第9話 ローテーションを終えて

「もう解消して〜〜〜〜!」


 本日は休日。

 最も、冒険者に休日はない。

 むしろ、平日は学校に時間を取られる二葉にとっては稼ぎ時。


 なのだが、現在は琴音に思いの丈をぶつけていた。

 ちなみに、 ギルドの個室である。

 そんな場所でもなければこの陰キャが、不特定多数の目があるところで大音量など出せる訳もない。


「無理無理無理!あんな奴らと分かり合うとか、協力するとか、ぜっったい無理!

 もう名誉Aランクでも良い!

 税金だけ好き放題取られて都合の良い時だけ利用される犬になる方がマシ!

 ストレス溜まり過ぎて昨日だけで200万も課金したわ!」


「衝動買いの感覚で使って良い金額じゃないわよ!

 てか昨日!?昨日、だけで!?」


「だってだって!

 それぐらいしかストレス解消方法ないんだもん!

 課金で一番高いパックドカ買いしてる時が一番ストレス抜けるんだもん!」


 ストレスの溜まり過ぎか、言葉遣いが退化している二葉。


「もう私頑張ったよぉ。

 あいつらだってあからさまにこいつらと居たくないってオーラ出してたしぃ。

 無理、パーティなんて無理、もう解消しよう、して良いよね、解消」


「…………二葉、あなたそもそも、彼女達とまともな会話もしてないでしょ?」


「うっ、そうだけど……。

 でもさぁ、関係なくない?あいつら性格悪すぎだよ。

 月野さんはフレンドリーファイア気にしないで無差別魔法ぶっ放すし、白夜はこっちを金蔓としか見てないし、日南さんは戦闘中に彼氏との連絡優先させるし……こんな奴ら、信用出来る訳ないじゃん!」


最も、そんな二葉本人は、女なら……というか、真っ当な神経をした人間なら誰もが嫌がる不人気ダンジョンをハシゴさせていたのだが、その事は無罪と思い込んでいる。


解消、解消と連呼する二葉に対し、琴音は首を横に振った。


「……私は、解消はしない方が良いと思う」


「どうして!?

 お姉ちゃん、私が人嫌いだって知ってるくせに!

 なんで、そんなに嫌いな相手と付き合えって強要するの!?」


「あなたが、ちっとも互いと向き合おうとしていないからよ。

 いえ、あなただけに限らないけれど。

 あなた達はまともな交流をする前から相手を拒絶して、パーティを組むと言いながら本当の意味でパーティになろうとしていない。

 だから自分本位になるし、相手の事を気遣えない。

 自分が相手に何をしてるかも自覚しないで、相手が自分にもたらした不利益しか見ていない」


「それは…………だって、これまでずっとソロだったのに。

 いきなり他人を気遣えとか言われても……」


 そもそも、それが出来ないからこその陰キャボッチなのだ。

 誰かと共に生きる才能がないと知ったから、1人で戦う道を見つけた。

 それなのに今更誰かと戦えと言われても二葉には無茶振りに感じた。


「……私はね、ちゃんと向き合えば、あなた達は分かりあえると思ってる」


「お姉ちゃん、目ぇ節穴?」


「違うわよ。

 私は受付嬢よ?

 私としか付き合わないあなたと違って、私は他の冒険者とも付き合いがあるの。

 もちろん、月野さん達ともね」


「めんどくさい客でしょ?」


「……否定はしないけどね。

 でもね、二葉。

 私は、今のあなたに必要なのは私じゃなくて、彼女達のような存在だと思ってる」


「?いらないよ、あいつら」


「……断言しないでちょうだい。

 あのね、もしも私がいなくなったらどうするの?

 家族以外、誰にも心を開けないまま生きるつもり?」


「え!?お姉ちゃんいなくなるの!?」


(いや、そんなのありえない。

 だってお姉ちゃん、まだ大学生だし)


 いずれどこか遠くの地域に就職して旅立つとしても、2年程度の猶予はある。


「もしも、の話よ。

 私は、あなたに視野を拡げてほしいの。

 たとえ、このまま冒険者を続けるとしてもこの仕事、何があるか分からないでしょ?

 歳をとって続けられるものでもないし……身内と仕事だけに依存して生きていたら、必ずいつか限界が来るわ」


(うっ、痛いところを……)


「と、いうわけで、あなたには彼女達と分かり合って欲しいの。もちろん、努力をした上でどうにもならないというなら仕方がない。でも、最低限の努力はして欲しい」


 琴音はポケットから4枚のチケットを取り出した。


「これ、何に見える?


