第19話 陰キャの暴走
たとえば、素人のお遊び戦争ゲームにガチの軍人や傭兵が参加したらどうなるだろうか。
遊園地のアトラクションで冒険者が暴れるというのは、そういう意味だった。
紛れもないバランスブレイカーであり、他の一般プレイヤーにとっては楽しくない結果となるだろう。
そんな様実感した二葉は
(もう二度と、このアトラクションに来るのは止めよう)
そう心に誓った。
「ひゃっほ~!雑魚狩りきもち~!」
「うぎゃあ!?なんだこの女!?」
「ひぃぃ!もうライフがゼロに!」
「美少女に殺されるなら、本望……ガクッ」
まずは火星エリアを制覇しようと足を踏み入れれば、同じ事を考えていた自陣営のプレイヤー達が瀬奈によって片っぱしから斬り伏せられていた。
尚、このゲームではプレイヤーにはライフが存在する。
しかし、お化け屋敷の回数制と違い、こちらの場合、プレイヤーのライフは全員一律で100ポイントとされている。
さらに、武器で攻撃された箇所……仮に腕なら10ポイント、胸や頭なら30ポイントというように、場所によってライフポイントが減る。
0となったら戦闘不能となり、その間は攻撃してもポイントを減らす事が出来なくなる。
が、5分経てば復活する仕組みだ。
最も、ゲーム時間は20分に指定されている為、その中で5分の離脱となるとかなり大きいが。
尚、戦闘不能になったプレイヤーは最新ホログラム機能で傍から見ると半透明姿となる為分かりやすい。
「あ、星崎ちゃんだ、やっほ~」
「は、はぁ……やっほぉ……」
「あはは、テンション低いなぁ、好きなゲームのアトラクションなんだからもっとテンション上げようよ~。
あ、元々星崎ちゃん、そんな感じか」
「あ、え、白夜、さんは……楽しい、んですか……?」
「んん?まぁ、それなりにね~。
雑魚相手に無双するなんて小物臭いって思ってたけど、意外と爽快なもんだねぇ」
「隙や……」
「おっと」
後ろからの攻撃を横に退けて躱し、逆に持っていた頭に得物の剣を食らわせる。
ちなみに、こちらもダンジョン産の特別製武器である為、攻撃された相手は衝撃こそ受けるものの実際にダメージは受けないようになっている。
元は攻撃力をゼロにするとかいう、冒険者泣かせの呪い武器に目を付けた遊園地業者が片っぱしから買い取って改良した結果らしい。
「ぐぉ!こ、この角度は、す、スカートの、絶対りょぶへぇぇぇ!」
「あ、やべ、キモすぎて踏んじゃった。
これ問題扱いなるかな?」
「……ならないと、思います」
「あはは、アトラクション自体は楽しいけど、ファンの奴らはキモいかも~。
まぁ、美少女のあたしに見惚れるのは良いんだけどさ、さっきも鼻息荒らげてるのとかいたし、ぶっ飛ばされてありがとうございますとか言ってるのいてさぁ」
「………そう、ですか」
オタクと言ってもそのあり方は千差万別だ。
なんだかんだやってる事が問題児である瀬奈も、これまで美少女キャラを見て萌え萌え言ったり、あまつさえ性的な対象にみるようないわゆる萌え豚、キモ豚などと侮蔑されるようなタイプのオタクは見た事がなかっただろう。
二葉からすれば、魔法少女物が好きな女子大生なんて何の後ろめたさがあるというのだろう。
美女が魔法少女を見て可愛いとかかっこいいとか言うのと、半裸の美少女を見て萌え~、とかエロ~とか言うの、どちらがよりキモく、万人にとって受け入れ難いか、火を見るより明らかである。
だからこそ、二葉は言いたくなかった。
見た目が違うだけ……。
露骨に太っていないだけ、露骨に不細工じゃないだけ、男じゃないだけ……。
二葉も、自分の本質はそこらで萌え萌え言っている男達と同類だと思っていた。
言うまでもなく、オタクに罪はない。
二次元の美少女にブヒブヒ言おうが、精液をぶっかけようが、犯罪でもなんでもない。人に迷惑を掛けているわけでもないのだから、許されてしかるべき趣味だ。
それでも、人間には生理的嫌悪がある。
二葉の経験則……そうした萌え豚オタクをとりわけ嫌うのは、自分と歳の近い、若い女性なのだ。
「……白夜、さんは……どう、思ってるんです、か?」
だからこそ、明確にしなければいけない。
確認しなければいけない。
彼女達が二葉をどう思っているのか、今後パーティをやっていくなら絶対に必要だから。
「どうって何が?」
「わ、私に、こういう趣味があるって。
し、正直に、教えて、欲しいんです……。
適当な、気の使われ方、とかして、腫れ物とか、そういう……扱いされるの、嫌なので……」
「ん~、そうだなぁ、はっきり言えば良いの?」
「……はい」
「えっと、じゃあ言うと……ぶっちゃけ、ちょっとキモいって思った」
「っっっっ!
