第12話 私の家に寄って行かない?

 野村侑吾のむら/ゆうごは街中から離れていた。

 その道を歩きながら、デパートから立ち去った幼馴染の後を追う事にしたのだ。

 幼馴染の相原麻衣あいはら/まいとは家が近く、彼女が良く通る道も把握している。


 道なりに沿って歩いていると、遠くの方にショートヘア姿の彼女の後姿が見えた。

 彼女の近くまで歩み寄って行き、話しかける。


「ちょっと待って」


 侑吾が麻衣に話しかけたところで、彼女は歩く足を止めて振り返ってくれたのだ。


「な、なんで来たの?」


 麻衣は、少し驚いた表情を見せている。


「一緒に帰ろうと思って」


 侑吾の方から距離を詰めていく。


「でも、今日の放課後はあの人と一緒に過ごす予定じゃなかったの?」

「そうなんだけど、今はいいって」

「え? あの人もそれでいいって言っていたの?」

「そうだね」

「そ、そうなんだ……なら、いいんだけど。でも、本当に良かったの?」

「大丈夫だよ。久しぶりに会ったのに、殆ど会話せずに帰させるのもなんか悪い気がして」

「そんなに私の事は気にしなくても良かったのに。でも、侑吾がそう言ってくれるなら、私は嬉しいかな」


 互いの意思を尊重するように頷き合うと、二人は道なりにそって再び歩き始める。


 普段から歩きなれた道を歩いていると、中学生の頃までの記憶が戻ってくるようだった。


 久しぶりの時間を共有できている事に、不思議な懐かしさと嬉しさが込みあがってくる。


「侑吾は今のところ大丈夫そう? 学校でもちゃんとやれてる?」

「ま、まあ、一応な。大丈夫さ」

「ならいいけど。侑吾って消極的なところもあるし、ちょっと不安だったんだけどね。大丈夫なら別にいいんだけどね」


 麻衣は心配していたらしい。

 彼女は侑吾の現状を知るなり、さっきよりも軽く笑顔になってくれた。




 侑吾は麻衣と横に並んで歩き始めた。

 向かう先は各々家の方面である。


 中学の頃は、この道を通って一緒に帰宅していた。

 その途中には唐揚げ専門店があって、中学の頃は学校のルールで禁止されていたが、誰にもバレないように購入していたりもした。


 今は通っている高校は違うものの、麻衣の方も元気そうで何よりだった。


「ねえ、昔のように唐揚げでも買っていく?」


 侑吾が昔の事を振り返っていると、丁度、意思が通ったのか、麻衣の方から提案してきたのである。

 二人が今いる場所から少し歩いた先には、唐揚げ専門店があるのだ。


「今日ね。私の両親、仕事の都合で帰ってこないの」

「そ、そうなんだ」

「だから、夕食のついでに購入したいなって思って。侑吾も一緒にどうかな?」

「それはいいね」


 さっきまでいたデパートでは飲み物しか注文しておらず、丁度腹が減っていた事もあり、立ち寄る事にした。


 唐揚げ専門店といえども唐揚げだけではなく、揚げ物中心の商売もしており、エビ天やコロッケなども販売している。

 夕食のおかずや、ソバのお供にも打ってつけの商品であり、時間のない家庭にも優しいのだ。


「はい、唐揚げが十個ね」


 麻衣は八〇〇円と引き換えに、店員から袋に入った商品を受け取っていた。


「そんなに食べるの? 俺の分を含めても多いんじゃないか?」

「明日の朝の分も購入しておいたの。一気に全部食べるわけじゃないからね。そんなに大食いでもないし」


 麻衣は表情に恥じらいを持ちながら言う。


「そうだ、さっきの分だけど。俺、後で麻衣に購入してもらった分だけ返すから」


 侑吾はそう言って、二人は家の方へ歩き出すのだった。




「ねえ、私の家に寄って行かない?」


 麻衣は自身の家に到着するなり、誘ってきた。


「ど、どうしようかな」


 元々は購入してもらった分だけ、お金を渡すだけにしようと思っていたが、彼女からの誘いを断るのも気が引けた。


 普段から互いに学校が忙しく、家が近いのになかなか出会えないのである。

 今日くらいは彼女の家に寄って行こうと思い、麻衣の意見を受け入れる事にした。




 麻衣の家の中は、昔とあまり変わっていなかった。

 昔と言っても、一、二年前程度の話であり、大幅に変わる事はないだろうが、同時に何も変わらないからこその安心も感じられていたのだ。


 今、麻衣の家で二人っきり。

 静けさが漂う空間を移動しながら、彼女の部屋のある二階へと階段を上って移動する。


「はい、入って」


 到着すると、麻衣が率先して扉を開けてくれた。


「私、今から飲み物を取ってくるけど、何がいいかな?」

「じゃあ、オレンジジュースとかは?」

「んー、確か、あったはず」

「あるなら、それで」

「了解、持ってくるから待っててね」


 麻衣は家の中では気さくな感じに話しかけてくれる。


 彼女は荷物を床に置くと、背を向け部屋から立ち去って行く。

 彼女が階段を下っていく足音だけが響いていた。




 懐かしいな……あんまり部屋の中も変わってないな。


 昔を振り返りながら、侑吾は彼女の室内を見渡していた。

 すると、本棚が視界に入る。


 その本棚の一部には布のようなモノがかけられ、見えないようになっていた。


 侑吾がその場所を不思議そうに見つめていると、自然な感じに、その布が床に落ち、その隠れていた場所が露わになる。


 侑吾は落ちた布を拾いながらも近づいて、その本棚を見ると、ピンク色をした本がある事に気づき、侑吾はドキッとしたまま目を見開く。


 侑吾が再び布をかけようとした時には、部屋に戻って来た麻衣と丁度視線が重なってしまったのである。

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真面目でクールな生徒会長が、休日だけ学校一の美少女として俺と付き合ってくれる⁉ 譲羽唯月 @UitukiSiranui

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