第20話 予想外の終わり方
「勝手に人に趣味を教えておいて、それで勝手に暴走するとか人としてどうなのかしら。
親の顔が見てみたいわね」
「あ、雫っち~、助けてくれたの?」
「……」
バァン!
「うひゃあ!」
無言で雫から撃たれた銃弾を瀬奈は間一髪で躱した。
「勘違いしないでくれる?
今は、星崎さんの敵でもあるけどあなたの敵でもあるのよ」
ツンデレとからかうにはあまりにも絶対零度の睨みを利かせる雫。
「……とはいえ、今はそちらから片付けましょうかしら?
で、なんて言ったのかしら。
たかだか趣味をキモいと言われた程度でパーティを解散ですって?
随分身勝手な話ね。
そもそもこのパーティが組まれた理由を分かっているのかしら?
たかが、あなたのくだらない一存で解散出来る権限が思っているの?何様のつもりなのかしら?」
くだらない、その言葉はまた、二葉の胸を抉る。
「言いたきゃ好きにすれば?
元々、私はパーティなんて組みたくなかった……!
大体、月野さんこそ何様なの?私を責める資格あるの?
幼女向け魔法少女アニメが大好きな大学生とかキモいんですけどって言われた気持ちを考えてみれば?
そんな奴と一緒にパーティを組みたいって思うの?」
「……組みたくはないわね。
でも、ケースによるわ。
それが目的の為には必要不可欠、絶対厳守であるのなら、パーティを組む事もやぶさかではない。
そもそも、ソロの方が効率的で気が楽というのは全員が同じよ。
それを、個人の一存で、たかだか趣味を否定されたという理由だけで拒絶するなんてあなたは何歳児なのかしら?
きっと、小さい頃からコミュニケーションから逃げて、人と関わることによって発生する責任を知らずに生きて来たのね。
だからそんな幼稚で短慮な事をのたまうのかしら」
「っっっ!」
二葉は拳銃を撃った。
雫は銃剣の側面で弾丸を受ける。
「図星を突かれて切れたわけ?
やはり幼稚ね。
見た目と腕っ節ばかり成長して、精神の成長をおろそかにしてきたのでしょうね。
確かに、そんなあなたならAランクがふさわしくないと言うのも分かるわ」
「てめぇに……言われたくねぇんだよぉ!」
拳銃を発砲する。
雫が受け流す隙に、近くのプレイヤーから拳銃を新たに奪い、二丁拳銃で構える。
バァン!バァン!と銃声が鳴り、弾丸が部屋を飛ぶ。
雫は銃剣で防御しながら、自らも銃弾を飛ばした。
「常識人ぶって、自分がダンジョンでした事忘れたとは言わさねぇぞ、あぁ!?
散々無差別魔法ぶっ放して、こっちの被害なんてお構いなしで好き勝手しやがって!そんな奴に人付き合いだのパーティだの語る資格なんてあるかよ!ばぁか!
大体、人付き合い避けてるってそっちも同じじゃん!
どうせ、てめぇみたいなお澄まししたクール系は自分が人類のトップにいると思って、それ以外の周りの連中見下してんだろうが!
そんな奴に正論言われて、響くかよ!
自分のフリ治してから言えや!ボケ!」
「っ、それ、は……」
これに関して、雫は何を言い返す資格もなかった。
元より、パーティを組んだというにも関わらずまともに交流をしようとしなかったのは二葉だけではない。
雫も同様だった。
「………そうね。
正直、あなた達とパーティを組むとなった時、憤りを感じたのも事実。
日本の協調を尊ぶ文化をあれほど恨んだ日はないわ。
あなた達とのパーティはただ、決まりに従っただけの定型的なもので、それ以上の意味を求める必要性はないと思ったわ。
私一人で完璧であるのに、他人と慣れ合うなんて無駄としか思わなかった。
今だって、何故私がパーティなんて非効率的なものを組まなければならないのかと思っているわ」
それでも、と雫は続ける。
「趣味を否定されたなんてくだらない理由で解散したいなんて駄々をこね出すお子様よりは、多少はマシよ」
「……ハッ、くだらない、くだらない、って……そうやって、平気で、人を否定する……あれこれ言って、結局私を見下してるんでしょ?
陰キャでコミュ力ゴミなくせにキモい趣味に傾倒してる最底辺のゴミ屑だと思ってんでしょ?人権ないと思ってんでしょ?
私ならどれだけ馬鹿にしても否定しても叩いても殴っても許されるってそう思ってんでしょ!?」
「……話にならないわね、私そんな事を言ったかしら?
確かに、あなたの趣味を世間一般的常識に当てはめるなら……気持ちが悪い、という感情が沸きたつ事は自然ではあるけれど。
でも、それとこれとは別。
私は、その程度の理由でパーティの解散という、他人の人生まで左右してしまう選択を感情任せに安易に選べてしまう愚かさを責めているのよ」
「その程度……そりゃあそっちからしたらそうなんでしょうね。
でも、見下されて、馬鹿にされるって分かっててこのままずっとパーティを組むとかありえない……!
月野さんは良いよねぇ、私と違って、くっっっっっっっだらない趣味でさぁ。
エロゲ発祥のソシャゲが大好きな萌え豚とかキモさしかないけど、魔法少女が好きな美人女子大生とか、むしろ何がデメリットなのか分かりませんけどぉ!?
まぁ、でも、18歳以上の成人女性があのフリルたっぷり衣装を着るのは痛々しいと言えば痛々……」
「【アイス……」
「すとぉぷ!雫っち!さすがにここじゃ洒落にならないから!魔法は抑えて!」
「見下されるぐらいなら、馬鹿にされるぐらいなら、私は一人で……
「うぁぁぁぁ!?これどうやって止めるのぉぉぉぉ!?止まらないよぉぉぉぉぉ!」
シリアスな空気を破壊するような爆発音と、聞き馴染んだ甲高い声。
背後を見る二葉。
そこには、宇宙浮遊する一人乗り戦車に翻弄され、あちこちの壁にぶつかりながら爆走する果歩の姿があった。
――スターキャタピラ――
それは、原作において1人で一騎当千の活躍をするとし、プレイヤーからも最強ウェポンとして扱われて来た武器……。
最大120人同時プレイが前提とされたこのアトラクションで、1200分の1の確率でプレイヤーに渡される武器である。
つまり、10回のプレイで1回出現すれば良い武器を
果歩は乗り回していた。
冷静に考えればそんなバランスブレイカーをアトラクションに入れるなどありえないのだが、原作ファンの需要を考えた時、ゲームバランスを保つ事と原作の最強武器を乗り回せる事、どちらがより好まれるかを考えた際、こんな仕様になった。
ところで、このアトラクションにおけるスターキャタピラはゴーカートのカート並にシンプルな操作性のはずなのだが、何をどう間違えればここまで暴走出来るのか。
なんて考えている暇はなかった。
突如現れた凶悪な乱入者は、何故か止まらない止まらないと叫びながらハンドルやボタンをガンガン押していた。
まずハンドルから手を下ろせ、アクセルから足を下ろせ、ボタンを押すな、そうツッコむ者は誰もいなかった。その暇もなかった。
やがて、何を操作すればそうなるのか、スターキャタピラからミサイルが発射された。
拳銃だの銃剣だの剣だのでそんなものどうにかなる訳がない。
二葉達は、ミサイルに巻き込まれて揃って戦闘不能となった。
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