第12話 自己開示は相互理解の第一歩となる……のか?②
「そういえば雫っち、大学生だっけ。
あたしまだ高校生だし、大学っていまいちイメージ沸かないんだけど。
うぇーいでヒャッハー、な金髪パリピがサークルと称してパンパカヤりまくってるの?」
「あなたの大学生のイメージ、どうなってるのよ。
確かに、そういう大学生と呼ぶのも憚られる下等種族が一部、見受けられるのは事実だけど……」
次にターゲットとなったのは雫だった。
「とはいえ、うちはそれなりに名門の看板も背負っている学校だし、そういう輩はかなりの少数派閥よ」
「んで、彼ぴは?」
「……あなた、なんでそんな下らない事が気になる訳?
いるわけないでしょ。
男なんて、あんなものは不要物よ」
「恋人を作らないと作れないには天と地ほどの差があるって知ってた?」
「その言葉、そっくりそのままあなたに返すわ」
「んで、雫っちの事だから、やっぱり通ってる学科も難易度高いとこなんだろうねぇ」
「……いえ、学科を通るだけなら、そこまでの難易度ではないわ。
そもそも、ここ数年で新設された学科だから、まだ設備も教育環境も未熟と言わざるを得ないわね」
その答えに瀬奈は目を丸くする。
(ここ数年で新しく出来た学科っていうと……)
「魔法学科ね。
元々魔法はダンジョン内に眠る魔導書を解析し、読み解く事で人類の物となった訳だけど、そこから飛躍して、魔法の発動原理そのものを解明し、人間自身の手で新たなる魔法を発明し、魔法文化の発展に繋げる為に生まれた学科……だったかな」
琴音の言葉に雫は「そうよ」と頷いた。
「私も、多くの魔法を習得はしたけれど、それはあくまで魔導書の内容を暗記した結果。
まだ自分で魔法を生み出すには至っていない。
ここに、自らの手で魔法を想像する技術が組み合わされば、さらなる成長が見込めると確信しているわ」
(うわぁ、大学の学部までダンジョン絡みとか……この人、本当に冒険者ガチ勢なんだなぁ)
最も、Bランクまで上り詰めておいてソシャゲの課金代程度を稼げれば良いや、などと考えるゆる勢は二葉ぐらいだろう。
多くの冒険者は、これぐらいのランクまでくればさらなる高みを目指そうとするものだ。
「あ、つ、月野、さんは……その……。
し、出世、とかしたいんですか?」
二葉の質問に雫は目を細める。
「それは、どういう意図かしら?」
「え、あ、その……。
ランクアップとかして、Aランクとか、Sランクとか、なったら、面倒事も増えるけど……高みに行くって、事は、そういうのも受け入れるって、事だから……」
「何を当たり前の事を。
そもそも、力のある者が権力のある者に頼られるのは当然の事よ。
むしろ、私はそれを誇らしいと思うわ。
当然、最終的に自分の力の使い道を決めるのは自分だと思っているけれど。
別に、ランクアップする事が最終目標ではないけれど、自分が実力を身に付けた……それを周りに認められたというバロメータとして、ランクは分かりやすいと思っているわ。
そういう意味では……出世したい、となるのかしら?」
二葉は横から殴られた気分だった。
元より、二葉は出世なんてしたくなかった。
Aランクになる気なんてなかった。
だけど、Bランクに留まっていても名誉Aランクなんてクソ称号を預けられる、それならAランクになった方がマシ、という消極的選択だったのだ。
(でも、私と違って、月野さんは、自分の意思でランクアップを望んでたんだ……)
何より驚いたのは、そんな、本来ならパーティを組んだ最初の段階で知っていておかしくなかったような情報を、今更になって知ったという事だった。
(私……本当に、月野さん達の事、何にも見てなかったんだな……)
「私の話はこれぐらいで良いでしょ。
次は……白夜さん、あなた確か、定時制だったわよね」
「あ、次あたし?
うん、まーね。
仕事の合間、ちまちま夜に通ってるよー」
「あなたの年齢なら普通に全日制でも問題ないはずだけど……わざわざ定時制に通っているのは理由があるのかしら?」
「んん~、特に深いのはないよ?
でも、あたし、主に昼間に稼いでるからさー。
全日制より定時制の方が都合が良いってのはあるかな?
ダンジョンは夜でも稼げるけど、でも、夜に徹夜で潜った後に朝に学校行くって想像するとだっる~、って思っちゃったんだよね~」
「そもそも、わざわざ昼間に稼ぐ必要があるのかしら?
あなたの年齢なら、親に衣食住の面倒を見てもらって学校に通っているのが普通よね?」
(考えてみれば、そうだよね。
白夜って私と年齢、そんなに離れてそうにないし……。
親の扶養内にいるのに、わざわざ普通の学校に行くの諦めて昼に稼ぐって……)
「瀬奈ちゃん、すっごく貧乏って事?」
果歩が無神経にそんな事を口にする。
「あはは、ま、ある意味、外れてはないかな?
