第23話 ぼっち娘は新天地へ(第一部完)
ギルドは各国、各町にそれぞれ支部がある。
ギルドの職員が、人手の都合で他支部に転勤する事は特別珍しくもなかった。
(でも、それならなんで言ってくれなかったの?
そもそもお姉ちゃんはバイトで、正式な職員じゃない……転勤なんて、あるはずないのに……)
「……駄目、スルーされた……」
「星崎ちゃん、まるで世界の終わりを目の当たりにした人みたいな顔になってるよ」
二葉達は、ギルドにいた。
ギルドの受付のテーブルに座り、スマホを弄るものの、琴音からの返信は一切なかった。
「なんで、どうして?返事してよ、せめてチャットぐらい返してよ……」
「御子柴さんに連絡を取るのが無理なら、家族に連絡を取ったらどうなの?何か聞いてるんじゃない?」
「……うん……そう、する……」
気が乗らないが、そうも言っていられなかった。
二葉は、琴音の事は身内枠に入れるほどに好きだが、琴音の両親はあまり好きではなかった。
別に琴音の両親が悪人と言うわけではない、どちらかといえば善人と言える。しかし、友達の友達は他人、みたいな理屈で、好きな人の家族は他人なのだ。
他人というか、琴音が従姉妹という事はその親は義叔父、叔母なのだが。現実問題、同じ家に住んでいる訳でもない血縁者とか、ほとんど他人のようなものだと二葉は思っている。
琴音の家の電話に番号を繋げる。
しばらくすると、
『はい、御子柴ですが?』
「あ、あの……あ、ほ、星、崎です……」
『え?何?よく聞こえないわ』
「あ、ほ、星崎、です……星崎、二葉……です」
『あらぁ、二葉ちゃん?久しぶりねぇ。
最近全然うち来ないんだものぉ?
琴音と仲良いんでしょ?遊びに来れば良いのにぃ。
お菓子とかお茶、用意するわよ?』
「え、あ、い、忙しくて……」
(おたくら家族のノリが苦手なんです)
とは、口が裂けても言えない二葉だった。
陰キャは総じて、コミュ強なおばさんに苦手意識を示すものなのだ。
優しさや暖かい気遣いすら、陰キャにとっては対応の仕方が分からなくて困ってしまうものなのだ。
「あ、え、お、おね……こ、琴音さんの事で、お、お尋ねしたい事が……」
『琴音の?どうしたの?』
「あ、こ、琴音、さんが、転勤すると、聞いて……お、叔母さん、何か聞いていない、かと……」
『あら、あの子、二葉ちゃんに話してなかったの?
あの子も二葉ちゃんの事気に入ってたから、話すのが忍びなかったのかしら。
それでも別れの挨拶ぐらいすれば良いのにねぇ。
二葉ちゃん、琴音はね、おばあちゃんとこに行ったのよ』
「え?」
話を聞けば、琴音には父方の祖母がいる。
その祖母は今では東北の田舎の実家で一人暮らしているらしいが、高齢という事も祟り、身体を壊してしまったという。
『お義母さんは琴音の事を大層可愛がっていたからね。
あたしは折り合いが悪いから言っても追い返されるだろうし、旦那もそう簡単に辞められるような仕事じゃないし。
それで、琴音が世話をしに行くってなったのよ』
(そんな……でも、だったらなんてお姉ちゃんは話してくれなかったの……?)
『琴音、二葉ちゃんの事心配してたのよ?
