第22話 不穏な予感

 夜のパレードを見終わってから、二葉達は現地解散した。


 自室へ戻ってきた二葉は、パソコンやスマホの電源を入れる事もなく、ベッドに倒れ込む。


「あ~、ダンジョン行く時より疲れた~」


(思わず切れて本性まで出しちゃったし……あ~、冷静になって思えばめっちゃ悪手じゃん)


「なんか、普段より濃い一日だったなぁ」


(他のリア充どもは毎週こんな事してんのか。

 あいつら体力化け物なのか?)


 最も、二葉が人慣れしなさすぎて、さらに大して親しくもない相手と長時間行動したという事で精神的疲労がたまりやすくなっていただけだが。


(……私にリア充になるのは永遠に無理そ。

 あ、そだ、一応、お姉ちゃんにラ○ン送っとこ)


 二葉はスマホを取り出した。


『お姉ちゃん、今帰ったよ。

 お姉ちゃんは?』


 間もなくしてポンッと琴音からチャットが入った。


『私も家にいるよ。

 それで、皆とはどうだった?』


『……色々あって、パーティは存続って事になった』


『そう、少しは分かり合えたと思う?』


『多少は?でも、好きか嫌いかなら好きじゃない。

 疲れるし、お姉ちゃんと一緒が一番良い。

 あいつらとはビジネスだけの付き合いで良い』


『……そう。

 今はそれでも良いわ』


『なんかちょっと不満げ?』


『そんな事ないわよ。

 二葉って、意外と切れやすいところあるから、仮に皆が二葉のオタク趣味を否定したりとか、キモいとか言い出したら、絶対爆発するでしょ?

 そういう展開にならなかっただけでも恩の字だと思うわよ』


「……お姉ちゃんってエスパー?」


 思わずチャット越しにツッコミを入れる。


『皆は、二葉の事、受け入れてくれたでしょ?』


『受け入れたというより……ビジネスライクな関係を今後続けて行きましょうってオチになったけどね』


『今はそれでも良いの。

 完全に関係が切れなければ、いつか、その縁が深いものになっていくと思うから。

 それこそ、ただ昔からの付き合いってだけしか取り柄のない私よりもずっと』


『何言ってんの?

 お姉ちゃんが一番大事だよ?

 お姉ちゃんが頼んでくれれば、私、月野さんでも白夜さんでも日南さんでも殺せるよ?』


『流石に冗談よね?二葉。

 冗談と言って欲しいわ』


「本気だけどね」


 二葉がこの世で本気で自分以外に愛していると、自信を持って言えるのは家族と琴音だけだ。

 それ以外の存在は敵か、その他としか見ていない。


 敵は排斥すべき存在で、その他は己に牙を向かないようにビクビクしながら警戒しなければならない存在だ。


 たとえBランクと呼ばれる実力があっても、それは日常生活で役に立つものではない。

 一般社会では、少し気に入らないからと人を攻撃したり殺したりは出来ない。

 そんな事をすれば自分はとてつもない極悪人となり、数少ない名前も知らない多くの人々が敵となる。


 怖い、苦手、嫌い、そうした負の感情が芽生えても、人は排除出来ないのだ。だからこそ、Bランクという実力者の称号を手に入れた今でも人が怖いのだ。


(それでも、お姉ちゃんが望むなら、世界中のその他の人間が敵になってもいい)


 家族と愛する従姉妹だけを味方と定め、その他は敵として全て排除する。

 それは甘美な選択にも思えた。

 とてもシンプルで分かりやすいし、そうすれば人間関係に悩む事もなくなるのだから。


(とはいえ、お姉ちゃんはそんな事望まないし、人間社会でそんなことしたら色々な意味で生きていけなくなるけど)


 つくづく、人間っていうのは面倒臭いと、二葉はため息を吐いた。


『……二葉、実は私ね……』


『どうしたの、お姉ちゃん?』


『……ううん、なんでもないの』


『?変なお姉ちゃん』


『とにかく、これからも皆と活動するなら頑張ってね。

 私は、あなたを応援してるから』


 そこでチャットは終わった。

 最後の琴音の対応に首を傾げながらも、相手が言い辛い事はこちらからは聞かないのスタンスで生きている二葉。

 一先ず琴音の事は一旦頭から放して、ベッドの上で仮眠を取る事にした。







 それから、1ヵ月ほどは何事もなく日々が過ぎた。

 相変わらず雫は無差別魔法をぶっ放すし、瀬奈は隙あらば財布の中身を狙って来るし、果歩は戦闘中にたっくんと電話をする。そして二葉はくっせぇ虫ダンジョンを重点的に探索しようとする。


 それでも、少しはパーティとしての意識も芽生えたのか、一人がソロで動いて他は荷物持ち、なんて活動の仕方は止めた。


 戦闘中は果歩が前衛を務めながら、二葉が中衛でケースバイケースで近距離と遠距離攻撃を切り替え、雫が後衛から魔法を放つ。

 瀬奈は戦闘の間は補助役を重点的にやる事にした。

 元々、ソロ面子が多い事もあり、パーティでこそ実力を発揮する補助魔法に重点を持って鍛えている者が彼女以外にいなかったというのもある。

 基本、バフを掛ける暇があるならその前に倒してしまえの脳筋スタイルだった。

 そんな瀬奈も、探索時には斥候として役に立つ。

 自称器用万能は伊達ではなく、ダンジョンの攻略は悔しいほどに楽なものとなった。


 決して、性格的に相性が良い面子でもないが、ビジネスライクなパーティ関係を取り上げた時は非常に相性が良かった。


 1ヵ月もした頃には、ソロの頃よりも圧倒的に稼ぎが良くなり、メリットを体感する事も出来るようになっていた。


 そんな時だった。







 琴音が、都内支部のギルドから、東北支部のギルドへ転勤する事が決まった、という知らせを受け取ったのは。

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