第122話 オジさん騎士に都合のいい必殺技など存在しない 10-8
女性としては
それでも彼女が床を
なのに反撃するオジの足元では、
スピードの差に至ってはあまりに歴然であり、
その圧倒的速度は風さえも追い越し、
オジがまだ彼女の猛攻を受け切ってるのは、ただの奇跡としか思えない。
なにせ、オジはそう早く動いてるわけではなかった。
気づけば大聖堂の屋根を半周し、徐々に
最大限、体力の
周囲には
口の中には透明なよだれが
剣撃を受け流し、銃撃をかわしながら、限界を訴える肺が
それでも勝機は遠く、勝勢は見えない。
積み重なる疲労に押し潰されそうになりながら、ただ耐えるばかりである。
そう、オジの人生とは耐えるばかりのものだった。
「ねぇ、まさか受けるばかりで攻め手がないなんて言わないわよね?
ねえっ、ねえ? なにかあるんでしょう、ねえ??
このまま追い詰められて
「はあっ、はあ! だろうなッ」
オジだって、自分のことを退屈な人間だと思う。
残念ながら天才的ひらめきによる逆襲もなければ、圧倒的威力の必殺技による逆転など都合のいいこととは無縁でやってきた。
「だったら、どうして耐えてるのぉ?
貴方には援軍なんてない。
耐えれば耐えるほど、時間が
コスパってものを無視した、ただのおじさんだっていうなら期待外れもいいとこよッ!!」
「こすぱ? 効率重視といった意味か」
昔からオジは
コスパなんてものが重視される世の中なら、きっとオジは落ちこぼれだ。
だがもし、ひとつだけ誇れるものがあるとしたらなにか。
若者に伝えられるものがあるとしたら、なにか。
「いいわぁ、だったら切り札を出させてあげる!」
間合いを取った
オジもまた
「
「シールドコンバット、技名などッ――ない!」
一瞬が無限に引き延ばされるような体感時間の中、
体内に宿る燃焼の〈
水平に構えた一刀を圧縮された
自らが起こす
直後、
オジが突きの軌道上に盾を上げただけだったからだ。
先ほども彼女の一刀があっさり盾を切り裂いたばかりであり、以前ただの一般兵が放った突きに貫通されたこともあった。
「防げるはずないでしょぉぉぉッ!!!?」
「……耐えることだけだ」
なんと
そして、刃を喰い込ませたまま――止まる。
驚愕は遠く、理解さえ
一瞬よりも、さらに短い時間!
すでにオジは盾を返し、刀ごと
彼は魔法を
実はそれは、身体の延長と思えるほど使い込んだ道具にも適用される。
さらに重装騎士として幾度も死地を乗り越えてきた経験は、自身が“盾”と認識したものにも強制的に適用させるに至っていた。
だから木の盾だろうと、ただのベッドだろうと、弾丸の貫通さえ許さぬ強度を得る。
「
もっとも、妖刀がまとう
それでも
無防備な肩口に向かい、オジは片手剣を
真っ向からぶつかる運動エネルギーを武器に、腰を重心とした遠心力によって
胴体を斜めに両断するであろう、会心の一撃だった。
だが直後、
やはり、勝機はまだ遠い。
回転しながら宙を舞っていくのは、半分に折れた片手剣の先端のほうだった。
代わりに手のひらで無数の立方体が浮き上がり、すぐさま別の刀を
オジは〈武器ロッカー〉のことなど知らない。
だから、予想できるはずもなかった。
またも、繰り返してきた敗北の記憶が
ただの凡人が天才に囲まれながら旅をしてきた。
楽な戦いなど一度としてなく、訓練でも、実戦でも、常に相手はオジよりはるか格上だった。
敗勢こそ日常だった。
代わりにオジは誰よりも格上の相手と戦うことなら慣れていた。
気づいていたわけでも、知っていたわけでもなく、むしろ信じていたと言っていい。
真に才能溢れる人間とは、
裏をかき、勝利を確信するような一撃を放つときこそ、必ずダメ押しの追撃が必要になると信じていた。
だから完全に予想外だったにも関わらず、オジの身体はさらに間合いを詰めている。
「ぬぉおおおおおおおッ!!!」
「ウソぎゃッ!!?」
烈火に燃え上がる盾が整った鼻筋を
力任せに盾で
――もちろん、技名などない!
あえて言うならば、それはおじさんなら誰しも持っている経験の差という名のチートだった。
地震でも起きたような衝撃に銃手たちも足元をぐらつかせる。
それでもオジは
二人して天井の崩落に巻き込まれてしまう。
吹き下ろす土煙が爆発的に広がり、オジもまた大量の石材とともに墜落しながら、聖堂内に中佐の姿があるのを認めていた。
「バカな! なにをやっているのよ、
「言ったはずだぞ、逃がしはせんとッ!!」
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