第4話 出迎え
「うるせーっ! このガキ! 二度とツラ見せんなっ!」
「はああああ!? そ、そんなこと言ってるともう漫画もゲームもライトノベルも貸してあげないよーっだ!」
「死ね! アンタが他の人の感想も欲しい、とか言ったんでしょうが!? なんで正直に言ったらそうなんのよ!!」
「おめーの感想なんていらねーっ! 中二病!」
「もう高校生だよ! みてろ、今わたしの魔術で灰と化してやるわっ! 喰らえ、滅びの黒炎をッ!!」
「きめー!」
……は?
しろちゃんの予定を受け入れ、家まで馳せ参じると、しろちゃんが小学生くらいの子と言い争っていた。
漏れ聞こえてくるフレーズからして、内容の下らなさが分かってしまう。いったいなにをしているんだろう。
「おーい、来たんですけどー」
あまり巻き込まれたくないので少し離れた位置から話しかけると、しろちゃんがしまった、という顔でこちらに気付いた。
「北村、ちょ、ちょっと待って。ほら、服から手放して! そしてどっか行け!」
「頼まれなくても行きますぅー! やーい、アホ女ーっ!」
「消えろ!」
しろちゃんが杖ではなく拳を振り上げて吼えた。もうなんにもない、ただの喧嘩だった。短パンをはいた小学生くらいの子供は駆けて消えていく。
何が原因で始まった抗争なのか、と益体もないことを考えていると乱れた服を整えるしろちゃんがやって来た。
「中二病じゃねぇし……!」
「……そう、だね」
眉根を寄せて忌々しく呟くしろちゃんに、僕は相槌を打っておいた。
しばらく黙っていると、なにがあったのか説明してくれた。
「隣町に住んでる子供。公園がこっちの方が広いからって、よく遊びにくるの。それで知り合って、漫画とかゲームを貸し借りしてたんだけど、アイツ、ちょっとけなされただけで怒りやがって〜!」
「まあ、子供だし」
「北川は寛容過ぎる。ガキよ、ガキ! アイツ今度会ったらマジで魔術の媒体にしてやんかんな……!」
「やめてあげようよ、それは。というか、どうやって知り合ったのさ?」
高校生にもなれば、逆にあの手のやんちゃな子供と関わりあいになる方が難しい。僕はしろちゃんに軽い尊敬心と不安を抱く。
「学校サボって公園でブランコ漕ぎながら人生について考えてたら、向こうから話しかけてきた」
「んあ?」
納得しかけて、首を傾げる。しろちゃんが学校をサボってる時なんだから、さっきの子も小学校にいる時間なんじゃ……ああ、短縮とか、開校記念日とかか。
僕がうっすらと自分の小学生時代を思い返していると、しろちゃんが突然ハッとして、僕のまわりをキョロキョロと見回し始めた。
「井上は? 井上は来てないの?」
「井上? なんで? いないけど」
僕が答えると、しろちゃんは少しホッとした様子で息をついた。井上なら来るのを辞退していた。そこまでの勇気はない、とか言ってたっけな。無理もない。
「荷物、待とうか?」
「んん」
しろちゃんの格好は先ほど学校から帰るときと一緒で魔術師ルック。しかし、おそらく魔法陣をつくるための道具なのか、大きめのリュックサックを手に持っている。
気づくと、日がだいぶ落ちてきていた。街灯がじわじわとつき始めて、辺りを照らしていた。
しろちゃんはいったん間を置いて、自宅の奥の方を指差した。
「いや、自転車のカゴにのっける」
「じゃあ、僕は楽できるね」
「それは違う、北川は私を運ぶ係だから」
そっちかよ。
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