第4話 あくまでソロ
トイレに行くという名目で戦線離脱した二葉。
調子が悪いから付いて来て欲しいという名目で琴音も引っ張って行き、近くの空き部屋へ入る。
「あいつらとパーティとか、ぜっ、たい、む、り〜〜〜〜〜〜!!!」
部屋の扉を閉め、早速思いの丈を叫ぶ。
「あいつら協力する気ゼロだよ!
仲良くする気ねぇよ!
あいつらとパーティ組んだら胃に穴が空いてくたばるわ!」
「ケルベロスに腹を噛み砕かれて生きてる女が何戯言言ってるのよ」
「外傷なら良いの!
魔力でいくらでも止血できるから!
でも体の内側からのダメージは流石に無理だから!」
「まぁ……正直私もあそこまで険悪になるとは思わなかったけど……。
でも、あなたもほぼほぼ同類よね、思考回路的には」
「私は言葉には出してないし!」
「単に人見知り過ぎて言葉が浮かばなかっただけでしょ。
それに、自己中心的だろうが身勝手だろうが、自分の本音をぶつけ合えるならまだコミュニケーションとしては成立するわよ。
何も喋らない、何を考えてるか分からない相手が一番対応に困るもの」
「……それ、私が一番ダメダメだったって事?」
「まぁ……甘めに言うなら、あの場にいる全員、コミュニケーションのやり方を失敗はしてると思うけど」
(つまり私も間違えてるって事じゃん!)
最初から意思疎通を放り投げて、存在感を消して何も語る事なくやり過ごそうとしていた女の対応が正解な訳もない。
「で、本音として、二葉はどうしたいの?
彼女達とパーティを組んで、どういう方針で動きたい?」
「……私、パーティでのプレイなんてした事ないの」
「うん」
「剣ならまだしも、銃なんて撃ったらフレンドリーファイアも怖いし」
「うんうん」
「誰かを気にしながら動くなんて無理。でも、自分の命を他人に預けたくもない。
だから……」
「だから?」
「あいつら全員私の後ろで待機して、私だけソロで戦うのが理想」
「結局あの2人と同じ思考じゃないの!パーティプレイの意味分かってる!?」
「分かってるけど、これまでソロでやって来たのにいきなりパーティで協力なんて出来るわけないじゃん!」
結局はそうなる。
これまでソロでやって来て、それでどうにかなってしまった面子なのだ。
いきなりパーティを組まされても、何が効率的な戦い方かと聞かれればどうしても自分がソロで戦う事しか思い浮かばない。
「……だから、何も言いたくなかったの。
本音を言っても余計な言い争いになるだけ。
だからって、気が利いた建前も思い付かない。
このまま空気で終わるつもりだったのに、あのクソ乳女ぁ〜……」
「全く話さない子がいるから意見を聞いただけの相手を恨むのは完全に間違えてるわよ」
「はぁ…………このまま帰りたい」
「駄目に決まってるでしょ」
仮にもトイレ名目で部屋を出たのだ。
何分も帰らなければ不審に思われる。
「……お姉ちゃんなら、あんな時、どうするの?」
「……そうね、私なら、まず全員分の意見を出させるわ。
その後で互いが利益を取れるように話を合わせる。
ここは妥協と譲り合いが物を言うけど」
「……私と…………日南さんはまだしも、あの2人に妥協と譲り合いなんて選択肢はないと思う」
そして、2人の意見は完全に対立するものだ。
互いが実質ソロプレイを望み、報酬の独占を望んでいる。
(ここで、協力し合って報酬は分割しましょうね、なんて話が出来ればこんな頭を抱える状況にはなってないんだよなぁ)
「いっそ全員ソロってのが最適解だと思うよ」
「何の為のパーティか忘れたの?」
(もう、ソロに向いてる人間を無理矢理パーティとして纏めようとするこの国やギルドなの仕組み自体が間違ってると思うんだけどなぁ。
………………ん?)
