第2章 — 悪魔の村
村には十数軒の家しかなかった。
いくつかの煙突からは濃い煙が立ち上り、木を切る斧の音も聞こえていた。
目で見た感じ、村はおおよそ百メートルの距離に広がり、その後、少し離れた場所にある森の前で止まった。
森を見下ろす崖の頂に城があった。
ほとんど識別できなかったが、その尖った頂は濃い霧の中でもなお見えた。
リブラが先に進み、その後ろを主人が続いた。
村を進むにつれて、リブラは村の印象に深く感じ入った。
とても静かで、少し不気味だわ。
その時、乾いた音が響き渡った。
振り返ると、三人の痩せた、汚れた子供たちが、赤い肌と小さな角を持ち、木の枝を剣に見立てて井戸の周りを追いかけていた。
なんて奇妙な遊び。
彼らが進んでいくと、城を囲む霧の中で、暗い動く影が徐々に浮かび上がってきた。
興味をそそられたセルナは考えた。
ここにドラゴンがいるのか?
見間違いかと思い、確認するためにリブラに尋ねた。
「リブラ、あの城を見てみろ。あの上を飛んでいるのはドラゴンか?」
リブラは集中し、霧の中で動く形を分析するように見つめた。
「そう思います。他にこの霧の中を飛べるものなんてあまりありませんから。」
しかし彼らが村を歩いていると、異様な二人組に村人たちの好奇の目が向けられた。
霧に苛立ったセルナは何か手を打つべきか考えた。
俺たちの存在だけで既に怯えているようだし、霧を払ったら…パニックになるだろう…
彼はリブラに視線を向けた。
霧を晴らすように頼んだらどうだろう。
少し考えた後、ついに彼女に尋ねた。
「リブラ、霧を晴らしてくれないか?」
彼女は即座に答えた。
「すぐに。」
リブラは腕を刃に変え、空中に跳び上がると、その腕を城に向かって空へと振り下ろした。すると、強力な風の刃が生まれ、霧を速やかに払拭した。
セルナはその光景を静かに見守っていた。
なかなかやるな。どれだけの力が基準かわからんが、彼女は結構強いんじゃないか。
霧が消えると同時に、リブラは地面に降り立ち、その場で確認した。
「ご主人様、やはりおっしゃる通りです。確かにドラゴンです。」
セルナは思案した。
なぜ彼らは城の周りを飛んでいるのだ?何かが彼らを引き寄せているに違いない…それに、この霧も元々はなかったはずだ。
その場面を見た住民たちは怯え、家の中に避難する者や村が攻撃されていると思って助けを求める者もいた。
しかし、彼らが村を進む間、住民たちの間で不安な囁きが広がった。
「女の子は角がある、きっとドラゴンだ。」
「彼は彼女の奴隷か?」
「マントに血がついている?」
「怖い…」
囁きが消えるにつれて、リブラの前に何かが投げつけられ、彼女は足を止め、投げた人物の方を向いたが、さらにもう一つが彼女の頭に当たった。
「痛い。」
状況を理解しようとし、彼女は叫んだ。
「どうしてこんなことをするんですか?」
村人たちが叫んだ答えはそれだけだった。
「黙れ、このドラゴン野郎。」
「死ね、ドラゴン。」
それを聞いた彼女の顔は暗くなり、彼女はうつむきながら悲しげな声で主人に話しかけた。
「ご主人様、ごめんなさい。私がいなければこんな思いをすることはなかったのに。」
住民たちの行動に苛立ったセルナは彼女にこう言った。
「自分で謝るのをやめろと言ったのはお前だろ?それなら、お前が謝っているってことは、俺は何を考えればいいんだ?」
リブラは顔を上げた。
「はい、でもここに来たとき、私はあなたに人々の親切を見せて、この世界の見方を変えてもらいたいと思っていました。結局、あなたはまた悪意しか経験していません。」
セルナの視線が柔らかくなった。
「心配するな。お前はお前であり、それを問題視する奴がいるなら、俺がそいつを片付けてやる。」
少し赤面し、自信を取り戻した彼女は、わずかに微笑まずにはいられなかった。
すると、リブラの後頭部に向かってガラス瓶が飛んできたが、セルナはそれを掴み取り、青い炎で灰に変えて住民たちに無表情で恐ろしい視線を向けた。その瞬間、襲撃が止まった。
一瞬で村の雰囲気が一変し、村人たちは恐怖に凍りつき、物を投げようとしていた者もその動きを止めた。
しかし、騒ぎが収まったとき、彼らの後ろに大きな影が徐々に現れてきた。
巨大な悪魔が彼らの後ろに立ちはだかった。
悪魔はセルナに低く重い声で問いかけた。
「お前!血塗れのマントの奴、霧を晴らしたのはお前か?」
驚いたセルナは振り返り、自分の三倍の大きさを持つ悪魔と対峙した。片目を失い、赤い肌と大きな茶色の角を持つその悪魔は、頭蓋骨で飾られた革の腰布を身に着け、木の槌を持っていた。その姿からは恐ろしいオーラが漂っていた。
ショックを受けつつも、セルナの顔には一切の恐怖の表情はなかった。
あり得ない…俺は幻を見ているのか…
反応がないことに気づいた悪魔は再びセルナに呼びかけた。
「おい、お前、血まみれのマントを着ているやつ。」
顔が硬直し、彼の心には一つの考えが浮かんだ。
夢か?奴は俺を恐れていないのか?どうしてこんなことが可能なんだ?
