第38話 サーダマ師団とザイード隊
6月20日00:00。
ビルトたちザイード隊は重力圏を脱し、マタイ共和国から撤退している最中だ。
行きはあんなにうるさかった艦内も今はとても静かになっており、ビルトはそのことを少し寂しくも思っていた。
そうして、ビルトたちが撤退している最中、彼らはマタイ共和国宙域でサーダマ師団と接触する。
ビルトは彼らに特に用事はないが、一応仲間であるため、情報交換をしておこうと考え、サーダマ師団に通信を飛ばす。
それに対し、サーダマ師団はすぐに彼との通信を繋いだ。
『これはこれはお疲れのようですね。ビルト少佐ではありませんか。見た様子ですと、今回の任務は失敗したようですね』
通信を繋いだ途端、この嫌味を言ってくる男の名はサーダマ。
このサーダマ師団の指揮官であり、ビルトの上司にも当たる人物だ。
そんなサーダマからの質問にビルトは答える。
「ああ、サーダマ大佐の言う通り、任務は失敗に終わった。そのことで、貴公に情報を提供しようと思ってだな」
ビルトは素直に作戦に失敗したことを伝えた後、自分の持つ情報を教えようとした。
それに対し、サーダマは、
『それは任務に失敗したことへの言い訳のためですか?それならば、その情報は必要ないでしょう。貴方と違い、私たちにはこれほどの戦力がありますので』
彼からの提案を小馬鹿にしながら断り、ビルトを笑いものにする。
そのことに彼の部下たちはブチギレそうになっているが、当の本人であるビルトは気にしている様子はない。
その様子が気に入らなかったのであろう。
サーダマは眉を顰めながら話を続ける。
『それで、貴方の用というのはそれだけですか?それならば、通信は切らせてもらいますが』
「ああ、私は戦力を
ビルトは真面目さが残る顔でそうサーダマのことを煽り返したのだった。
どうやら、サーダマはビルトからの煽りが図星だったらしい。
サーダマは顔を真っ赤に染め上げながらビルトのことを罵り続ける。
だが、ビルトは大して気にしている様子はない。
それもそのはずだ。
ビルトは愚か者の遠吠えなど聞く必要がないからだ。
わざわざ自分がこの戦況に関わる重要な情報を渡そうとしているのに、それを無視したのだ。
それで全滅したとしても自業自得だろう。
ビルトはサーダマがあまりにも愚かすぎることに心の底から嘲笑った。
そして、そんな彼に従わざるをえない部下たちのことを哀れんだ。
そうして、ビルトは怒り狂うサーダマを無視して通信を切ろうとも考えたが、それでは流石に仲間としてまずいだろう。
そのため、ビルトは最も重要な情報だけを彼に伝える。
「最後に、戦場で漆黒のATLASを見た時、すぐに撤退を始めた方がいい。あれは君たちでは相手にできる代物ではない。もしも、戦うことを選んだのなら君たちは敗北を免れないだろう。いや、撤退している時点で敗北しているか」
ビルトはサーダマに最も重要な情報を伝えたのだが、その時もサーダマのことを煽った。
これで、一応仲間に警告を出すという最低限のことはできた。
それに、サーダマはさらに煽られたことで、再び怒りを抑えられずにビルトへ暴言を吐く。
その際、他の兵士たちもビルトへ暴言を吐き続けている。
どうやら、敗北確定と言われたことが相当癇に障ったのだろう。
彼らはまるで、猿のように己の欲望のままに暴言を吐き続けている。
その理性すらない彼らの様子にビルトは鼻で笑うしてなかった。
ビルトたちは伝えるべきことは伝え終わったので、そのままサーダマ師団との通信を一方的に切った。
そして、彼らはこのことを上層部へ報告しなければならないため、前線基地へ向かった。
一方、サーダマ師団はマタイ共和国の重力圏内への突入まで後一歩のところまで来ていたのだった。
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