第31話 離れ離れの二人

 救護班に救助されたアラヤはニニシアに建てられた救助キャンプではなく、ニニシア基地の救護室へ運ばれた。


 救護室に運び込まれたアラヤは後から来た軍医たちのメンタルケアによって何とか落ち着きを取り戻すことができた。


 そして、落ち着きを取り戻したアラヤはその疲れからそのまま眠りについてしまう。


 アラヤが治療を受けている間、ニナはニニシア基地で今までの経緯について説明していた。


 説明を聞いている上官たちは彼女からの話があまりにも突拍子もないため、信じられなかった。


 しかし、目の前に張本人がいるため、彼らは信じられないながらもニナの話すことは真実だと認めるざるおえなかった。


 ニナから事情を聞いた上官たちは彼らの行いは自己防衛の範疇に収まると無理矢理言い訳を作り、ニニシアでの戦闘は無罪にしてくれた。


 アラヤがこのアストライアを今まで隠していたと言う方の罪に関しても軍上層部へ連絡を入れてみたところ、あちらもそのことを把握し、それを認めていたため、そちらの罪も許された。


 そうして、ニナが軍の者たちの話しているうちに一夜が明けていた。


 ニナは離れ離れになってしまったアラヤのことが心配で仕方なかったのだが、次の日には目を覚ましたアラヤが会いに来てくれた。


 アラヤはアストライアに搭乗すると、モニターに映し出されたニナに話しかける。


「昨日はありがとう。ニナのお陰で何とか窮地を脱することができたよ。それと、パニックを起こした俺を落ち着かせようと何度も話しかけてくれていたこともありがとう。ニナがいなかったら俺はもっと酷いことになってたよ。本当にありがとう」


 アラヤはニナに昨日のことを感謝した。


 それに対し、ニナは答える。


『一々、気にしないでいいよ。私たちの仲なんだから。それで、アラヤはもう出歩いても大丈夫なの?』


「いや、今は軍医の人にお願いしてニナに会わせてもらったんだ。だから、まだ好きに動くことはできない。まだ治療の方も終わってないしな」


 アラヤはそう言うと、視線を落とす。


 どうやら、アラヤが負った心の傷は相当酷いらしく、そう簡単には治らないようだ。


 ニナはそのことを聞かされて、なんて声をかければいいか分からなかった。


 下手に彼を励ませば、逆効果になるかもしれない。


 反対に慰めたとしても自分がしたら他人事のようになりそうであった。


 そのため、ニナはアラヤにどう言葉を返せばいいのか分からなかった。


 そんなニナにアラヤは言葉を続ける。


「ニナと話してると凄く安心するんだ。ここが自分の居場所だって。ここにいてもいいんだって。そう思えるんだ。ニナ、俺は君とたわいもない話をするだけでもいいんだ。だから、ニナも俺のことはあんまり気にしないでくれ」


 アラヤはニナにそう言うと、とても落ち着いた様子を見せた。


 そんな彼を見て、ニナはいつもの変わらないノリで彼に話しかける。


 下手なことなんてしなくていい。


 いつも通りにアラヤとの会話をただ楽しめばいいんだ。


 ニナはそう思い、アラヤとの会話に花を咲かせる。


 そうして、ニナと楽しい会話を続けたアラヤはコックピットの中から出ていく。


 彼がニナと話せる時間は決まっていた。


 そして、その時間が来てしまったのだ。


 アラヤが帰ってしまい、ニナは1人きりになる。


 先ほどまで、アラヤと話していたこともあり、ニナはとても寂しい気持ちになる。


 そうして、


『アラヤ…私ももっと貴方と話したいよ…』


 ニナの悲しそうな声がコックピット内に響き渡ったのだった。

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