リブラはこの光景を見て、考えた。
なぜ彼は答えないの?
主人のそばに進み出ると、彼が硬直していることに気づいた。
彼女は急いで彼に尋ねた。
「どうしたのですか?大丈夫ですか?」
しかし彼が答えないのを見て、リブラは不安になり、彼の手を掴んだ。
「ご主人様、答えてください、お願いします。」
悪魔は再び問いかけ、その声には暗いオーラが漂っていた。
「おい、答えろ。霧を晴らしたのはお前か?」
その威圧感を感じたセルナはようやく我に返った。
「その質問は何のためだ?」
同時に、彼は自分の手に何かを感じた。
この感覚は何だ?
彼は手元を見下ろし、リブラが彼の手を握っているのを見つけた。
彼が自分に気づいたと分かったとき、彼女の顔は安堵の表情に変わり、素敵な笑顔を見せた。
悪魔は肩越しに持っていた木の槌を振り上げ、戦う準備ができている様子で、セルナとリブラの視線を引き寄せた。
「お前が払拭した霧は、王族の血の臭いを隠していた。ドラゴンたちはそれを欲しており、その血で一匹がドラゴン王となり、我々を支配することを望んでいる。今、彼らはすぐに我々の王を見つけるだろう。お前はその過ちを修正しなければならない、さもなくば代償を払うことになる。」
その言葉を聞いたセルナは再び思考に沈んだ。
何だこの話は?デーモンの血で王になる?いつから状況はこんなに悪化してしまったんだ?
彼はリブラに視線を向けた。
リブラは軽く頷き、微笑みながら意志を示した。
「わかりました、任せてください!」
彼女は悪魔に向かって冷静だが確信に満ちた声で自己紹介を始めた。
「私はリブラ、ご主人様の…」
彼女の言葉は、悪魔がリブラから何かを感じ取った瞬間に突然中断された。
ドラゴン?
悪魔はすぐに木製の棍棒を握り締め、彼女に向かって突如攻撃を仕掛けた。
彼女は頭をかすめる巨大な棍棒をぎりぎりでかわし、その棍棒は地面に深いクレーターを作った。
驚いた彼女は叫んだ。
「ちょっと!なぜ私を攻撃するの?」
悪魔はすぐに攻撃体勢を取り直した。
「なぜお前からドラゴンの気配を感じるんだ?お前は彼らの側の者なのか?無知を装っているが、お前たちは自分たちが何をしているか分かっていたはずだ。ならば、せめてお前だけでも手に入れられるなら…」
彼は再び力強い一撃を放ったが、リブラは素早くそれをかわした。
セルナは状況を鎮めようとし、強い声で言葉を放った。
「やめろ!」
悪魔はセルナの言葉を無視して、執拗に攻撃を続け、リブラは避け続けたが反撃はしなかった。
セルナは驚いた。
恐れるどころか、俺を無視しているだと?