「あ、私、良い事思い付いたかも」
(これなら、敵も報酬も独占したいって2人も納得するかもしれない)
「良い事って何?」
尋ねる琴音。
「うん、それはね…………」
3分後
場面は会合部屋に戻る。
「い、1日毎に、ソロ担を決めれば、い、いんじゃないかなって……。
か、形だけ、パーティは組むけど、実際はソロで………。
で、1日毎に、メインで活動する人を交換する、的な…………」
偽りのトイレ休憩から帰って来た二葉は、そんな話を辿々しく切り出した。
(全員、ソロでやりたい、取り分も独占したい、そんなの叶えようと思ったらこれしかないよね……?
何か穴あるかな?
それとも、やっぱりいっぱい稼ぎたいから却下、とかされるのかな?)
不安に心臓をバクバクさせる二葉。
意外とまともに話を聞いてくれた3人の内、真っ先に口を開いたのは
「その条件だと、穴があるわね」
「へ?」
「1日周期というのはかなり非効率的よ。
そもそも、日南さん以外全員、学生と兼業なのに。
毎日常に冒険者稼業にのめり込める訳でもないのに、その担当日に他の用事が重なったらどうするの?」
「あ……」
(考えてなかった)
「その条件なら1週間周期とすべきね。
さらに、ソロ担当者は敵や報酬の独占権だけでなく、攻略するダンジョンの決定権も持つという事で」
難癖付けられる事も覚悟していたが、雫から出て来たのは思いの外前向きな言動だった。
「ん〜、出来れば全部独占したいんだけど、雫っちはゴネるし、そこが落としどころかもね〜」
多少不満はあれど割合納得の意を見せる瀬奈。
「ん〜、よく分からないけど、皆が納得するならそれで」
と、適当に同意する果歩。
「正直、1ヶ月の内3週間は稼ぐ事も出来ず他人の付き添いをしないといけないのは辛いけれど」
「自分の担当週以外は休んでオッケーなら完璧だね〜」
(それじゃギルドの示すパーティプレイの扱いにならないでしょ)
そもそもこの案でもあからさまにパーティプレイをする意思はないのでアウトなのだが、それをツッコむ者はここにはいない。
「あ、そだ、思い付いたんだけど、皆ってアイテムポーチは持ってるよね?」
アイテムポーチ……ダンジョン素材によって作られた魔道具の一種で、見た目は普通のポーチだが実際には見た目より遥かに多くの物体を入れる事が出来る、質量保存の法則を無視した素敵アイテムだ。
RPGによくある、やたらアイテムの入る謎袋である。
値段は安い物でも50万はくだらないものだが、一度買えば半永久的に使える上、ダンジョンで集めた素材の重量に悩まされる事もなく、大量に集める事が出来る。
その利便性の高さ故、上澄みの冒険者であれば誰もが持っているものだった。
「皆のポーチがどれだけのものかは分かんないけど、ソロだとどうしても持ち帰れる素材に限りがあるよね。
ソロ担当になれなくても、素材持ちをすればその分稼ぎは増えるし、それに報酬を支払うってのは?」
「つまり、担当者じゃない人は荷物持ちになり、荷物持ちとしての報酬を受け取れば完全無報酬労働は避けられると?」
「ザッツライト!」
雫に向かってグッドサインを出す瀬奈。
「確かに、他人様の為に完全無報酬で付き添って時間を無駄にするよりは精神的にマシね……報酬分配は?」
「ソロ担7割、他は3割を分割で。
所詮荷物持ちだし、1人1割も貰えれば良いでしょ」
意義は出なかった。
というか、ここで異議を出してソロ4割、他2×3割なんて図式にすると今度はソロ担になった際のメリットが一気に薄くなってしまう為、言い出せなかったのだろう。
(よ、良かった……思いの外、良い方に纏まって…………)
最も、本当に大変なのは、形ばかりだとしてもこれからパーティで行動しなければならない冒険者業の方だろうが。
今はただ、初めの関門を切り抜けられた事実に安堵した。
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