第6話 しろちゃんは忘れてた

「忘れてたーっ!」

 それまで、シーソーやら鉄棒やらで遊んでた(僕も付き合わされていた)しろちゃんがブランコの上で唐突に叫んだ。

 じゃら、と鎖の持ち手が音を立てて、しろちゃんは地面に着地した。けっこう勢いよく飛び降りたのでスカートの端がかなりきわどいところまで浮かび上がり、下着が見えそうになる。僕は慌てて目をそらした。

 どうもしろちゃんは無用心なところが多い。ま、らしいといえばそうなんだけど。

「忘れてたって、なにが?」

 僕もブランコに座りながら聞くと、しろちゃんはやたら焦った様子で言ってきた。

「本来の目的をだよ! 私は公園で遊ぶために来たんじゃなくて、魔法陣を完成させるために来たんだよ!」

「あー……」

 そういえばそうだった。

 そもそも現実離れしている目的の上、公園に来てからも遊具で遊んでばかりだったので、僕も忘れてた。やっぱりやめない? と、危うく言いかけそうになる。

「えっと、どんな物が必要なんだっけ? 魔法陣」

 魔法陣を完成させるのに要る物。

 僕はまだそれほどやる気にはなっていなかったけど、どうせ手伝うことになるだろうと分かっていたので聞いた。

「木の枝、空き缶、大き目の石ころ、落ちてるロープ、とかかな」

 真剣そうな表情で言ってくる。そのわりに語尾があやふやだな。かな、って。

 しろちゃんは首を少し傾げて目を細めた。

「まだ手探りの段階なんだよね。おかげで失敗もあるし、手伝ってもらおうってのもそれが原因だったりする」

「なるほどね……」

 試行錯誤、材料集め。確かに人の手が欲しくなるのかもしれない。

 しかし、気になるのは労力のことだけじゃない。なんでこんな面倒なことをしているのか、ということだ。

 正直言って常識から外れてる。

 僕はまあ、それなりに許容範囲が広いからかこうして付き合えているけれど、他の人からしたらクレイジーだ。出会ったら何言われるか分からない。

 裏を返したら、周りから非難を浴びるのを承知でしているわけで、少なくともしろちゃん当人にしてみれば代償に見合う価値がある行動なのだろう。良いか悪いかはさておき。

 僕はしろちゃんの言うとおりに一応、材料を探してみる。暗いのでスマートフォンの明かりを点けた。ガザガザと、茂みの部分にまで入っていく。しろちゃんは懐中電灯を持ってうろついていた。

「僕たちあやしいなぁ……」

 よもや補導なんかされないよな、とか考えつつ探す。

 二十分ほど探し回って、材料は見つかった。

 しろちゃんの指示で公園のグラウンドのエリアに移り、その中央に材料を置いた。

「……これで完成?」

「ここからもう少し」

 まだ手を入れるらしい。僕としては完成でもいいのだけど。二十分の間に僕が何度も疑問符を頭の上に浮かべたことやら。

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