………そう、ですか……」
(あぁ、やっぱりだ、やっぱり、そう……)
「まぁ、でも、趣味なんて人それぞれだし、それで特別どうって事も……うぉわぁ!?
なんで急に武器投げつけて来た!?」
(あぁ、そうだ、やっぱりそう思われてたんだ、私なんて、私なんてキモいって……!
分かってた、分かってたのに、こいつらと、少しでも分かり合えるんじゃないかって、認められるんじゃないかって、そんな、無駄な事考えて、あぁ、そうだ、やっぱり……)
「無理……」
「え?」
「あんたらとパーティとかぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっったい無理!
解散!何が何でも、絶対、解散してやるわ!!!!!!!」
二葉は近くに倒れた男の武器……拳銃を手に取ると、瀬奈へ向けて発砲した。
「ちょ、おわっ!?
いきなり切れてどしたの!?
え、まさかキモいって言われて切れて……いや、正直な感想言えって言ったのそっちだよねぇ!?」
「うっさい!くたばれ!死ね!守銭奴!元々てめぇが一番気に食わなかったんだよ!」
(もう何思われたって知るか、嫌われるかもとか、そんなの考えるのも止めた、どうせこの趣味知られた時点で後戻りなんて出来ないんだから……!)
「馬鹿にされて軽蔑されるぐらいなら、こっちからてめぇらなんて願い下げなんだよ!
あぁ、どうせてめぇらも私の事なんて嫌いだったんだろうが!
モゴモゴして、あんまりしゃべんない根暗で陰キャなブスだと思ってたんだろうが!
てめぇらが私を見下してるように、私だっててめぇらの事見下してんだよ!顔面と腕っ節だけが取り柄の性格ブスどもがぁ!」
「い、いや、まぁ、モゴモゴしてるとは思ってたけど、ブスまでは……てか、それ自分もブーメランなってるから!」
「うっさい!」
二葉は拳銃を撃った。
瀬奈は一見動揺したようにみせながらも躱し、二葉へ肉薄する。
「だぁ!もう!ちょっと、落ち付こうって!」
振るう剣、しかし二葉はそれを躱す。
拳銃を撃とうとして、弾丸が切れている事に気付いて近くの屍からまた別の拳銃を拾う。
「落ち付いてるし、むしろこれまでの私が冷静じゃなかっただけで!」
バンッ!バンッ!
銃声を鳴り響かせながら、瀬奈との距離を保つ。
「分かってたのに、どうせ他人なんて……女なんて、お姉ちゃん以外ロクな奴じゃないって……。
お姉ちゃんが言ったから、分かり合えるかもしれないって、少しだけ、期待して、お姉ちゃんが頑張れって言うから頑張って……でもやっぱり無理だった!
絶対、あんたらと分かり合うなんて無理!
仲良しこよしの冒険者グループなんて逆立ちしたって組めない!」
(ごめん、お姉ちゃん、でも、私は私なりに頑張ったつもり……だから、もう、良いよね?)
二葉にとっての人見知りは、相手に嫌われたくない、自分の本性を知られたくないという防衛心によるものだ。
よほど仲の良い相手でもないのに、その防衛を解くという事……それはつまり、相手に嫌われないようにする努力を放棄する事、相手とまともな意思の疎通をしようとする事を放棄する事に他ならない。
「死ね!死ね死ね!だぁ!躱してんじゃねぇや!クソカスがぁ!」
「躱すに決まってるって!
あぁ、もう!魔法使えないのがもどかしい……!」
魔法さえ使えれば対応出来る手段も増えるのに。
そう舌打ちをする瀬奈だが、一般人がそこらに多く転がっているこの場で、魔法を使う事は流石に咎められる。
そもそも、暴走している二葉自身も、魔法は一切使わず、武器もそこら辺に転がっている支給品しか使ってない。
これは彼女の理性……というより、推しのソシャゲのアトラクションを自分のせいで台無しとしてしまうのは嫌だというオタクの魂によるなけなしの良心だった。
そうでもなかったらとっくに魔法の一発でもぶっ放している。
「はぁ、はぁ、クソが、悪かったな、キモオタで……。こっちだって、二次元の女使ってブヒブヒするのがキモいぐらい分かってんだよ、でもそれで人様に迷惑掛けた?むしろ、キモいってだけで人を平気で叩いて、虐めて、それを正義だと思ってるてめぇらの方がよっぽどキモいし醜いしゴミだし、生きる価値ねぇんだよ、てめぇらの方がよっぽど見下されて当然の下等生物じゃねぇか、キモいオタクの私以上の下等生物が、人様見下してんじゃねぇよ……!」
その言葉は、瀬奈に向けたものだったのだろうか。
瀬奈は、なんとなくそう思えなかった。
その目はどこか虚ろで、瀬奈を通して、何か別のものを見ているように思えたから。
「言いたい事は、それで終わりかしら?」
バンッ!
銃声が鳴る。
間一髪で二葉は回避を試みるが、躱しきれず、腕に被弾する。
二葉の後ろのフロアの出入り口から、銃剣を手にした雫が姿を見せていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます