第3話 自己紹介②
雫と瀬奈がワーワーと言い合っているものの、そんな中、会話に参加しない者がいた。
二葉の事ではない。
その女性は、2人の言い争いに目もくれず、スマホに視線を落としていた。
「うん、うん、ご飯はいらないんだね、了解。たっくんも、お仕事頑張ってね」
スマホを弄りながら、ブツブツと独り言をつぶやいている。
(……おっぱいでけぇ、揉みてぇ……って、なんか私オッサンみたいだな)
その女性……
おっとりとした印象をもたらす柔和な顔立ちは紛れもなく美女と呼べるものだった。
しかし、それ以上に目を引くのはたわわに実った胸の果実だろう。例えるならメロンだ。
スタイルも良い部類ではあるものの、シュッとしたモデル体型の雫と比べるとかなり肉感的で、男の好みそうな体型に思えた。
しかも、そんな胸を半分も露出し谷間を見せつけた上で、身体のラインが出るようなチャイナ服っぽい衣装を着ているのだ。
流石にヒールなんて動きにくい靴は履いていないが、冒険者を舐めているのかと言いたくなる。
他が露出控えめの機能的な服装だからこそ、彼女だけ異様に浮いていた。
男性向けラノベの、別に痴女設定でもないのにやけに露出の多いヒロインを見ているような気分だった。
その豊満な肉体を見せ付けるような服装に、どこかふわふわとした印象を見て
(この人、絶対女の人から嫌われるタイプだよね)
事実、ギルドでも何度か彼女の噂は聞いた事があるが、あまり良いものはなかった。特に女性。
とはいえ、果歩自身が特別同性を拒絶しているとか毛嫌いしているとかいうのはない。
気難しい性格の雫や、心を許す気には到底なれない瀬奈に比べれば、まだ幾ばくか付き合いやすそうな相手であった。
「……ところで日南さん、仮にもパーティを組む者同士の会合の場で、スマホばかりを見ているのは態度が悪いと思うのだけど」
(あ、飛び火した)
雫に追及され、果歩はスマホから顔を上げた。
「あ、ごめんなさい、たっくんからラ○ンが入ったから、すぐに返さないといけないから。
たっくんは几帳面だから、通知が入ったらすぐに返さないと怒っちゃうの」
(誰だよ、たっくん)
「誰よ、たっくんって」
二葉の心の声と雫の声が重なる。
「果歩の彼氏だよ!
凄く優しくてかっこ良くて努力家でイケメンなの!」
(かっこ良いとイケメンは同じでは……)
「彼氏とのチャットは後でやってくれる?
今は曲がりなりにもパーティを組む者同士の会合の場よ」
「分かった~」
意外とアッサリ言う事を聞き、スマホをポケットに仕舞う果歩。
「で、会合って何するの?
自己紹介?お酒飲むの?果歩、炭酸苦手だからビールは嫌だよ」
「合コンや飲み会と一緒にしないでくれる?
会合っていうのは……打ち合わせのようなものよ。
これからの方針を決めるの」
「あはは、でも酒飲みながらってのも悪くなくない?
世の中のオッサンって、酒飲みながら親睦を深めたり、仕事の話したりしてるじゃん」
「……一億歩譲ってその案を採用するとして、ここにいる3人が未成年である事を忘れてないかしら?」
(一億歩って、実質譲ってないんだよなぁ)
ちなみに、ギルドの個室では軽食や飲み物などを頼む事も出来る。
今は未成年が3人もいる状況なので論外だが、酒も頼む事は可能だった。
「それに……私は、あなた達と慣れ合うつもりはないわ。
Aランクを目指す為の必要事項だからパーティを組むけれど、足手まといと慣れ合うつもりは微塵もないもの」
雫がそう言った途端、部屋の空気がほんの微か、下がった気がした。
「ふぅん、足手まといね」
「そうでしょう?
