第10話 遊園地にやって来た

 トレジャーズランドはその名の通り、冒険者やダンジョンをメインテーマに添えた遊園地である。


 ジェットコースターやコーヒーカップ、観覧車など、王道アトラクションも一通り揃えているがそのテイストはダンジョンチックにものが多い。

 さらに、多くのアトラクションはダンジョンを模した施設内を探索するゲームとか、ホログラムのモンスターを倒してポイントを稼ぐようなゲームが多い。


 冒険者に憧れる小さな子供や、実際に冒険者になりたいわけではないがそういう気分を味わいたいという層には大人気の場所だった。


 また、人気冒険者が参加するステージにゲームとのコラボ企画による限定アトラクション、定期開催されるスタンプラリーに、遊園地内のアトラクションで貯められるポイントによるランキングシステムなど、客を飽きさせない要素が豊富にあった。


「良い、皆?

 こうして遊園地に皆を来させたのは、親睦を深めてもらう為。

 別にトイレまで一緒になれとは言わないけど、あくまで今日1日は団体行動をする事」


 なんて、引率教師の如く4人に忠告する琴音。


「は〜い、せんせ〜、しつも〜ん!」


「何、白夜さん」


「なんで御子柴せんせ〜がここ居るの?」


「……どこかの誰かが、私が来ないと遊園地に行かないと言ったからよ」


 そう言って、二葉に目を向ける。


「え、星崎ちゃんが?

 なんで?御子柴ちゃんと接点あったっけ?」


「え、あ、それ、は…………」


 話を振られ、咄嗟に反応を返せない。

 困って琴音に目を向けても、知らん振りだ。


(なんで?いつものお姉ちゃんなら助けてくれるのに……)


「あぅ、あ、お、おね、ちゃ……」


「おね?あ、もしかして、お姉ちゃんなの?

 姉妹?って、あれ?でも、名字違うけど?」


「白夜さん、その辺りにしなさい。

 人様の事情に首を突っ込むのは無遠慮よ」


 意外な事に、宥めたのは雫だった。


「え?人様いるのに無差別魔法ぶっ放す雫っちに、んなとこ気にするデリカシーあったの?」


「……ま、人様の財布の中身をどうやって分捕るかしか考えていない下賎な盗賊もどきさんの頭には、デリカシーなんてないんでしょうね?」


「は?あるし。バリバリあるよ。

 あるけどそれより好奇心を優先してるだけ!」


「一番悪質じゃないのよ……」


(ほんとにそうだよ)


「で、で、実際どうなの?」


(もう面倒だから姉妹って事にしとこうかな)


 関係性的にはほとんど代わりはない。

 そう思って琴音に目を向ける。

 琴音は何も言わなかった。


(……お姉ちゃんは、私達を交流させるつもりだから……。

 だから、自分が口出ししたら、私の為にならないと思ってる……とか?)


 そうとしか思えなかった。

 琴音が悪意を持って、自分が困っているところを無視するような人物ではないと、二葉が一番知っていた。


(うぅ、交流なんて嫌だな……話すの、嫌い……でも……)


「…………い、いと、こ…………です」


「従姉妹?」


 二葉はコクコク頷いた。


「へぇ、従姉妹をお姉ちゃん扱いとか、仲良いんだね〜、羨ましいわ。

 てか、星崎ちゃんって特定の親しい相手いたんだね。

 星崎ちゃんってもっとクールで冷徹ってゆーか……人を誰も寄せ付けない孤高の女って感じだったし、意外だわ」


(……クール?孤高?誰が?

 それ、月野さんのイメージじゃないの?)


 思わず雫を見た事で、雫は目を細める。


「あら、そこで私を見るという事は、私の事を冷徹な女だと認識しているのかしら?」


「ひっ、いぇ、め、滅相も、ございま、せん……」


「あはは、雫っちはクールじゃないよ〜。

 意外と挑発弱いし戦い方脳筋だし、意外と子供っぽ……」


「【アイスピラー】!」


「うぎゃあ!?ちょ、街中で魔法使うとか頭おかしくない!?」


 地面から生えたツララを間一髪で回避し、抗議する瀬奈。


「あら、ごめんなさいね。

 急激に目の前のゴキブリを氷漬けにしたい衝動に駆られたの」


「誰がゴキブリだよ、誰が!

 そういうとこ!雫っちはクールってより、クール(笑)なんだよ!」


(……考えてみれば、確かに月野さんって、よく挑発的な事言うし、白夜とも喧嘩してるかも……)


「でも、星崎ちゃんはそういうのじゃなく、本当に人との会話を嫌がってるっていうか、人と極力付き合おうとしないし、それでいて全部自分でどうにかしちゃうイメージ?

 あんまり笑ってるイメージもないし、てか笑う事あるの?」


(……単に、人付き合い苦手なだけなんだよなぁ。

 あと、他人といると緊張して表情筋強張るだけだし)


「ふふっ、二葉がクールて……」


 何がツボに入ったのか、笑い出す琴音。


「入口で何時までも駄弁って時間潰すのも勿体ないし、そろそろ中に入ろっか」


 そう、言い出して会場口へ向かう。


「あ、それと……二葉のそれ、クールでも冷徹でも孤高でもないわよ。

 単に、人見知りが行き過ぎて人との交流の仕方が分からないだけだから」


(お、お姉ちゃん、なんで言っちゃうの!?)


 別に隠していた訳ではないが、いきなりカミングアウトされてビックリする二葉。


「……そういえば、話す度にやけにモゴモゴしてたものね。

 あれ、嫌がらせでわざと聞き辛くしていたわけじゃないのね」


(そんな嫌がらせ、思い付きもしなかったわ!)


