第37話 感謝の言葉

 6月20日、早朝。


 まだ日が昇り始めた頃合いの時間にミナセはアストライアのいる倉庫に来ていた。


 ミナセはサーダマ師団迎撃作戦があるため、もうすぐ出撃しなければならない。


 もしかしたら、アラヤと会うのはこれで最後になるかもしれない。


 その前にミナセはアラヤに伝えておきたいことを伝えておくことにした。


 心残りがないように。


 ミナセはアストライアの元へたどり着くと、ニナに話しかける。


「ニナちゃん?アラヤくんは起きてる?」


『はい、起きてますよ。アラヤに合うんですよね?今コックピットの扉を開けますから、少し待っていてください」


 そうして、ニナがコックピットの扉を開けようとした時、


「いいえ、その必要はないから大丈夫よ」


 ミナセから静止するよう言われた。


 ニナはミナセからそう指示されたため、彼女のいうことを素直に聞く。


 そうして、ミナセはアストライアの近くまで来ると、少し寂しそうな笑みを浮かべながら語り始める。


「私ね、あの時すごく怖かったの。今まで一緒に訓練とか戦場を戦い抜いた仲間たちが一瞬でやられていって」


 ミナセはビルトとの戦闘を繰り広げた時のことを思い出しながら語り続ける。


「私ね、気がついたら1人になってたの。それでね、1人になっても必死に抗ったけど、全然ダメだった」


 ミナセはビルトに追い詰められ、足掻いても足掻いても手が届かなかった苦い思い出を振り返る。


「その時、私はすごく怖くてみっともないけど、すごく泣いちゃったの。仲間の死も迫り来る自分の死も辛くて、どうしても耐えられなかった」


 ミナセはそう言いながらアストライアの装甲に手を置く。


「そんな時、私の元に救世主が現れたの。あの私でも手も足も出なかったあの機体と引けを取らない戦いをする人が」


 そう言いながら、ミナセは満面の笑みを浮かべながらコックピットの方へ視線を向ける。


「それが貴方だったの。アラヤくん、私は貴方に救われたの。君がいなかったら私は死んでたわ。間違いなくね。だから、君のおかげで私は助かることができたの」


 そう言うミナセの顔には涙が流れている。


「だからね、アラヤくん。あの時は助けてくれてありがとう。私は君に本当に助けられた。そのことだけは忘れないで」


 そして、ミナセは再び悲しそうな顔をして、その場に俯く。


 しばらく、ミナセは感傷に浸っていたが、少しすると頬を叩いて気分を切り替える。


 そうして、気分を切り替えたミナセは不敵な笑みを浮かべながらアラヤに言う。


「今度は私が君のことを守るよ。だから、安心して待っていてね」


 彼女はそう言うと、アストライアから離れていく。


 そして、完全に離れ切る前、ミナセはニナに伝えなければならないことを言う。


「ニナちゃん、例のあれ・・の準備はできたそうよ。私たちが出撃し次第、暇になった整備士が運んでくれる手筈になってるから」


 ミナセはニナにそう伝えると、アストライアのいる倉庫から出ていった。


 そうして、アラヤはコックピット内でニナと2人っきりになる。


 コックピット内にいるアラヤはいつもの変わらず、下を向いたまま固まってしまっている。


 だが、彼の心はミナセの言葉によって変化が起きていた。


 彼女の言葉は決して無駄ではなかったのだ。

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