自分がいなくなったら、きっと二葉ちゃんは自分を追いかけて来るって。
自分に会う為に親元も離れるだろうし、学校も辞めるだろうし、自分の為だけに遠くの地方まで移住するぐらいの事はやってのける、って。
私はまさかぁ、と思ったけどね。
あの子はそう思ったみたい。
琴音、言ってたの。
「あの子は私に依存しすぎてる。もしも私がいなくなったらきっと、二葉は耐えられない。でも、それじゃ駄目なの。それじゃあ、万が一、私に何か遭った時、あの子は壊れちゃう」って』
(……お姉ちゃん……)
それは、間違いない。
二葉は琴音に依存していた。
誰にも好かれる事はない、愛される事はないと諦めているからこそ、自分を受け入れてくれた琴音は特別なのだ。
その特別な存在の為なら他は何もいらないと思うほどに。
知らない土地に行くのは怖い。
愛する家族の元を離れるのも嫌だ。
学校は……最悪、中卒でも冒険者一筋でやって行く自信はあるけど、悪目立ちするので出来れば高卒の資格は欲しいと思っている。
だけど、そんな恐怖心や躊躇いは、琴音の為なら捨てられるものだ。
琴音はこんな事を考える二葉を分かっていたのだろう。
だから、雫達とのパーティに拘った。
彼女達とのパーティの関係が、第二の拠り所となればいいと、そう思ったのだろう。
(お姉ちゃん、友達多いからなぁ。
私と違って陽キャだし。
同じ冒険者の女の子同士ならすぐに仲良くなれるはずって、思ってたのかも。
それなのに全然仲良くならないし、むしろ関係は悪化するし、最後は友達どころかビジネス関係で止まるし……お姉ちゃん、きっと落胆しただろうなぁ)
「お、叔母さん……こ、琴音さんが、引っ越した先、わ、分かりますか……?」
『えぇ、分かるけど……そもそも、祖母の実家に移ったんだし……。
って、え?もしかして、会いに行くの?』
「……はい」
きっと、琴音は悲しむだろう。
自分の為に家族も学校も捨てる妹分を見て、酷く落ち込み、心を痛めるのだろう。
それでも、二葉は彼女に会いたいと思った。
彼女はそんな二葉を見て悲しむけど、それでも、きっと、二葉を拒絶しない。
そう、分かっていたから。
『……そう、分かったわ。
お義母さんの家の住所、教えとくから』
「はい、ありがとう、ございます」
二葉は叔母から聞いた住所を深く頭に刻み込んだ。
「……と、いうわけ、だから……パーティ、解散かも……」
「随分勝手に決めたわね、あなた」
雫が冷たい声で言い放つ。
家族も、学校も捨てて遠い地へ移り住む……それはつまり、ここを拠点に活動しているパーティ達の事も切り捨てるという意味だ。
友情に熱い少年漫画であれば、全員で新天地へついて行く、ぐらいの事はするのだろうが、この女達にそんな友情はない。
元より、ダンジョンは地方より都心の方が圧倒的に多く、圧倒的に稼ぎやすいのだ。
実力のある冒険者なら、わざわざ地方まで拠点をズラすなんてアホな真似はしない。
「……解散はしないわ。
どうせ金が余ってるなら、新幹線に乗る金もあるんだろうし。
たまに時間でも見つけてこちらに帰って来なさい」
「まぁ、解散はないよね。
こちとらランクアップ掛かってるしさ」
「え、遠距離恋愛とかあるんだから、遠距離冒険があっても良いと果歩は思うよ!」
(遠距離で恋愛するのは分かるけどどうやって遠距離で冒険するんだよ)
意味不明な事を言う果歩に呆れる二葉。
ここにいる女達は、根本的に誰も他人の事なんて考えちゃいない。
二葉は従姉妹に会いに行きたいと言うだけで勝手に移住しようとしているし、雫や瀬奈はランクアップの為にはパーティ解散は不都合だからという理由で、無理矢理パーティ状態を繋ぎとめようとする。
果歩は……何も考えていない。彼女はアホの子である。
全員が全員、身勝手で、そんなところが気に食わなくて、イラッとして、嫌いで……
だけど、今だけは、そんな三人の身勝手さに、二葉は少しだけ、感謝した。
(今だけは……こいつらと同じパーティで、少し良かったかもしれない)
二葉は初めて、心からそう思うのだった。
(第一部完)
―――――――――――――――