「あ、え〜、緊張しなくて大丈夫だよっ!

 遠慮しないで、たくさん話して良いから!」


 さっきまで黙っていた果歩がそう言う。


「あ、あ〜、はい…………ありがとう、ございます……」


(そう言われて饒舌に喋る人見知りはこの世にいねぇよ)


 心の中でそんな事をツッコミながら、二葉は園場に入る琴音の後ろに続いた。







「うわ〜、遊園地とか初めて来たよ、どれ乗る何乗る何でも良いよ?

 今日中に全部回るから」 


(いや、物理的に不可能だから)


「え〜、瀬奈ちゃん、遊園地初めてなの〜?

 果歩はね、昔、家族皆で来た事あるよ〜」


「あはは、ま、それなりに厳格だったんで」


(それでなんでこんな生物が完成したんだか。

 てか、厳格ならこいつのやってる事叱る身内は……いたとしてもこいつは無視するか)


「で、星崎ちゃんは?

 遊園地来た事あるの?」


「あ……ち、小さい、頃…………ここじゃ、ない、場所で……」


「うっはー、マジかー。

 あ、雫っちは……ある訳ないかー、雫っちだし」


「失礼ね、あなたは。

 あるわよ、それぐらい」


「え〜?雫ちゃん、遊園地来た事あるの?意外〜!」


「……あなたも失礼ね、日南さん。

 うちは親が大らか……というのはあまり関係ないけど、若い内の経験はなんでも積んだ方が良いって考えだったの。

 習い事も多かったけど強制されたものはないし、それより、休みの度にあちこち遊びに連れ回される事が多かったわ」


(そんな親に育てられて何故こんな性格に……)


 どう考えても、雫と瀬奈で親逆だろ、とツッコみたくなる二葉だった。


(ま、そんな事より……重要課題が私にはある……!)


 入口で受け取ったパンフレットを広げる。


(スタナイのコラボアトラクションでゲット出来るグッズとクーポン……!

 これだけは何としても回収する!)


 とはいえ、だ。

 この陰キャボッチ娘が、である。

 ここで素直に『ソシャゲのコラボイベントあるから行きた〜いっ』なんて言える訳もない。


(誰か、コラボアトラクションの方に行こうって言ってくれないかな。

 やっぱ自分で言うのは無理……てか、言ったらオタクがバレる)


 琴音に視線を送るが、当然無視された。

 なんとなく、交わる視線が『言いたい事は自分で言いなさい』と言っているように見えた。


「やっぱ定番といえばジェットコースターかな?あ、空中ブランコも気になる。てか、バンジージャンプとかもあるんだ」


(なんで、全部高所系なの!?)


「……ところで、それぞれ楽しみたいアトラクションは違うはずなのだし、別れてそれぞれがやりたいアトラクションをやる、というのが最も効率的だと思うのだけど……」


「だめ。

 これが交流の場だって忘れたの、月野さん」


 雫は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


(そういえば月野さん、お姉ちゃんから特別なチケットを受け取ったんだっけ。

 無料チケットがあれば大体のアトラクションは無料で乗れるはずなんだけど、どこか特殊チケット必要なアトラクションってあったかな?)


 パンフレットを覗き、探してみる。


(えっと、無料チケットとは別個のチケットが必要になるイベントは……『トレジャーキャッスルの一日プリンセス』『ジュエルキュアーズのコスプレショー』『新規オープン対人型VRバトル』……まぁ、月野さんのイメージ的に、プリンセスのコスプレとかエルキュアのコスプレは絶対あり得ないだろうし、VRバトルが有力かな)


 ちなみに、ジュエルキュアーズとは、小さな女の子向けに放送されている超有名なホビーアニメであり、フリフリフワフワの衣装に身を包んだ魔法少女達が怪人と戦うという、なんかどこかで聞いた事があるようなストーリーである。


(てか、スタナイだけじゃなくエルキュアともコラボしてたのかよ。守備範囲広いなぁ)


「あ、果歩はね、メリーゴーランド乗りたいな!コーヒーカップも乗りたいし、あとお土産屋さんにも寄りたい!夜のパレードも!」


(鉄板だなぁ……。

 あ、でも、白夜と日南さんの要望全部聞き入れたらスタナイのアトラクションに行く時間が……)


 パンフレットの時間を確認すれば、スタナイのアトラクションは5時までしか行っていないらしかった。


(絶対、足りない……くっ、ここは恥を承知で言い出すか……でも、オタバレは圧倒的な悪印象!

 私の16年の歴史がそれを物語る!

 こいつらに、私の弱みを見せるなんて…………!

 しかも、普通のアニメやゲームならまだしも、スタナイは……!)


「……確かに、交流という名目で私達はここに集まった。

 けれど、四六時中ずっと一緒にいては息も詰まるというもの。

 親しき友人同士でだって、24時間ずっと一緒になんていないように。

 だからせめて、昼時……12時~13時の間だけは、自由時間を設けるという事にしないかしら?」


(っ!月野さん、ナイス!)


 1時間もあれば、その間に単独でスタナイのアトラクションに参加して、戻って来る事が出来る。そう判断した。


「お姉ちゃん、そうしよ」


「あなた達……はぁ、そうね。

 1時間だけ、なら」


 琴音は間違いなく、二葉の意図を読んだのだろう。

 あからさまに呆れたような溜息を吐きながらも、渋々了承した。

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