的な感覚の違いを感じた、その時だった。


 不意にスマホが鳴る。



「!?」



 何気なくスマホの画面を見て、僕は硬直してしまった。


 メッセージアプリにチャットが届いたのだ。


 僕が今最も会いたくない人、神成さんから送られてきたチャットだった。



『明日、学校に来てほしい。どうしても生徒会の人手が足りなくてな。頼む』



 真白との他愛ない会話で忘れていた心の傷が、ズキリと痛む。


 ああ、そう言えば僕から金を巻き上げるために神成さんに僕を呼び出すよう、いじめっ子が言ってた気がする。



「……神成さんは、本当に僕を捨てたんだな」



 ああ、どう表現したらいいのだろうか。


 もしかしたら神成さんは僕を裏切ったことを後悔していて、まだやり直せるのではと少し期待していたのだ。


 彼女を問いただし、もし今からでも謝罪してもらえるなら許そうとは思っていた。


 流石にもう神成さんを愛することはできないけど、お互いに傷つかないよう婚約を解消することもできたと思う。


 僕との関係を精算した上で神成さんがアイツを選ぶなら僕に止める権利はないし、止めない。


 でも、覚悟を決めなきゃ。


 いつまでも弱いままでいられない。僕だって、やる時はやる。



「……真白。僕は……いや、俺はもっともっと強い男になる」


「むむ? 何故か急に旦那様の魅力度がはね上がったのじゃ……」


「茶化さないで。……真白にもっと好きになってもらえるように頑張って、あいつらの人生をぶっ壊す。その上で真白との幸せな姿を見せつける」



 俺は真白を見つめながら言う。



「だから手伝って――手伝え!!」


「んおほっ!?♡ だ、旦那様が急に男らしくなったのじゃあ♡ 濡れるっ♡ こ、これは濡れるのじゃ♡ 旦那様っ♡ いや、正宗っ♡ 妾とラブラブ交尾しようなのじゃ♡ もう我慢できぬのじゃ♡ もう妾なんでもしてあげちゃうのじゃっ♡」


「……か、可能なら、また分身も交えてエッチしたいです……」


「ガッテンなのじゃ!!」



 改めて決意し、俺は三人の真白を代わる代わる抱きまくった。


 やりきった翌日の朝は、何かが違う。


 俺はまるで生まれ変わったような気分で学校へと足を運ぶ。


 これは宣戦布告だ。


 アイツが俺をまた標的にするなら、俺は決して容赦をしない。











「よぉ、万堂。少し顔貸せよ」


「……」



 案の定というか、学校に着くと俺が最も嫌いな男とそいつが所属するカースト上位グループが立ち塞がった。


 顔は整っているが、性格の醜悪さが滲み出ている男子だ。

 これで学校では一位、二位を争うモテ男なのだから度しがたい。


 そのいじめっ子の名前は伊川いかわ秀人しゅうと


 勉強もスポーツもできる上にコミュ力が高く、学校ではカースト上位グループを率いているリーダーだ。


 しかし、その正体は気弱そうな生徒をいじめ抜いて金を奪い取ったり、暴力を振るうクズ。

 先生たちもいじめには気付いているはずだが、黙認している。


 そう複雑な理由じゃない。


 伊川の兄は有名な半グレグループのリーダーをしているらしく、逆らったらどうなるか分からなくて怖いのだろう。


 実際、彼を注意した先生はいた。


 しかし、その日の夜に何者かの襲撃を受けて瀕死の重傷を負い、教職を辞めてしまった。

 警察も捜査はしたが、半グレグループの下っ端を捕えて終わり。


 伊川や伊川の兄には何のお咎めもなかった。


 だからか、うちの学校では伊川に誰も逆らおうとはしない。


 ……昔の神成さん以外は、そうだった。



「実はさあ、オレたち遊ぶ金がねーんだよ。ちょっと貸してくんね?」



 校舎裏にやってきたと同時にニヤニヤ笑いながら言う伊川。


 俺は手を出して、一言。



「い、嫌だ。前に貸した金、返してよ」



 声が震えそうになるのを我慢して、伊川の顔を見ながら言ってやった。


 そう、言ってやったのだ!!


 前は怖くて目を見ることすらできなかったのに、何も怖くない。



「万堂、お前さあ。最近ちょっと殴らなかったからって調子乗っちゃった?」



 あからさまにイラついた様子の伊川。


 それを周りで見ていた伊川の取り巻きも俺の反応に苛々しているようだった。


 ああ、怖くない。


 出会い頭に本気で殺しにくる小鬼たちの方が遥かに迫力があった。


 こいつらは、怖くない。



「オラ!! てめえは大人しく金寄越せばいいんだよゴミ!!」


「うっ、ぐっ」



 でも、俺は敢えて殴られることを選択する。


 抵抗はせず、ただ無言で亀のようにうずくまって殴る蹴るの暴行を耐え抜いた。


 ひとしきり俺を殴り、伊川は俺から財布を奪う。



「ちっ、大して入ってねーな。次はもっと財布に入れとけよ」



 ぞろぞろと仲間たちを連れて校舎裏から去っていく伊川。


 その後ろ姿が見えなくなった頃。



「……拳で十二回、足で九回……ご丁寧に顔は殴らないで腹や足……忘れないからな……」



 俺は制服の内ポケットからスマホを取り出し、録画を止める。

 その場で映像を確認し、バッチリ録音できていることを確認した。


 これはまだ使わない。


 所詮は伊川を追い詰めるための武器の一つに過ぎないからだ。


 もっともっと、武器を集める。


 伊川がいじめられなくなって俺が調子に乗ったと判断した。

 多分、これからも伊川は俺が武器をこっそりと集めていることに気付かない。


 誰にも悟られないよう、丁寧に刃を研ぐ。


 今の時点で証拠を突きつけても、伊川の兄が報復してくるだけだ。


 だから平行してレベルを上げる。


 襲われても正面から敵を叩き潰せるように。

 その実力を付ける前に報復されたら堪ったもんじゃない。



「……ねぇ、貴方。大丈夫?」


「え?」



 校舎裏で一人笑っていると、不意に見知らぬ女子生徒が話しかけてきた。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「作者は油揚げが好き。狐ではない。寝取られモノのエロ漫画が好き。寝取られた女が間男と一緒にいじめてくる系が大好物。変態ではない」


正宗「誰も聞いてない……」



「油揚げ料理……」「反撃だー」「変態だろ作者」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る