この先あとがき(長い駄文です。価値はないので読み飛ばしてOK)
と、いうわけで、一先ずキリの良いところまでは書きました。
まだ終わってはいません。
途中から段々と描写が雑になったり不自然に急な展開になったりで、よくある打ち切りエンドの風味は出ていますけど、終わっていません。
ただ……ぶっちゃけ、熱量が足りていないです。
これはプロットをまともに書いていない駄目人間が陥りやすい典型例なのですが、序盤は勢い任せにガンガン書けるのですが、後になれば尻すぼみになります。
また、こういうネタが書きたい、こういう展開が書きたい、というのを曖昧に頭の中に思い浮かべてはいるものの、その展開まで繋げるのにどういう展開なら自然な形となるか、と書いている内に段々と迷走してしまうのが作者の悪癖としてあります。
具体的には、遊園地回はここまで無駄に長くするつもりはありませんでした。
少しばかりギャグ要素を強くして、メインキャラ達の心情や背景描写を小出しにする、程度の予定でした。
まさかそれがここまで長くなると思いませんでした。
二葉の暴走とか完全にアドリブです。
むしろ作者の作品は9割アドリブです。
なんて言えば、真面目な読者様には「プロットを書け」と言い訳のしようもない正論を吐かれると思いますが、作者はかなり浮気性な性格です。これは恋愛的な意味ではなく、物語を書いたり読んだりにおけるスタンスが浮気性です。
熱のあるうちはそれしか考えられないぐらいのめり込みますが、一度熱が冷めれば途端に興味が失せます。
作者の場合、小説を書く時、一番熱があるのはパッと発想が思い浮かんだ時です。
それをプロットに書いて、起承転結まで細かい設定を練り練りしていたらその間に熱が冷めます。プロットを粗方書くだけで満足して、結局他のまともにプロットを書いていない思い付き駄文を書き連ねる事も腐るほどあります。
結果、思いついたが吉日のスタンスで書かないと小説なんて一文も書けないのです。
もはや小説家として大事な才能がないに等しいのですが、文章を書くのは楽しいのでこれからも書きます。
楽しくて心理描写がくどくなるのは作者の悪癖です。
作者は心理描写が好きです。
ただ、好きを優先して書くと大体くどくなり、後で読み返して自分でもくどいわ、となるので気を付けています。
元々、遊園地回はさっさと終わらせて、もうワンシーンを挟む予定でした。
おばあちゃんの介護の為に東北へ転勤する琴音、というのは同じ展開ですが、ここから『琴音には会いたい、でも東北までは距離が遠すぎる』と悩む二葉が、偶然、一部のダンジョンの奥にはワープゾーンがあり、そこを通ると遠くの地へ瞬間移動出来る。という情報を掴みます。
そして、ダンジョンを片っぱしから漁って東北まで直通出来るワープゾーンを探すぞー、となるものです。
とはいえ、これはネット小説で、大人の事情に左右される書籍本ではないので好きに書けばいいのですが……。
ただ、現在の作者……熱量があまり残っていません。
今のまま、そのシーンを書き始めると、途中のめちゃくちゃ中途半端すぎるところで筆を投げ出す可能性があるのです。
それを考えた場合、多少打ち切りっぽさはあっても、まだ区切りとしては認識出来るこの辺りで一度切る方がマシと判断しました。
尚、打ち切りではありません(何度も言います)。
またストックが溜まれば第二部を公開します。
近況ノートの方に書いていますが、大ざっぱながら、「こんなキャラを出したい、書きたい」みたいなネタは存在していますので。
最後となりますが、未熟なところも多い作者の小説を読んで下さった方、ありがとうございます。
今更となりますが、少しでも面白かった、続きを読んでみたい、と思ってくださった読者様は、☆や♡、フォローやコメントをくれるととても助かります。
ダンジョンズボッチ 〜ぼっち娘は諸事情あってパーティを組む事になりました〜 草田蜜柑 @summervacation
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