第3話 醜さ全開独占欲





 きっと僕は単純な人間だ。


 真白とエッチなことをして気分が楽になったのかも知れない。


 それと同時に罪悪感がやってくる。



「僕も神成さんのこと言えないな……」



 神成さんは僕をいじめていた男と空き教室でエッチしていた。


 そして、僕も真白とエッチしてしまった。



「いやいや、旦那様よ。先に操を守らなかったのは向こうなのじゃ。気にする必要はないぞ」


「ま、守らなかったって、でも、最初は神成さんも無理やり犯されたって言ってたし……」


「じゃが、お主が見た時は許嫁の小娘も喜んで腰を振っておったんじゃろ? お主と契約した故、お主の記憶を見られるようになったが、あれは堕ちきっておるのじゃ」


「それは……」



 それは僕が気付くのが遅かったから。


 少しでも神成さんの身に起こっていることを察知していたら……。


 いや、それも違うかな。



「仮に気付いていたとしても、またいじめられるのが怖くて黙っていたかもしれない。神頼みで二人の不幸を願ったのがいい証拠だよ」


「そうかのう? 至って普通じゃと思うが」



 真白の黄金の瞳が僕を真っ直ぐ見つめて言う。



「人間は弱い。単純な暴力でも、言葉ですら他者を追い詰め殺せるのじゃ。故に人は宗教や信頼する誰かに依存する。お主がやったのは典型的な力を持たぬ者の足掻きなのじゃ」


「えっと、慰められてる?」


「違う。妾が思うに、復讐には二種類あるのじゃ」



 真白はそう言って、ベッドの脇に座る俺の隣に腰を下ろした。


 そして、二本の指を立てる。



「一つは全てを賭して相手をドン底に叩き落とし、命や尊厳、自由を含めた全てを奪い、支配することじゃ」


「……もう一つは?」


「相手よりも幸せになることなのじゃ」


「幸せになる、か」


「うむ、故に妾は旦那様に提案する。その両方をな!!」



 え? りょ、両方?



「お主をいじめる悪漢とお主を裏切った許嫁をこの世の地獄に叩き落とし、その上で妾好みのつよつよイケメンになって毎日イチャイチャエッチしながら過ごすのじゃ!!」


「最後は大分願望が入ってないかな?」


「うむ。しかし、冗談抜きで強くなることは重要じゃぞ。同じような悪漢に絡まれぬためにも、力を得ることは大切なのじゃ」


「それはそうだけど。でも強くなるって、どうやって?」



 こう言っては何だが、僕は勉強はそこそこできても運動があまり得意な方ではない。


 格闘術とか無縁の身だしね。


 と、そこで真白が満面のにっこり笑顔を浮かべながら言った。



「なーに、修羅場を潜れば人など嫌でも強くなる生き物なのじゃ!!」



 パチンと真白が指を鳴らした。


 その瞬間、急に浮遊感に見舞われて僕はお尻を地面に打ち付けてしまう。



「痛っ、え? え、ここどこ!?」


「分かりやすく言うなら異世界じゃな。妾の力で現世の裏側に繋げたのじゃ」


「い、異世界!?」



 俺とは違って音もなく地面に着地した真白。


 宙を見上げると、そこにはポッカリと穴が空いていて、僕の部屋の天井が見える。


 あの穴を通って僕は落ちてきたらしい。


 辺りを見回してみると、そこには現代社会とは似ても似つかない世界が広がっていた。



「す、すごい不気味だなあ」



 まず驚いたのが真っ赤な空だ。


 まるで血のように濃く、黒い雷雲が至るところを漂っている。

 周囲には見たことのない木々が生い茂っており、鼻をつく悪臭がした。



「もうちょっと異世界って綺麗なエルフさんとかがいるキャッキャウフフな場所だと思ってた」


「異世界というのは例えなのじゃ。実際は世界の裏側。表の世界から淘汰され、追いやられてしまった者共の辿り着く場所。ほれ、ぼーっとしておると危険じゃぞ」


「え?」



 その時だった。


 ガサッと草木の茂みから異形の怪物がキョロキョロしながら出てきたのは。


 それは、緑色の肌をした子供くらいの大きさの怪物だ。

 額から一本の短い角が生えており、その手には棍棒を持っている。


 真白が妖しく笑った。



「小鬼じゃな。初めての獲物にしてはちょうどよいのじゃ。まだこちらに気付いてはおらん。殺すチャンスじゃぞ」


「え? いや、こ、殺すって?」


「殺生は怖いかの? じゃが、小鬼はお主に気付いたら殺そうとしてくるのじゃ。ここはそういう場所ゆえな」



 とんでもない場所に連れて来られたな……。



「そ、そうは言っても、殺すのは可哀想っていうか、ほら!! 筋トレとか、そういうので強くなるって言うの――」


「妾は一向に構わんがの。このままではお主、なーんも変わらんぞ?」


「!? ……そ、それは……」


「筋肉を付けたところで、それはハリボテ。少しでもトラウマを刺激されたらどうにもならん。必要なのはトラウマを正面からぶち壊す力と、純然たる暴力を振るう精神なのじゃ。それで大概のトラウマは叩き潰せる」


「で、でも……」


「妾は軟弱な旦那様でも愛してやるが、いつまでもそのままでいては他の男に目移りしてしまうやも知れんのう?」


「……」


「もしかしたら、次にお主の憎い相手に腰を振っておるのは妾かも知れんのう?」



 僕は想像してしまった。


 神成さんのように、真白まで憎い相手に奪われてしまう光景を。



「……だ」


「む?」


「嫌だ。真白は、僕のものだ!! あんな奴に絶対に渡さない!!」



 僕はその辺に落ちていた石を拾って、全速力で駆けて思いっきり小鬼を殴った。


 小鬼は何が起こったのかも分からずに転倒する。


 その小鬼を確実に仕留めるため、僕は小鬼が持っていた棍棒を奪い取って何度も何度も殴りつけてやった。


 何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 確実に小鬼の息の根を止めるまで。



「はあ、はあ、や、やっと、死んだ?」


「最初の二、三発くらいで死んでおったのじゃ。よう頑張ったのう、旦那様♡ いい子いい子してあげるのじゃー♡」



 真白が近づいてきて、優しく俺の頭を撫でる。



「……真白」


「うん? どうしたのじゃ、旦那さ――!?」



 僕は真白の細い身体を抱きしめた。


 たった一度肌を重ねただけで、僕は真白に独占欲を抱いている。


 本当に僕は単純な人間だ。



「真白は誰にも渡さない。他の男に目移りしたら、許さない」



 自分でも気持ち悪いと思う台詞だ。


 僕の醜さ全開な独占欲を表した言葉に対し、真白はよだれを垂らした。



「はへぁ♡ 旦那様に愛され過ぎて股ぐらがびしょびしょなのじゃあ♡」


「ま、真白……?」


「安心するのじゃ、旦那様。あんなもん嘘に決まっておろう。そもそも妾と旦那様は互いに魂の契約で縛られておる。旦那様を裏切るような真似はできぬし、するつもりは欠片もないのじゃ」


「あ、そ、そっか。そうだったな。……でも」



 僕は真白を見つめながら、真剣に言う。



「もう二度と言わないで欲しい。僕は真白が僕以外の奴とエッチしてるところを想像したくもない」


「……うむ。煽るためとは言え、お主を傷つけてしまったようじゃな。あいすまぬ」



 僕の切実は願いに真白は頷き、謝罪した。


 と、そこで何かを思い出したように耳をピンと立たせる真白。


 どうしたのだろうか。



「ちなみに妾は旦那様が側室を迎えても裏切りとは思わぬのじゃ。妾以外にも好きな女子おなごができたらガンガン抱きまくってもよいぞ!!」


「いや、しないよ!?」



 と、その時だった。



『小鬼を討伐しました。経験値を獲得します。レベルが2になりました』


「ん!?」



 何か謎のアナウンスが聞こえてきた。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでいい小話


作者「作者は寝取られ煽りされると興奮が止まらんタイプ。本当に寝取られている展開も割りと好み」


正宗「あ、うん」



「真白に踏まれたい」「いきなり殴り殺された小鬼さん可哀想す」「もう終わりだ猫の作者」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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