悪魔の無視に苛立ったセルナは、毅然とした態度でリブラと悪魔の間に立ちはだかり、片手で簡単に棍棒を止めた。
悪魔は驚愕の声を漏らした。
「なんだと?」
セルナの素早い対応に悪魔は驚き、急いで後退した。
セルナは威圧的な態度で言った。
「やめろと言っただろ、聞こえなかったのか?」
驚いたリブラはセルナを見つめ、感心した様子で思った。
すごい、何も見えなかった…
セルナは悪魔に言葉を投げかけた。
「霧を晴らしたことで急いでいると言っていたのに、リブラに攻撃するとは、何を企んでいるんだ?」
悪魔は気を取り直し、落ち着いた。
「確かに、時間がない。今はこの話を続ける時ではない。」
彼は誇りを捨て、膝をついて頭を下げた。
「お詫び申し上げます。霧を晴らせるほどの力を持つあなた様に、どうか我々をお助けいただきたい、お願いします。」
リブラは渋々ながらも受け入れた。
「もし私の意思だけで決められるなら、何もしなかっただろう。でも、私は守るべき約束がある。だから、もし通してくれるなら、君たちを助けることができる。」
彼女はセルナに向かって言った。
「ご主人様、準備はできましたか?」
彼は静かに答えた。
「聞くべきは俺ではない。忘れるな、俺はただの観察者としてここにいるだけだ。」
彼女は笑顔で応えた。
「では、行きましょう!」
こうして二人は、悪魔の不安げな視線を背に村を後にし、森を抜けて城に向かって進み始めた。
森に少し足を踏み入れると、木々の陰に何者かが素早く動く影が見え始めた。
セルナとリブラは木の後ろに隠れる脅威的な気配を感じ取っていたが、無視するかのようにそのまま前に進んだ。
城に近づくにつれて、影がどんどん現れ、木から木へと移動しながら彼らの後を追っていた。
しばらく森の中を歩いていると、リブラは木の間から放たれた矢を間一髪で避けた。
彼女は後ろに飛び退き、警戒の構えを取りながら叫んだ。
「そこに誰がいるの?」
影が木々の後ろから現れ、明るみに出た。
布切れで顔を隠した四匹のドラゴンが、道の真ん中に立ちはだかった。
その中の一匹が叫んだ。
「ここで何をしているんだ、汚い悪魔め!」
リブラは心の中で溜息をついた。
最初はドラゴンだと非難され、今度は悪魔だと言われる。
彼女は腕を剣に変え、笑顔でセルナに向かって言った。
「ご主人様、ちょっと走りたい気分なんですが、一緒にどうですか?」
彼女はドラゴンの群れに向かって突進し、叫びながら謝罪した。
「ごめん、急いでいるの!」
彼女は走りながら刀の刃の平らな側面で強力な一撃を加え、悪魔の群れを森を超えて高速で吹き飛ばし、進行方向にある何本もの木を折りながら進んだ。
しばらく走った後、木々の間から彼らは戦場らしき場所を垣間見た。
あそこ、熱戦になっているみたいね。
森を抜け出ると、彼らは激しい戦闘が繰り広げられている光景を目の当たりにした。
悪魔たちとドラゴンたちが容赦ない戦いを繰り広げていた。
空を飛ぶドラゴンたちは、槍を持った悪魔たちに向かって激しく突進し、一方で悪魔たちは長い銀の剣で強力な一撃を加えていた。
リブラは腕を鱗に覆った防御的な姿に変え、攻撃を受けやすい体勢を整えた。
できるだけ被害を少なくしないと。
彼女は戦場を駆け抜け始め、セルナが続いた。
しかし、その二人の存在はどちらの陣営にも無視されることはなかった。
セルナは攻撃を受け流し、リブラは両方の陣営から狙われる標的となり、ドラゴンと悪魔の攻撃を一手に引き受けることとなった。
攻撃をかわしながら、リブラは戸惑いながら考えた。
なぜ?どちらの陣営も私を攻撃してくるなんて。
彼女は苛立ちを感じた。
まるで世界中から敵視されているみたいで、たまらなくつらい。なぜ私が狙われるの?
攻撃を避けながら進み続ける彼女は、突然、驚くほどの速さで飛んできた槍が頬をかすり、かすり傷を負った。
「痛っ!」
助けるつもりだったのに。
その時、戦場に響く武器の衝突音が、彼女の中に痛ましい記憶を呼び起こした。
武器が動く様子は、過去に見た光景と重なり、現実が過去の場面へと変わっていくかのようだった。
視界がぼやけ始め、彼女は不安を感じた。
一体何が起きているの?
