第9話 隠したい事は誰にでもある

 今日の朝の件もあり、侑吾ゆうごは気を抜く事は出来なさそうだった。

 隣の席の咲菜さなが突飛な言動をしないか不安でしょうがなかったからだ。


 咲菜は何を考えているのかわからないところが多々見受けられ、今も心臓の鼓動がバクバクだった。


 咲菜はミステリアス的な可愛らしさがある。

 席が隣同士という事もあって、たまに会話する事もあるのだが、ちゃんと受け答えをしてくれる。


 一応、信頼はしているのだが、今日は一日中、咲菜に対する監視の目を鋭くしていこうと思う。

 教室にいる時や、移動先の教室での行動。体育の授業の時も彼女の動きを見張るように、咲菜の事を目で追う。

 けれど、意外と彼女は、侑吾の秘密を言いふらす事はなかった。


 もしかして、本当に約束を守ってくれているのか?


 侑吾は今、体育の授業を受けている最中で、クラスメイトと共に校庭にいる。

 侑吾が体育の先生の指示に従い、他の人とグランドを周回していると、咲菜が同性のクラスメイトに近づいて行く光景が瞳に映る。


 走っている際も、咲菜が何かのきっかけで公言しないか不安な気持ちになっていた。


 そんな丁度のタイミングでグランドの周回が終わり、咄嗟に咲菜らがいるところへ自然な感じに近づいていく。


 遠くから、こっそりと聞き耳を立てるように、咲菜と、その近くにいる女の子らの話を聴こうとする。


「侑吾って――」


 え?

 俺の話?

 もしかして、恩田おんださんって、あのことを公言したのか?


 侑吾は焦り、さっきまで走っていた事も相まって、さらに体が熱くなっていく。


「――侑吾って、さっきから私らの事をガン見してない?」

「だよね。キモいよね」

「今もこっち見てるし」


 咲菜は特に何も話していなかったが、他の女の子が侑吾に関する悪口を言っていたのである。


 あずさ先輩に纏わる事ではなかったのだが、かなりショックだった。


 俺って、クラスメイトから、そんな風に思われていたのか……。


 でも、咲菜があの秘密について話す素振りはなく、ショックな感情を抱きつつも、安心してしまうという複雑な心境に陥っていたのだ。


 侑吾は汗を拭い、彼女らから離れるように同性らがいる場所へと向かって行く事にした。

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