第34話 トラウマ
夜、ミナセは食事を持ってアラヤの元へ来てきた。
今晩のメニューはミートソースパスタであり、このニニシア基地の中でも人気なメニューである。
ミナセ自身もこのミートソースパスタは大好きであり、これなら食欲のないアラヤでも食べられるのではないかと考えていた。
そうして、ミナセはアストライアのもとに辿り着いた。
だが、ミナセのこの判断は逆効果であった。
アラヤは相も変わらず、無言のまま下を向いていると、ミナセがモニターに映し出される。
アラヤは一切視線を動かすことなく、下を向いたまま無言である。
そんなアラヤにミナセは話しかける。
「アラヤくん?夕食を持ってきたよ。今晩の夕食はね、このニニシア基地で一番人気のメニューであるミートソースパスタなの。一口でもいいから食べてみない?」
アラヤは最初こそ、ミナセからの呼びかけに答えることはなかった。
しかし、アラヤにはしっかりミナセの声が届いていた。
そして、アラヤの脳内でミートソースから連想ゲームが始まる。
ミートソースからトマトと挽肉。
トマトから赤色。
挽肉からは肉を挽く工程。
そして、アラヤは兵士たちの会話を思い出す。
ニニシア小学校付近の避難シェルターで起きてしまった惨状を。
アラヤの脳内で突然シンやミナがATLASによってぐちゃぐちゃにされ、火炎放射器でゆっくりと焼かれていった光景を想像してしまう。
アラヤはずっと忘れようと頑張っていた記憶を無理矢理掘り起こしてしまった。
次の瞬間、
「あ、あ、あああああああ!!!!!!!」
アラヤがいきなり頭を掻きむしりながら絶叫した。
いきなりの出来事にミナセもニナも驚いてしまい、固まってしまう。
その間にアラヤは我を忘れたように立ち上がると、そのままコックピットの壁に頭を叩きつけ始める。
その辺りでニナはすぐにコックピットの扉を開けると、
『ミナセさん!!アラヤが!!アラヤのことを止めて!!』
頭を壁へぶつけて自傷行為を続けるアラヤのことを止めるように叫んだ。
ミナセもニナからの呼びかけで正気に戻り、手に持つパスタを放り投げてコックピット内へ入った。
確かに、パスタは勿体無いが、今はそれどころではない。
ミナセはコックピット内に入ると、絶叫しながら壁に頭を叩きつけるアラヤのことを後ろから掴み、動けないようにはがいじめにする。
ミナセは常日頃から対人戦の訓練を受けており、女性でありながら男性にも負けない力を持っている。
これは彼女がサイレン種という種族であると言う面も大きいが、それでも彼女が鍛えているからこその賜物である。
ちなみに、サイレン種は地球のある天の川銀河の中にある惑星出身の生命体であり、その影響からなのか、人間種とは全く見分けがつかない。
そんな力の強いミナセであれば、素人であるアラヤのことを止めることは簡単なはずだが、
「嘘っ!?力強っ!?!?」
アラヤのパワーは桁外れであり、ミナセは彼を止めることに苦戦していた。
ミナセはアラヤが人間種であることは知っている。
そのため、彼の予想外すぎる力に驚かざるをえなかった。
ミナセはアラヤの予想外すぎる力に驚きながらも何とか彼を抑えることはできた。
しかし、彼はいまだパニックからは脱しておらず、暴れることをやめない。
だから、ミナセは新家のことを落ち着かせるために、
「大丈夫だよ…アラヤくん…」
アラヤのことを優しく抱きしめたのだった。
抱きしめられたアラヤは少しの間は必死に逃れようと暴れていたが、ミナセからの優しい言葉と温かさから少しずつ落ち着きを取り戻していく。
何とか落ち着きを取り戻したアラヤは再び光が灯っていない死んだ目に戻り、その場にぐったりと力が抜けたような大勢になる。
ミナセは落ち着きを取り戻したアラヤをコックピット内の座席に座らせると、
「それじゃあ、また明日ね」
そのまま出ていく。
2人は何故、アラヤがいきなりパニックになってしまったのか分からない。
それもそのはずだ。
2人は彼がシンとミナの最後を知っていることは知らない。
そのため、2人には彼がいきなりパニックに起こした理由を突き止めることも難しいだろう。
特に、ニナはその事実自体を知らないため、彼のパニック原因を突き止めることは不可能と言っても過言ではない。
そして、ニナはミナセが倉庫から出ていった後、彼女に一つの連絡を入れる。
それはニナがアラヤのためにできる最大限のことに必要なものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます