異界戦乱のイージスバレット ~JK狙撃手とオジさん騎士の異世界バディが血を血で洗う戦乱に終止符を打つ~
夏目 錦
熱砂の都市カガラム 前篇 その1
序章 スナイパーJK、異世界転移する -Prologue-
第1話 スナイパーJK、異世界転移する その1
タピオカミルクティーって知ってる?
いきなり、鼓膜の奥に場違いな言葉を放り込まれる。
タクティカルヘッドセットから届く意味不明の単語に意識を
『知らん』『知らね』『ドトールで売ってるヤツじゃね?』
『ないない! うちドトール百万回行ったことあるけど見たことないし』
『えー、あるってー』
「あんたらさー、いま警戒任務中ねー」
使い古しの電信機器から発信される暗号電波が、クラスメイトの賑やかしい声で埋め尽くされる。
すぐ隣で
六人で構成される狙撃班のメンバーたちは二人一組に別れ、各階に散って任務に当たっているはずなのだが、これでは耳元に棲みつかれてるのと変わりない。
とはいえ私も一応、スコープの十字サイトから目を切っていないだけで、この任務が形だけのものでしかないのはわかっていた。
なにせどれだけ倍率を上げたところで、見えるのはビル、ビル、ビル。
それもとっくに街ごと放棄され、最上階まで
中にはどうして倒壊しないのか不思議に思うほど斜めに傾いたものまであるくらいだ。
割れた強化ガラスの向こうでは、倒れたコピー機に、散乱するオフィスデスクがそのまま、部屋の真ん中には
破れたアスファルトにも水が溜まり、むしろ熱帯雨林の中にあとから街を建てたんじゃないかと疑いたくなるほど緑によって侵略されていた。
当然ながらこの辺りは前線からも遠く、戦略的価値も低い。
浄化作戦もとっくに完了してるはずだが、だからといって放っておくには不安が残る。
多少の撃ち漏らしが惨事を引き起こすことも、まあないとは言えない。
念のために引かれた警戒線の、さらに内側にあるようなポイントなのだ。
そんなところに戦術セーラー服を現役で着こなす本物の女子高生ばかり集めてしまえば、ピクニック気分になるのも当然のことでしかないだろう。
みんなの話題はすでに、どうして私たちの地区にはスターバックスがないのかということに移っている。
「ねえ、タピ……ってなに?」
我慢できずにそう聞くと、一瞬、電波が凍りついたみたいに静まり返る。
不安になって、可愛い名前のお茶だねと
『やっぱあんた、たまにオモロイわー』
『普段、感情読めない感じだから余計にね』
……
他の子たちは、堅物の
先生たちも支給品以外の私物であれば文句を言わず、武器デコをしてないのはクラスでも私だけだった。
むしろセーラー服の上からモッサモサのギリースーツを羽織り、真面目腐った伏射姿勢でMk-13スナイパーライフルをかまえる私のほうが異端なんだろう。
つまり、私は仲間内でも少し浮いた存在だった。
実際、廃墟化したタワマンでこんなことをしてる十七歳というのは、冷静に考えて凄く怪しいヤツなのではないか。
『あのね、原宿のJKの間で
最初にタピなんとかの話を持ち出したマユがそう説明してくれる。
『だから知らんて』『流行ってるかー?』『なに時代の原宿なんよ、石器時代?』
「ねえ、絶対この中に知ってる子いるよね?」
気になり過ぎて集中できないと訴えてみたところ、代わりに
「確か、イモを
それミルクティーに入れて飲むのが流行ったんじゃなかったっけ」
『ウッソ、イモ!?』『無理無理っ、それはないっしょ~』
『いや、味はけっこういけたよ』
いやいや、ポテト入りミルクティーが美味しいなんてあり得る?
それこそ石器時代の味覚でなきゃ、そうは思えんでしょ。
なのにタピオカ知ってる派からは、おおむね好評のようだった。
しかも今まで定期的にブームが来て、何度も流行ってきたというんだから信じられない。
だけど、聞いてるうちにだんだん飲んでみたくなってくるんだから不思議なものだ。
「てか、あれ流行ったのって五年くらい前だよね」
『うえ、ガチで石器時代じゃん』
「高校は三年しかないんだからさ、私らが五年も前のこと知るわけないってわからないもんかな」
彼女は私たちが所属する女子高等軍事学校、二年D組狙撃班の班長ということになっている。
その分、上の世代と接する機会が多いせいか、大人に対する
「あの先生、マジ老害っ」
『いや、でもこないだ私も思ったわ』
長くなりそうな雰囲気を察してか、第二狙撃手のサキが即座に話を巻き取った。
サキたちも下の階から、地上を通る〈標的〉を探しているはずだ。
私たちが探す〈標的〉については一応、極秘ということになってるので、今は秘密にさせてもらいたい。
『ほら、今年の新入生の子ら見た? うちらも一年前、こんな初々しかったのってさ。
一年生から見たら、高二とかマジおばさんじゃね?』
『わかるわー、私ら齢取ったよねぇ』
なんとも、年輩の人が聞いたら本気で怒り出しそうな会話が始まってしまう。
けど女子高生というのは、ある意味無敵なのだ。
自分たちをおばさん呼ばわりしてケラケラ笑えるなんて、それこそ女子高生でもなきゃできないことだろう。
「はいはい。みんなこれくらいにして、警戒戻りな」
「ねえ、
私が視線だけで振り向くと、彼女はショートソックスとスカートの間に映える白い脚を組み替え、支給品の防爆タブレットに目を落としていた。
今いるタワマンの内部や周囲には数点の小型カメラが仕掛けられ、死角ができないよう計算して配置されている。
タブレットの画面には、それらの映像がリアルタイムで表示されてるはずだ。
「異常をみつけたら、AIが自動で感知してくれるんじゃないの?」
「念のため」
どうやら
なんだろう、私にだけ聞かせたい話でもあるんだろうか。
まさか、この戦域にそこまで警戒しなくてはならない敵がいるとでも言うのか?
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