武器や風景が彼女の視界で変化していった。
彼女は、見知らぬ場所で激しい戦闘が繰り広げられる中にいた。
悪魔の兵士たちは、憎しみを帯びた表情で視線の先にいる人物に次々と襲いかかっていた。
猛烈な攻撃が続く中、その人物は超自然的な動きであらゆる攻撃をかわしていた。
剣が空を切り、力強く投げられた槍は、彼の頭をかすめるようにすれすれで飛んでいった。
突然、その人物は攻撃をかわすのをやめ、両手を上げて、敵意がないことを示そうとした。
「なぜ私を攻撃するのですか?私はあなたたちを傷つけるつもりは…」
その場面を目にしたリブラは思った。
この声、聞き覚えがある。
そのビジョンの原因となった存在が頭を下げたとき、リブラは極度のフラストレーションを感じ、そのビジョンの元となった者の胸が無数の剣や槍で貫かれているのが見えた。
ビジョンの原因となった存在の胸を貫いた槍の一本が、悪魔を傷つけようとしたその瞬間、彼はそれを手で掴んで止め、頭を上げた。
「ご覧の通り、私は…」
血を吐きながら続けた。
「…決して、悪い奴ではないんです。」
リブラは心の中で叫んだ。
やめて!どうしてこんなことをするの?
しかし、その言葉は喉の奥で押し込められ、視界を支配するこの幻が彼女を覆い尽くした。
彼女は何もできず、その場でただ見守ることしかできなかった。感情が爆発し、心臓が激しく鼓動していた。
私の心臓…こんなにも強く…聞こえるなんて。
しかし、幻覚はまだ終わらなかった。悪魔たちは、何度も貫かれてもまだ立っている彼の姿に怒りを募らせ、その憎しみがさらに増幅されていった。
痛みに耐えながらも、彼は両手を再び挙げ、敵意がないことを示そうとしていた。
リブラの心の中で何かが芽生えたようで、彼女は無表情な顔で内心で考えた。
どうしてこんなことをするのですか?
涙でぼやけた視界の中、彼女は鋭い物体が彼の目に向かって迫るのを見た。
恐怖に駆られた悪魔たちは、彼の目をつぶそうとしていた。
幻覚がようやく消え去ると、リブラは現実に戻り、地面に崩れ落ちていた。目は虚ろで、静かな恐怖に包まれ、全身が震えていた。
彼女からは恐ろしいエネルギーがあふれ出ていた。
彼女は本能的に手を顔に当て、自分がまだ無事であるか確認するように触れたが、感じたのは流れる涙の温もりだった。
こ、これは一体…
彼女は周りを見回して状況を把握しようとしたが、すぐに主人の視線が自分に向けられているのに気づき、はっとした。
彼女の中に再び熱い怒りの感覚が湧き上がった。
この感覚が嫌い。イライラして、自分の皮を剥ぎ取りたい気分だわ。
顔を引っ掻きながら、何が起こっているのか理解しようとするたびに、彼女の怒りはますます膨れ上がった。
セルナは彼女の異常な反応に気づき、問いかけた。
「リブラ、大丈夫か?」
しかし、彼女は答えなかった。
彼女に一体何が?
こうして、無慈悲な戦場の中で、ある不健全な感情によって生まれた存在が、自らもその同じ感情を知ることとなった。
憎しみ。
制御不能な怒りの中で、彼女の右腕は剣に変わり、エネルギーを解放しながら天に向かって怒りを叫んだ。
彼女から発せられる衝撃波が、戦場に鈍い音を響かせた。
ドラゴンと悪魔の忌まわしい戦いは一瞬止まり、誰もがその圧倒的な力の光景に怯えて振り返った。
彼女の怒りに満ちた声が戦場に響いた。
「うんざりだわ!今すぐかかってきなさい!全員、最後の一人まで叩き潰してやる!」
そして、彼女は戦場の中央に向かって強力な一撃を放った。
空気を切り裂くように飛んでいく風の刃は、戦場に張り詰めた静寂の中で鋭い音を立てていた。
その衝撃が地面に当たると、何メートルも先まで周囲の者を吹き飛ばし、同時に大きな土煙を巻き上げた。
怒りを晴らすかのように、彼女は叫んだ。
「まだ戦うつもりの者がいるなら、かかってきなさい!」
しかし、その瞬間、戦場の中心から飛んできた別の風の刃がリブラに向かい、土煙を一瞬で消し去った。
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