第8話 なぜか、彼女は知っている?

 え?

 なんて?


 侑吾ゆうごの中で疑問が渦巻いていた。


 隣の席の恩田咲菜おんだ/さなが何て言ったのか聞き返すかのように、侑吾は目の瞳孔を広げながら、その場に佇んでいる彼女を見やる。


 当の本人は首を傾げているだけで、いつもと変わらないオーラを放っているのだ。


「えっとさ……さっきなんて言ったの?」

「それは言葉通りだよ」


 セミロング風のヘアスタイルをした咲菜は平然とした口ぶりだった。

 あまり表情を変えることなく、ジーッと侑吾の事を見つめているのだ。


 あずさ先輩と一緒にいる情報は他人には口外したくない事であり、教室内にいる周りの人らを気に掛けるように見渡し、変な緊張感に襲われながらも冷静さを保とうと必死だった。


「で、でも、見間違いじゃないのかな?」

「え? そうじゃないと思うけど? 私と同じ、この学校指定の制服を着ていたし」


 咲菜は少しだけニヤついているようだった。

 見間違いかもしれないが、侑吾の瞳には、そんな風に見えたのである。


 もしかして、からかわれているとか?


 咲菜の真意がまったくわからず、悩んでしまう。

 どことなく掴みどころがないタイプである。


「まあ、それに関しては誰にも言わないように」

「秘密的な?」

「そ、そうだよ」


 侑吾は小声で返答する。


「そうなんだ、へえ、分かったわ」


 咲菜は少し考え込んだ表情を見せた後、自身の席に座っていた。


 だ、大丈夫だよな。

 絶対に、誰にも公言しないよな……。


 一抹の不安を抱きながらも、今は彼女の事を信じてみようと思う。


 だとしても、やはり不安だ。


 普段から咲菜とは隣同士の席であり、一応監視の目を光らせておいた方がいいと感じ、右側の席に座っている彼女の方をチラチラと見る。


 それから数分後には、女性の担任教師が教室に入ってきて、朝のHRが始まるのだった。

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