そもそも、私は本来ならパーティを組む必要はない。
一人でもAクラス……いえ、Sクラスの仕事をこなせる自信があるわ。
たかだかランクが同じというだけで同列に扱われ、足手まといを押し付けられて、正直な話迷惑だもの。
日本の慣れ合いの文化には本当に迷惑しているわ」
(うわぁ、すごい自信……こんなプライドエベレストな性格じゃ、パーティなんて出来るわけないよなぁ)
「ランクアップの為にある程度はパーティでクエストを受けるわ。
でも、あなた達は何もしなくて結構。
私が全て片付けてあげるから、餌を与えられた家畜の如く棚ぼたランクアップを喜んでいなさい」
「は?え、それって報酬の取り分はどうなるわけ?」
「当然、私が全てを片付けるのだから私が全て貰うわ」
「ぜぇぇぇぇぇたい、却下!
金にならないダンジョン探索に意味はなし!
それならあたしが単独で活躍する!んでもって報酬は全部あたしのもの!」
「ふん、大した火力もない器用貧乏がほざかないでくれる?
私ならどんなモンスターでも瞬殺出来る。効率的に素早く、ダンジョンの攻略が出来る。
あなたにそれが出来ると?」
「あ、言ったな、ゴラァ!
ソロ専で活動するなら器用貧乏の方がむしろ便利だし!
あたしの場合器用貧乏じゃなくて器用万能だし!
RPGの勇者ポジだし!魔法しか脳のない雫っちよりむしろ優秀まであるから!」
「ふん、大した取り柄がない人は必死ね。
そもそも、この中で一番信用出来ないのはあなたよ。
違法スレスレの犯罪もどき行為でしか金儲け出来ない小物のくせに」
「ふ〜ん、じゃああたしと雫っちで通帳の中身でも比べてみる?
絶対、あたしの方が稼いでるし。
多少火力があったって、結局この界隈、稼げる方が優秀だと思うんだよね〜」
(うわ〜、バチバチだよ、この2人。
もうこの時点でパーティ組むとか不可能でしょ。
そもそも、まともにパーティプレイする気すらないし)
「ねぇ、二葉ちゃん」
「っ!?ひ、ひゃい!?」
まさか自分が話し掛けられるとは思わなかった二葉。
思わず、立ち上がらんばかりの勢いで声が上擦る。
「な、ななな、なん、です、か?」
そんな声に、言い争っていた雫と瀬奈の視線まで集まってしまった。
(うっ、コカトリスに四方八方から睨まれたような絶望感……)
「えっと、呼んでみただけだよ?
二葉ちゃんだけ全然話さないから、何考えてるか分かんないんだもん」
(こ・の・アマァ〜!用がないなら話しかけんな!寿命縮むわ!)
かなり理不尽な理由で果歩に対する好感度を大きく下げる二葉。
「……確かに、あなたさっきから全然喋らないわね。
何を考えているのかしら」
(さっさとこの時間が終われという事しか考えてねぇよ!)
「あ、えと、ですね……」
この場の最適な回答が分からず困り果てる二葉。思わず視線で琴音に助けを求める。
(助けて、お姉ちゃん)
「……」
が、視線を逸らされる。
助け舟を出すつもりはないらしい。
(お姉ちゃぁぁぁぁぁん!?)
「どこを見ているの?
あなたは人に話し掛けられたら目を逸らせとでも教育されたのかしら?」
「あぅ、あ…………」
ギロッと睨まれ、いよいよ頭がテンパる。
(答えの返し方が分からない、目が怖い、メデューサと戦った時より怖い、メデューサに睨まれる方がマシ)
尚、メデューサは石化の能力を持つモンスターで、睨まれれば石にされて死ぬ。
(メデューサなら目を閉じて適当に銃ぶっ放して壊せばおしまいなのになぁ。
あ、つまり月野さんも壊せば怖く……あぁ、駄目だ、生身の人間を殺したら犯罪になる)
仮に琴音が聞けば、「犯罪にならなければ殺すのか」とツッコミを入れるような事を考える二葉。
「あ、と、その……」
「何よ、言いたいことがのあるならさっさと言いなさい。
私は回りくどい事を言って時間を無駄に消費する輩が大嫌いなの」
「あ、その、ぅぁ………………」
考えて、考えて、何も返せる答えがなく頭が真っ白になった結果
「…………お、トイレ、行って良いですか……」
二葉は逃げる事を選択した。
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