第32話 トドメの一撃
ニニシア襲撃から3日が経った。
襲撃からも時間が経ったことで、国では犠牲者たちの身元捜査や行方不明者の捜索などが行われていた。
心の治療を受けている最中のアラヤにも多くの友や知り合いの訃報が届いた。
共に演習の講義を受けていた同期たちの死。
ミュース、ガイ、マイトの仲良し3人組の死。
他の大学へ進学していった高校、中学の同級生たちの死。
自分のことを可愛がってくれた近所の人たちの死。
そして、彼の母親は今だに行方が分かっていない。
アラヤは多くの人の訃報に母の行方を聞いて、さらに精神がおかしくなりそうになった。
それでも知り合いの安否が気になるアラヤは知り合いの情報を集めていた。
ここは基地ということもあり、最新の情報が多くあるため、アラヤは多くの知り合いの行方について知ることができた。
この時までのアラヤはまだ精神は完全にやられていなかった。
しかし、次の情報を聞いた時、アラヤのメンタルはぐちゃぐちゃに壊れてしまった。
アラヤは軍医から許可をもらい、基地の中を散歩していた。
そうして、散歩していたアラヤはたまたま救難活動を終えて帰ってきた兵士たちの話が耳に入ってくる。
アラヤはその話の内容が気になり、物陰に隠れてその話を盗み聞くことにする。
アラヤが耳を澄ませて彼らの話を聞き始める。
「おい、聞いたか?あの小学校付近の避難シェルターで起こったことを」
「いや、俺はその話聞いてないな。一体何があったんだ?」
「一応、最初に言っておく。これはすげぇ気分の悪い話だ。俺も初めて聞いた時、吐きそうになったくらいにはな。それでも聞きたいか?」
そういう兵士の声はとても真剣であり、その避難シェルターで起きた惨状の酷さを表していた。
そして、その話を盗み聞きしていたアラヤは気持ち悪い冷や汗が溢れ出していた。
小学校近くの避難シェルター?
もしかして、それはニニシア小学校近くの避難シェルターのことではないのか?
アラヤは嫌な予感が脳裏によぎる。
しかし、アラヤは小学校はこのニニシアには沢山あるのに加え、その近くに避難シェルターも複数ある。
それがニニシア小学校付近のものであると決めつけるのは早計であろうと自分に言い聞かせる。
そんなアラヤのことを気にすることなく、彼らは話を続ける。
「ああ、教えてくれ。俺はこれでも軍人だ。その話を聞く義務がある」
「分かった。それじゃあ、話すぞ。今回ニニシアに襲撃してきたのはあのザイード隊だった。お前もザイード隊は知っているだろ?」
「ああ、ある程度は知っている。あれだろ?レアル帝国軍の中でも最強と名高いパイロットがいる部隊だろ?」
「ああ、そうだ。そのザイード隊には1人、異常性壁者のゴミクズカス野郎がいるんだ。そいつがザイード隊の副隊長であるゴードンって男だ」
「ひでぇ言われようだな。そのゴードンって男はそんなにヤバい奴なのか?」
「ヤバいなんて次元じゃねぇ。あいつはまさしく外道だ。人間ですらねぇ。なんて言ったてゴードンのクソ野郎は子供の悲鳴や殺すことに興奮するカスなんだからな」
その話を聞いた時、アラヤの脳内に最悪な光景が映し出される。
そんなアラヤは蚊帳の外にいて、2人の兵士は話を続ける。
「もしかして、そのゴードンって野郎は小学校付近のシェルターで残虐なことでもしたのか?」
「その通りだ。あいつは避難シェルターの壁を突き破ると、中に手を突っ込んで中にいる子供たちを叩き殺したんだ!!だけど!!それだけでは終わらなかったんだ!!あいつはまだ生き残りがいることを確認すると低音の炎をシェルターの中に噴射して中にいる子供たちを苦しめながら殺したんだ!!」
「おい…それは本当なのか…?そんなことが本当にできる奴がいるのか…?それはよくある盛られた話とかじゃないのか…?」
話を聞かされていた方の兵士はあまりにも惨すぎる行為が信じられず、困惑した表情を浮かべていた。
そんな彼に怒りを露わにした兵士は言う。
「ああ!!これは紛れもない事実だ!!
その言葉を聞いた時、アラヤはあまりの絶望に前が真っ暗になった。
ニニシア小学校にはニナの兄弟のシンとミヤが通っていた。
アラヤは2人が小さい時から面倒を見ており、本当の兄弟のように可愛がっていた。
そして、彼らも自分のことを本当の兄のように慕ってくれていた。
シンは自分もアラヤのように技術職を目指してATLASの研究をしたいと言っていた。
ミヤは将来、学校の先生になりたいと言っていた。
これから色々なことを経験するはずだったのに。
彼らの人生はこれからだったのに。
そんな彼らはあまりにも惨たらしい仕打ちの果てに殺されてしまった。
アラヤのボロボロのメンタルを破壊するのには充分すぎる内容であった。
アラヤはまるで、幽霊のようにその場に立ち上がると、そのままおぼつかない足取りで何処かへ向かう。
そうして、アラヤがたどり着いたのはニナがいるアストライアのコックピットであった。
アラヤは無言のままアストライアのコックピットの中へ入ると、そのまま体操座りで顔を埋めた。
それから、アラヤがアストライアのコックピットの中から出てくることはなかった。
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