第105話 JK狙撃手は戦う準備を始めている 8-12



 バレットM-95は狙撃に特化したタイプの対物アンチマテリアルライフルだ。


 あたしが携行けいこうする銃の中ではもっとも口径こうけいが大きく、派手で心地いい破壊力と二千メートルを超える射程が魅力のクールビューティーである。


 どうしても銃と結婚しなきゃいけないってときは、あたしなら彼女を選ぶ。


 12.7mm徹甲弾てっこうだんは、大型モンスターの頭蓋骨ずがいこつをも一撃で破壊する。

 残弾数は、まだ十五発ある。



 Mk-13スナイパーライフル、あたしがもっとも信頼を置く狙撃銃だ。


 .300ウィンチェスターマグナム弾は、射程が千三百くらい。

 実は、最新の狙撃銃に比べると射程はやや短めになる。


 けどあたしは狙撃手としての腕前は遠くから撃つことより、可能な限り接近するスニークにあると思ってるので射程は千もあれば充分、安定性のほうが大事って感じ。


 どうしても遠くの敵を撃ちたいときは、素直にM-95を使えばいい。


 残弾は、十三発。

 ケット・シーの集落のあと峡谷きょうこくでの決戦でも使用したため、残弾数は若干頼りないか。


 もともと狙撃用の銃ではあるけど、乱戦で使うのはけたほうがよさそうだ。



 M-4カービンは、短銃身のアサルトライフルだ。


 屋内でも取り回しが楽なのと、5.56mm弾は反動も小さくハッピーに弾をバラくのに適している。


 残弾数、九十六発。

 この子の性能をフルに生かすなら少し心許こころもとないが、対人戦では頼らざるを得ないだろう。



 M-18ハンドガンは、あくまで補助武器サイドアームと考えるべきだ。


 使用弾丸は9mmパラベラム弾。

 今までも容赦ようしゃなく撃ってきたはずだけど、残弾数はまだ百二十発ほどある。



 女子高等軍事学校では警備任務にサブマシンガンが採用されており、こっちの銃にも同じ9mmパラベラム弾が使われている。


 どうせ弾をバラくならM-4カービンを使えばいいので、マガジンから弾を抜いてハンドガン専用にさせてもらった。


 残弾を気にせず撃てる銃を一つは持っておきたかったからだ。



 他にもショットガンやリボルバーなんかも出せなくはないようだけど、メインで使うのはこのよんちょうしぼりたい。



 敵がどれくらいの戦力を保持してるか、まだ未知数だけど、これだけあればひと暴れするには充分だろう。




 そうして七日目の朝に、旅立ちの日がやってきた。


 オジが砂流船さりゅうせんの席を取ってくれたのが、ちょうどこの日だったのだ。



「本当は港まで見送りに行ければよかったのですが」



 チケット替わりなのか、オジから木製の割符わりふを渡される。


 港で見せれば、砂流船に乗せてもらえるようだ。



 いつもオジのほうにばかり行く三毛の子ネコも別れを悟ってか、今日に限ってやたらとあたしの足にじゃれついてくる。



 ただ出発しようとしてるのは、あたしだけじゃないらしい。


 今までヒマを持て余していた傭兵達が、今朝になって慌ただしく出発の準備を始めたのだ。



「いいよ、忙しそうだし。

 オジ達もどっか行くの?」


「ええ、第四オアシスの辺りでまだローエン大公の手勢てぜいが抵抗を続けているようなのです。

 その掃討そうとうへ向かわねばなりません」



 いやにあっさり教えてくれるな。


 除隊する人にそんな簡単に作戦のこと話しちゃダメだよ。



 けどオジもすでにレザーアーマーを着込み、すでに戦場のよそおいに変わっている。



 急にあたしを砂流船さりゅうせんに乗せようとしてきた時点で、おそらくそうではないかと思っていた。


 やはり、次の戦いが近かったのだ。

 そしておそらくは、前回とは比較にならないほど戦況が悪いということも。



 あたしは足元の子ネコに手を伸ばし、脇の下をつかんで抱き上げる。



 するとかわいた風が砂塵さじんを巻き上げ、ふたりをへだてて吹き抜けていった。


 あたしは砂煙さえんかすむオジの姿を、しばし網膜もうまくの奥に焼きつける。



 子ネコは胴体をみょいーんと長く伸ばして、ニャーと鳴いていた。



「この子のこと、お願い」


「いいのですか?」


「オジのほうがなついてるみたいだし。

 あたしは結局、名前もつけられなかったな」



 腕を伸ばして差し出すと、子ネコのほうもオジの肩に飛び移り、甘えるように首筋に頬ずりし始める。


 オジはくすぐったそうにしながらも、脇腹の辺りに留めていたダガーをさやごと外してしまう。



「急な別れになってしまいましたが、どうぞ餞別せんべつです。

 JK、貴女の旅の無事を祈っています」



 どうやら、くれるということらしい。


 正直、今までオジがくれたプレゼントの中では断トツに嬉しい。



「助かるけど、いいの? これってやたらいい物だったりしない?

 思い入れがある品を人にあげたりするのも、死亡フラグだったりするんだよね」


「はは、見た通りただの使い古しですよ。

 それにナイフなら、他にもありますから」



 オジはウエストポーチから別のナイフを出してくる。


 新品らしい立派なナイフを、脇腹の同じ位置に留め直していた。



「実は、初恋の女性からいただいた品です。

 なかなか使う踏ん切りがつきませんでしたが、これからは戦場を共にしてもらうとしましょう。


 どうぞ、JKも私のダガーなど使い捨ててください」



 ほーん。

 そういうこと、ほーん。



 子ネコも肩の上から爪を伸ばし、ナイフのつかを攻撃していた。



「ナイフの使い方はわかりますよね?」



 直前に余計なこと言われたせいで、あんまり気乗りはしなかったけど武術についてはオジを尊敬していたので素直に構えてみる。



「ほう、いいですね。

 しかし順手じゅんてではなく、逆手さかてで構えたほうがいい」


「なんで? 逆手さかてちは映画の演出じゃないの」



 ナイフを持つとき、刃を上にした普通の握り方が順手じゅんて、刃を下に握るのが逆手さかてだ。


 逆手さかてに握ると、なんとなく格好いい感じがするんだよね。


 だから映画やアニメのキャラがよくやってるイメージだけど、現代戦の近接戦闘術CQCでは順手のほうが有効とされている。



「エイガというのがなにかはわかりませんが、順手じゅんてよろいを貫通するのは難しいんです。

 女性の力で確実に仕留めるなら、逆手さかてでしっかり体重をかけたほうがいい」


「そっか、こっちの人はよろいを着てんだもんね」



 まあ、を狙えば順手でもいけそうだけど、ここは素直にアドバイスに従っておこう。



 弾丸は有限だ。

 生かす機会はきっとあるだろう。



 そこへ入隊してきたときに乗ったのと同じ、人員輸送用の馬車が到着してしまう。


 あれに乗り遅れたら、歩いてカガラムを目指さなくちゃいけなくなる。



「JK、最後にこれを」



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