うちの両親さぁ、実は、蒸発してるんだよねー」
「は?」
目を丸め、間の抜けた声を発したのは雫だった。
「蒸発して、行方知れずになって、だからあたしだけで稼がなきゃいけなくなってさー。
だから、昼間に学校通ってる暇なんてないって事」
「待ちなさい。
両親が蒸発って、そんな事、聞いた事ないのだけど?」
「?うん、だって話してないし。
てか、進んで話す事じゃなくない?
あたし、こういう苦労話とか、進んでするの苦手なんだよねー。
隠してる訳じゃないから聞かれれば答えるけど。
テレビでもさ、芸能人の苦労話とかドキュメントとか見ると、ムズ痒くなるタイプだから」
あまりにもあっけらかんと話す瀬奈に、二葉もぽかんとしてしまう。
「まー、でもそこは、器用万能瀬奈ちゃんですからー。
すぐに冒険者として大成して、がっつり稼いで今じゃ良いとこ住んでますわー。
むしろあれしろこれしろ指図の多い両親がいなくなってハッピーまであるね」
「……その稼いだ大半の金は、人様から分捕ったものでしょうが」
「分捕ったなんて人聞きの悪い。
ちゃんと正当な対価だよ」
(ほとんど不正ギリギリだと思うんだけど)
「まー、あたしの話はここまでにしてー。
ラストは日南ちゃんねー」
「あ、うん!いっぱい話すね!
……でも、果歩、高校行ってないから、学校の思い出あんまりないの」
「それも今時珍しいよねー。
義務教育じゃないとはいえさ、今時、誰でも高校ぐらいは出てるもんでしょ?」
「えっと、果歩、実は、すっごく頭が悪くてね。
それで、親にも、公立か、頭の良い私立以外駄目だって言われてて……。
名前を掛ければ入れるような私立もあるけど、そこは凄く高いし、馬鹿に無駄なお金を掛けるぐらいなら妹の為に使いたいからって言われて……」
「……まぁ、知的レベルの低さは言葉からも読みとれるわね」
平然と失礼な事を言う雫。
「それで、どこの学校も受からなくて、働かなきゃってなったけど、どこの仕事も続かなくって。
仕事教えられても覚えられないし、よく物壊したりしてたから……」
「それで冒険者になったの?」と瀬奈。
「えっと、それは少し後。
でね、そんな駄目駄目だから、お父さんとお母さんにも出て行けって言われて、そんな時に会ったのがたっくんなの!」
(出た、たっくん……)
「たっくんは凄く優しいの。
果歩が駄目駄目で、馬鹿でも、果歩の事見捨てないの。必要だって言ってくれるの。愛してくれるの。
たっくんの為に苦手な家事も頑張って覚えたんだよ?
果歩が、仕事が続かなくて困ってるって知って、身体で稼げって教えてくれたの。
それで、冒険者になったんだよ。冒険者になったらいっぱい稼げるようになったし、果歩の天職はこれなんだって思えるようになったの。
だから、たっくんにはすっごく感謝してるんだよ」
(い、いやいや、身体で稼げって、それ、どう考えても……)
「それ、冒険者になれという意味ではなくて、水商売で稼げという意味だと思うのだけど。
そんなものを進める彼氏がロクな人間とは思えないわね。
というか、これまでの話を総括してもその人、まともな人間なのかしら?」
きっぱりと、口にする雫。
「?でも、身体で稼ぐって事は、身体を一杯動かして働けって事だから、冒険者でしょ?たっくんも、果歩が冒険者として働くの、応援してるよ?」
「それはたまたま、あなたに冒険者の才能があって、水商売をやらせるよりも稼げる事を証明したからよ」
「むぅ、たっくんは悪い人じゃないもん。
たっくんは果歩の救世主なの、神様なの、たっくんがそんな酷い人なんてありえないし、もし酷い事をしてもそれは全部果歩が悪い事をしたからなの。
たっくんの事何も知らない雫ちゃんが変な事言わないでっ!」
頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く果歩。
子供っぽい仕草だが、彼女なりに本気で怒っているのだろう。
(ん~、月野さんの言うとおりだと思うけど、全然聞く耳持ってくれないなぁ。
どう聞いても典型的なクソ彼氏だと思うんだけど、どうして頑なに認めないんだろう……)
若干空気が悪くなる中、店員が注文の品を持って来た。
「……折角料理が来たんだし、話はこれぐらいにしてまずは食べよっか」
これ以上話をさせても場の空気は悪化してしまうと悟ったのか、琴音がそう言って一度空気をリセットさせるのだった。
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