第5話 先輩はコーヒーが苦手?

 喫茶店内にいる二人は席に座り、テーブルに置かれたメニュー表を見ていた。

 店内の人気イチオシメニューとして、パンケーキが大々的にイメージ写真と共に掲載されていたのだ。

 綺麗な黄色をしたパンケーキに、自家製のはちみつソースがかけられてある。


「私はこれにしたいかな」


 あずさ先輩はちょっとだけ悩んだ後、パンケーキの写真を指出していた。


「先輩はパンケーキが好きなんですか?」

「何となくよ。やっぱり、人気と書かれてあったら注文したくなるでしょ?」


 普段は自身の意思で断定的な結論を下す事が多い先輩だが、意外と流されやすい人なのかもしれない。


「あとは飲み物よね、あなたはどんなのがいい?」

「俺は……コーヒーで」


 喫茶店と言えば大人びた感じの方がいいと思い、侑吾ゆうごなりに空気を読んだ発言をする。


「そういうの頼むの」

「え? コーヒー嫌なんですか?」

「そ、そうじゃないけど。一応、付き合ってるんだから、その……別のにしたいと思って」

「逆に先輩はどういうのがいいんですかね?」

「えっとね。例えば、こういうのかな」


 梓先輩はメニュー表のドリンク一覧を指さしていた。


「イチゴジュース?」

「そうよ」

「イチゴジュースが好きなんですか?」

「そ、そうね。コーヒーはなんか堅苦しい感じがするから。今は、気楽な飲み物にしたいだけ」


 先輩はコーヒーが嫌いではないというアピールをしてから、先ほどの女性店員を呼び出していた。


 注文してから十五分後には、注文したパンケーキとイチゴジュースがテーブル上に並べられる。

 メニュー写真よりもパンケーキの色合いが綺麗に見えた。


 女性店員は明細書を裏返しにテーブルの端に置くと立ち去って行く。


「では、食べましょうか」


 梓先輩と同様に、侑吾もナイフとフォークを使って食べ始める。


 実際に食べてみると程よく美味しく。味も濃くはないので、食べやすい感じに調整されている感じであった。

 人気イチオシメニューとして、売り出す理由も頷けるほどだ。


「あ、あのさ、恋人らしい事をしたいんだけど」

「え?」


 正面の席に座っている先輩は一旦手を止め、上目遣いで侑吾の方を見つめてきた。


 今から何をされるのか、侑吾は心臓の鼓動を変に高鳴らせ始めていたのだ。

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