「……遊園地のチケットに見えるけど?」


「その通り。

 あなた達のダンジョンでの様子を聞いて、今のままじゃ分かり合うなんて難しいと分かったからね。

 だったら、冒険者である事は一旦忘れて、普通の女の子として触れ合ってみたらどうかと思ったのよ。

 皆に予定を聞いて、確実に時間を合わせられる休日に当てて取った、1日全アトラクション無料チケットよ。

 高かったんだから」


「あ〜……お姉ちゃんと、うちのお父さんとお母さんとで行くって事?」


「……な訳ないでしょ、この話の流れで」


(だよね〜。

 お姉ちゃんと遊園地なら良かったのに)


「あなた達は互いの事を見ていない……でも、一緒に遊んでいるうちに、嫌でも相手の知らなかった一面とかそういうのも見えるようになるでしょ?

 人間、仲良くなるには娯楽が一番よ」


「一緒に遊べば仲良くなるとか、陽キャの理論だよ?

 てか、私、遊園地好きくないし」


(お姉ちゃんと一緒なら行くのもやぶさかではないけど。

 それでもジェットコースターとか、高い系苦手だし)


そもそもが、ボッチでいる事に安心感を覚える生粋の陰キャだ。

遊園地などという、陽キャどもの集い、この女が好んで行く訳もない。


「安心して、この遊園地、今、ゲームのコラボ期間で限定アトラクションも開催してるから。

 あなたの好きなゲームのやつよ。

 限定コラボグッズとか、ゲームで使えるクーポンパスワードの配布もしてるらしいわ。十分楽しめると思うの」


「うぐぉっ!?

 お、オタク殺しのワードを……!」


(た、確かにコラボグッズやクーポンは欲しい……!)


「ちなみに、他の3人には既に行く許可を貰ってるわよ」


「えっ!?うそ、どうやって!?」


「白夜さんは一番簡単だったわね。

 タダでチケットあげるって言ったらすぐに食い付いたわ」


(タダなら何でも貰うのか、あの守銭奴)


「月野さんはチケットだけじゃ釣れなかったわね。

 だから、彼女にはとある限定チケットもプレゼントしたわ」


「?限定チケットって?」


「そこは本人から聞いて。あの子、そこのところバラされるの凄く嫌がってるから」


(じゃあ聞いても教えてくれないじゃん)


「で、日南さんだけど……彼女が一番苦戦したわね。

 ほら、あの子、恋人至上主義だから」


「あ〜、なんか、たっくんのご飯作らなきゃ〜とか言って断りそうだよね」


「……まさしくその通りだったわ。

 彼女に関しては物で釣る事は不可能だったから、彼女の予定を推測し、確実に了承してくれる日をぶつける事にしたわ」


「予定を推測って……」


「このチケットの有効日、彼女の彼氏は1日丸ごと、とある用事の為に外出すると分かってるの」


「とある用事?」


「表面上は友達と日帰り旅行……だけど、その友達とやらは女らしいわ」


「あ〜、うん、もう言わなくても分かる」


(まぁ、あからさまな毒彼氏だもんね!

 そりゃ浮気ぐらいやってるよね!)


「……てか、お姉ちゃんはどこでそんな情報を仕入れるの?」


「今時、確実性を確保しようとしなきゃ情報なんてどこからでもゲット出来るわよ。

 人伝、ネット、SNS……特に、SNS利用者なんて特定してくださいって言ってるようなものだしね」


(怖い、ネット怖い)


「私、ネットは永遠にROM専で良いや」


(まぁ、今もROM専だけどさ)


「と、言うわけで最後はあなたの許可だけ取れば良いのよね。

 勝手にチケットを取ったのは私だけど、あなた達の交流会なんだから、あなた達自身が行くって選択しなきゃ意味ないし」


(つまり、ここで無理に断るって言う事も出来る訳か……。

乗りの良い白夜や緩そうな日南さんが了承するのはまだしも、月野さんまで了承したの意外だったな。一体なんのチケットで釣られたんだか……)


「……断りたいけど……それやると、お姉ちゃん、チケット代完全に無駄になるよね……?」


 衝動買いで課金200万も使えるブルジョワ陰キャ娘と違い、琴音は所詮、バイト職員だ。

 普通のバイトよりは給料が高いとはいえ、それでも少し割の良いバイトでしかない。


(所詮赤の他人なのに、あたしや、あいつらの為に大金使うとか、馬鹿みたい)


 馬鹿みたい、そうは思うが、そんな馬鹿みたいにお節介な彼女だからこそ、二葉も彼女を好きになったのだ。


「……分かった、私も行く。

 でも、条件付けて良い?」


「何?ファミレスで奢るの?」




「あいつらとプライベートでまでずっと一緒にいるとかガチでキツイ。

 だから、お姉ちゃんも遊園地付いて来て。

 チケ代は私が払うから」




 こうして、4人(予定狂って5人)の遊園地行きは決まるのだった。

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