第159話 アズマ・ミヤコは相棒を問い詰めたい 4-2
無線機の向こうで、笑いを舌の上で転がすような気配があった。
「いくらなんでも、それは
同時にどうしようもなく湧き上がる嫌悪感を抑えきれなくなってしまう。
「貴女がわざわざ私のことを友達なんて言い出した時点で、もっと怪しむべきでしたね」
「そんな悲しいこと言わないで、
〈
無線越しに聞こえ続ける凄まじい風切り音は、
JKを追ってるというのも、ウソではなさそうだ。
それでもわずかに
いずれにせよ、とても他の者に聞かせられるような話ではなかった。
「つまり半分は正解、半分は間違いという意味ですね、
やはり、この襲撃にはふたりの意志が介在していたのだ。
囚人たちを指揮してるのは、オジ・グランフェルの他に考えられない。
そしてオジを
囚人同士の協力を
だがあるとき、たった一度オジと同じ牢になったというだけの囚人が、あの人に対する扱いがあまりに
ついには、頼むからあの人を手伝わせてほしいと看守にすがりつく者まで現れるようになってしまった。
誰もが明日をも知れぬ状況で、なにが囚人たちにそこまで言わせるのか。
あの人と呼ばれているのは、ブラックオアシス製油所にはすでにオジの正体さえ知らない者のほうが多くなっていたからだ。
あの男には、他人を
以来、牢へ戻すこと自体を取りやめることにした。
毎晩気絶するまでポンプを回すよう強要し、夜明けまで作業場に放置することにしたのである。
あの男は、それでも今日まで生き残ってきた。
この事実だけでも脅威を感じるには充分過ぎたが、
「貴女は、わざわざ鋼鉄の鎖を外してまで、あの男を荒縄で
「先月、私がオジ様を連れ出したときのことを言っているのぉ?」
無線機の向こうで
直後に石造りの廊下を
「錬金術の使い手も、あのおじさんか!
貴女はそれを知っていて報告しなかった。
牢を移動させていたのも
「私は、誰にもこうして欲しいなんて頼んだことはないわぁ」
「
どうしてッ!?」
こいつはこういうことをしかねない要注意人物だとわかっていたはずだ。
なのに、どうして?
どうして裏切った?
どうして
どうして、自分の邪魔をするような真似をするのか!
もっと警戒しなくちゃいけなかったのに……どうして、ほんの少しだけでも気を許したりしたのか?
さまざまなどうしてが胸を詰まらせ、その先の言葉は喉につかえて音にならない。
「残り十五発。次に弾倉交換するタイミングで仕掛けるわ」
なのに
裏切っておきながら、戦闘を
「もちろんあの〈
だから予想よりも被害が大きくなったことは確かかしら」
「……認めると、言うんですかッ」
予想通りの答えだったにも関わらず、それは
余計に気持ちをささくれ立たせてしまう。
突然、異世界へ放り出されてから一年近く、ほとんど腐れ縁のように行動を共にしてきた。
ろくでもないヤツなのは知り尽くしてても、今まで
力いっぱい感情をぶつけてやりたいくらいなのに、
「貴女のせいで、製油所の復旧にどれだけ時間がかかると思うんです!?」
「こんなゴミみたいな施設より、どう考えたって
……………………は?
予想もしなかった言葉にフリーズしてしまう。
「ここのオイルに戦略上大きな価値があることくらいわかっているわぁ。
でも、それで
たとえ中佐の命令でも、そこは
油田の確保も世界征服も、あくまでついでのことに過ぎないわぁ。
私たちの目的は、すべての〈
そのためには、まだまだ
なにを言ってるんだ、こいつは?
わけがわからないのに、どういうわけか胸が熱くなってしまう。
製油所の司令官に
すべては自業自得で、言い訳なんかできない。
逃げ場がない。
だからこそ岩の上に頭を押しつけられたまま、ハンマーで何度も何度も
全部全部、自業自得だったから。
眠りに落ちる度、悲鳴を上げて飛び起きてしまう。
食欲を消滅させたまま無理やり食事を呑み込むと、胃袋を直接手で
口に入れた以上の分量を吐き出し、胃液が尽きた後でも
なにを
なにを生意気に眠りこけてるんだと、頭の中で膨れ上がる名も知らぬ人たちの
けどそんなとき、なぜかよく
手洗いの外で待っていてくれたのも一度や二度ではない。
どうしても寝付けずに部屋を出たとき、深夜にも関わらず
背を
やさしい言葉をかけてくれたことなんて、一度もない。
なのに、どうしてかいつも
そのことが唐突に胸に迫ってきて、熱い
「れ、
そのためにあえて見逃していたんじゃないんですかっ」
「なにもかも他人のためだなんて、いくら
私にだって私の目的があるというだけ、そういうものでしょぉ?」
ああ、そうだ……こういう子だった。
そして今、もともとの目的であるオジ・グランフェルより、〈
その一点に対してのみ、この女は誰よりも信用できた。
だから
「ならば確実に〈
「了解よぉ、
通信が切れる。
その寸前、戦闘狂と恐れられる相棒が風となって飛び出していくのがわかった。
そして
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