第43話 『ネスト小隊』出撃

 ネスト小隊隊長であるネストはサーダマ師団の後方の輸送艦の中で、出撃はまだかまだかと燻っていた。


 そんな武者震いが止まらないネストに彼の部下の男が話しかける。


「隊長、そんなに出撃したかったら勝手に行っちゃっても良いんじゃないですか?サーダマさんなら文句は言いますけど、きっと許してくれますよ」


 その男はネストに話しかけるなり、出撃したいのなら勝手にすれば良いのではないかととんでもないことを口走る。


 上官の命令を無視しての出撃など軍において絶対にあってはならないことだ。


 もしも、そんなことをすれば、敵にではなく、味方に撃ち落とされることになるだろう。


 しかし、この部下の男がそう進言するからには、ネストがサーダマのことを無視してもある程度は許されることを知っているためだろう。


 そうして、部下の男がそう進言したのだが、


「確かに、今すぐにでも出撃したいが、今はその時じゃねえ。だから、俺はあいつからの命令が下りるまでの間、こうして頑張って待ってるんだよ」


 ネストは彼からの提案をすぐに断った。


 そのことを不思議に思った部下の男はネストにさらに質問する。


「へえ、隊長がサーダマさんの言うこと聞くなんて珍しいっすね。急な心境変化ですけど、何かあったんですか?」


「別に心境に変化があったわけじゃねぇ。俺はサーダマの大局を見る目は信用しているからな。あいつが出撃の時じゃないって言うなら、きっとその時じゃないんだろう」


「隊長って、結構サーダマさんのこと信頼してるんすね。それなら、普段から彼の言うこと聞いてあげれば良いじゃないですか」


 そんな普段の行動と矛盾するネストの言葉を聞いた部下はそうツッコミを入れた。


 それに対し、ネストは答える。


「普段は俺たちが負ける可能性の低い戦いなんだから、あいつの言うことは無視しても問題ねぇからな。だが、今は違う。俺たちにも敗北の可能性が大いにある。あのザイード隊を撤退まで追い込んだ奴らだ。ただものではねぇだろう」


「確かに、今回はこっちも少し厳しそうっすよね。サーダマさんもお怒りのようですし。まあ、この戦況ならサーダマさんも俺たちの出撃をいつか命令するでしょ。それまで大人しく待っていますか」


 ネストの部下はそう言うと、彼の元から離れていった。


 部下が側から離れて行った後、ネストはサーダマとビルトとの会話を思い出す。


「漆黒のATLASには気をつけろか…その機体が彼らを撤退に導いた連合の奴らの秘密兵器なんだろうな…」


 ネストはそう呟きながら、ビルトからもらったアストライアの情報を見ていた。


 ネストはサーダマには黙ってビルトと通信を行っており、その際にアストライアについての情報をもらっていた。


 サーダマがこのことを知ったら大変お怒りになるだろうが、わざわざビルトが教えると言うほどの相手を無視することなどできない。


 そのため、ネストは極秘裏にビルドとの通信を行い、アストライアの情報に目を通していた。


 アストライアの情報を見たネストの率直な感想は兵器としての格が違いすぎると言うものだ。


 明らかに、アストライアは現存兵器よりも格上の兵器である。


 完全武装時ではないにせよ、あのビルトのReaperですらダメージを与えられないことがおかしい。


 それに、あのレーザーライフルの威力もおかしく、見た目には似合わない高火力で戦艦の主砲にも匹敵する威力だった。


 それをあのアストライアはさも当然かのように連射している。


 そのことから、ジェネレーター出力も最新のATLASよりも桁違いに高いことが窺える。


 そのようなアストライアの情報を渡されたネストはこの機体をどうすれば倒せるのかと考える。


 まず、ATLASの兵装ではアストライアに致命的なダメージを与えるのは難しいだろう。


 そのため、アストライアを倒すためには戦艦の主砲級の火力が必要になる。


 そうなると、アストライアを戦艦の主砲で狙わなければならないのだが、あの機体は運動性能もイカれているため、そう簡単には当たらないだろう。


 それならば、アストライアの機動力を奪いながら戦艦の主砲が当たる位置まで誘い込むのが一番勝機が高い作戦だろう。


 もしも、アストライアとの戦闘に発展した際はその作戦でいくことを心の中で決める。


 まあ、今の戦況を見ている感じアストライアが出撃している可能性は低いため、これはあくまでも予備のプランであるのだが。


 そうして、ネストがアストライアのことを考えていると、


『ネスト、お待ちかねの出撃の時だ。今すぐ出撃の準備に移ってくれ』


 ついに、サーダマから出撃の命令が下る。


 出撃の命令が下ったネスト小隊の隊員たちはこの時がやっと来たと言わんばかりに嬉しそうな表情で出撃の準備を始める。


 ネストも嬉々とした様子で自分の愛機であるGrimoireグリモアに搭乗する。


 そうして、ネスト小隊の隊員たちが自分の愛機に乗り込んだタイミングでネストは全員との通信を繋ぐ。


「おい!!ついに俺たちの出番だ!!誰が一番敵機を落とせるか勝負だからな!!一番落とした奴は俺が酒を奢ってやる!!」


 そうネストが宣言すると、小隊の隊員たちは一気に歓声を上げ、彼らの士気が高まる。


 士気が高まったタイミングでネストたちの出撃の準備が終わり、彼らは戦場へと向かって飛んで行ったのだった。

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