第30話 初めての後悔

 アラヤは何とかニニシアに攻めてきたザイード隊を押し返すことができた。


 しかし、当人であるアラヤはコックピット内で錯乱していた。


 戦闘中は命の危機であったため、そのことに意識を集中させていたから何とか持っていた。


 だが、今は戦闘時の緊張がなくなり、アラヤは先ほどまでの出来事を振り返る時間ができてしまった。


 そして、アラヤは様々なことを思い出してしまい、ストレス障害を発症してしまう。


 アラヤはコックピット内で頭を掻きむしりながら号泣している。


 ニナは錯乱しているアラヤに何度も声をかけているが、ニナの言葉は届かず、アラヤは正気を失ったままだ。


 この時、ニナは初めて自分の体を失ってしまったことを本気で後悔した。


 もしも、自分に肉体があったら、アラヤのことを抱きしめてあげられたのだろう。


 頭を撫でながら、人の温かみを伝えられたに違いない。


 だが、今のニナにはその手段は使えない。


 ニナが今できることはアラヤへ言葉をかけ続けることだ。


 そうして、ニナがアラヤのことを必死に落ち着かせようと声をかけ続けていると、アストライアへの通信要請が届く。


 ニナはその相手を確認してみると、彼らはマタイ共和国に滞在中の連合軍の兵士たちであった。


 ニナは自分たちがイレギュラーな存在であり、相手からしたら敵か味方か分からない状態であることはよく理解している。


 そのため、ニナは彼らと敵対しないためにも現在の状況を説明する必要があった。


 ニナが相手との回線を繋ぐと、相手の声が聞こえてくる。


『こちらは連合軍だ。我々に敵意はない。通信に応答してくれ』


 どうやら、彼らは敵意はないらしく、単純にニナたちの状況などを知るために通信を入れてきているらしい。


 実際、アラヤたちは彼らの仲間を救っているのに加え、レアル帝国軍のATLASを2機撃破しているのだ。


 敵ではない可能性の方が高いと考えるのは普通であろう。


 それに、アラヤたちの乗るアストライアには彼らのATLASでは歯が立たないため、穏便にこの場を収めたいと考えている。


 ニナはそのことを好都合だと思い、彼らからの通信に応える。


「えっと、聞こえますか?」


『女性の声…?ああ、いや、そちらの声はしっかり聞こえている。それで、君たちの方は我々と敵対しないと言う判断でいいか?』


「はい、それで問題ないです。それで、お願いがあるのですが、アラヤが、このATLASのパイロットがパニックを起こしてしまっているんです。助けてもらえませんか?」


 ニナは自分たちは敵ではないことを伝え、錯乱しているアラヤのことを助けてもらえないかと問いかけた。


 本来ならば、自分がアラヤを落ち着かせたいのだが、今の彼女では役不足だ。


 それに、ニナは何よりもアラヤのことが大切だ。


 そのため、ニナは他人に助けを求めることにした。


 ニナからアラヤの状態を聞かされた通信相手は、


『分かった。そちらに救護班を向かわせる。それでは、我々は民間人の救助を行わなければならないため、この辺りで切らせてもらう。今度はニニシア基地で会おう』


 通信相手はそう言うと、ニナとの通信を切ったのだった。


 ニナは何とか救援を呼ぶことができたことに安心したが、それでもアラヤの様子が良くなったわけではない。


 そのため、ニナは救護班が来るまでの間、必死にアラヤに声をかけ続ける。


 それは無駄な行為かもしれない。


 それでもニナはアラヤのために声をかけ続ける。


 そうして、ニナが声をかけていると、1機のヘリコプターがこちらへ向かってくる。


 どうやら、救護班の救急ヘリコプターのようだ。


 救急ヘリコプターはある程度高度を下げた後、中から救護班の兵士たちが降りてくる。


 ニナはアストライアを動かして姿勢を下げると、コックピットの扉を開けて中へ入れるようにする。


 ちなみに、ニナは1人でもある程度アストライアのことを動かすことができるが、アラヤが操縦した時のような激しい動きは行えない。


 出来るとしてもゆっくりと歩いたり、今のように姿勢を変える程度だ。


 その後、錯乱するアラヤは救護班の兵士たちによって運ばれていった。


 そうして、取り残されたニナも後から来た回収部隊によってニニシア基地へ運び込まれたのだった。


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