第42話 予想外の抵抗

 サーダマ師団、司令官であるサーダマは現在の戦況に軽い苛立ちを覚えた。


「何故、あのような弱小国家の軍に我々が苦戦している?」


 何故なら、サーダマ師団は予想以上の苦戦を強いられていたからだ。


 サーダマの考えでは、最低でも1割程度の損害でニニシアを制圧できると考えていた。


 それは敗退したとはいえ、ビルトたちがニニシアで大暴れをし、敵軍の兵力を大幅に削ってくれていると考えていたからだ。


 実際、ビルトたちのおかげで迎撃部隊側の兵力は大きく削ることはできていた。


 それでもその数はサーダマが考えているよりもはるかに少なかったのだ。


 そのことにサーダマは苛立ちを隠せない。


「何故、あの男の尻拭いを我々がしなければならないのだ!!あの男がもう少し仕事ができていれば、ここまでの苦戦は強いられなかったはずなのに!!」


 怒りを抑えられなくなったサーダマはそう吐き捨てながら自分の座る椅子を叩く。


 その姿はまるで、物事がうまく行かないことに癇癪を起こす子供のようである。


 その姿を近くで見ていた部下たちは彼の癇癪に呆れながらも、いつものことかと何事もないように仕事を続ける。


 そうして、サーダマが怒りを抑えられずにキレ散らかしていると、


『サーダマの親分、俺たちはいつになったら出撃の許可を出してくれるんだ?俺も早くあの雑魚どもを蹴散らしたいぜ』


 いきなりサーダマへ通信が入る。


 普通ならば、いきなり司令官であるサーダマへ一般兵士が通信を入れることはあり得ない。


 もしも、そんなことをすれば、サーダマのことを馬鹿にしていると言われ、そのまま処刑されてしまう。


 しかし、この一般兵はサーダマへ当たり前かのように通信を入れ、悪態をついているのだ。


 彼らのことを知らないものからすれば、あまりにも危険な場面である。


 そうして、自分たちを出撃させるように急かされたサーダマは一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてから答える。


「いや、君たちの出番はもう少し先だ。ここで君たちを使うのはあまりにも勿体無い。敵軍の猛攻がもう少し収まるまで我慢してくれ」


 冷静さを取り戻したサーダマは落ち着いた声でそう言う。


 それに対し、通信先の男は、


『了解。俺たちは出撃の準備はとっくにできるから、いつでも戦場に出れるぜ?だから、なるべく早く出撃の命令をくれよな』


 なるべく早く襲撃の許可をくれるように言うと、そのままサーダマとの通信を切る。


 通信が切れたことを確認したサーダマは大きなため息をつく。


「この戦況では、ネストたちの投下も視野に入れなければならないな…はあ、彼らを投下すると捕虜が取れなくなるから色々と問題が出てきてしまうが、これも仕方ないか…」


 サーダマはそう呟きながら再び大きなため息をついた。


 サーダマに通信を入れてきた男の名前は『ネスト』


 サーダマ師団のATLASのパイロットの中でも最強と呼ばれる男であり、サーダマ師団の最高戦力であるネスト小隊の隊長である。


 ネスト小隊は宙域攻防戦では素晴らしい戦果を上げ、サーダマ師団を勝利へ導いた。


 彼らは戦況を変えるほどの実力を持っているのだ。


 しかし、彼らネスト隊はとにかく相手を殺すことへの執着が凄く、彼らを出撃させた時は大抵敵軍は全滅させられてしまう。


 そうなると、敵軍の情報を聞き出すための捕虜を取ることができなくなり、いつも面倒なことになっている。


 そして、サーダマはその面倒事の後始末によく追われているため、彼らを出撃させることには躊躇していた。


 だが、今の戦況は決して良いとは言えず、今はかろうじて優勢に戦えている状態だ。


 このまま優勢を保ちながら押し切ることができるのが一番である。


 しかし、戦況が悪化してこちら側の被害が看過できない範囲まで来た時は彼らの出撃を認めざるをえない。


 こればっかりは仕方のないことだ。


 サーダマは彼らのせいで後々面倒なことが起きるのを頭の中で考えて再びため息が漏れてしまった。


 サーダマはネスト隊が出撃しなくて良いように今ある戦力で何とか迎撃部隊を壊滅させようと指揮を取り続ける。


 しかし、迎撃部隊の猛攻は予想外に強く、サーダマ師団の戦力はみるみる削られていく。


 迎撃部隊は自分たちの国を守るために戦っている影響で士気が高い。


 それに加え、マタイ共和国軍の大将であるレビナまで出撃しているのだ。


 彼らの士気は最高潮と言っても過言ではない。


 そのため、迎撃部隊は予想をはるかに超える戦果を上げ続けている。


 そうして、サーダマ師団の戦力が看過できない領域まで削られてしまった時、サーダマはついにネスト隊の出撃の命令をしたのだった。

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