第29話 壊れる音
初めて敵を撃破したアラヤは悦びに浸っていると思いきや、顔色が悪かった。
今すぐにでも吐きそうな表情を浮かべており、呼吸もとても荒い。
アラヤは一般人だ。
今まで人を殺したような経験などもなく、それに耐えるための訓練も受けていない。
そんな彼が仕方ないとはいえ、初めて人を殺したのだ。
そのことに耐えられずに気分が悪くなってしまうのは当然のことだろう。
それでもアラヤは真っ直ぐ目の前の敵を見つめながら操縦桿から手を離さない。
アラヤは心の中で彼らは隠れる民間人を虐殺した大悪党だと言い聞かせる。
わざわざ避難シェルターまでこじ開けて中にいる人も殺しているのだ。
彼らは死んで然るべき奴らなんだ。
自分が彼らを殺さないともっと多くの犠牲が出てしまう。
それを止めるためにも仕方のないことなんだ。
そうやって、何度も何度もアラヤは自分の気持ちを騙すためにも言い聞かせる。
しかし、それでも人殺しによって発生するストレス負荷は極めて高い。
メンタルトレーニングを行っていないアラヤにとってはこのダメージは看過できないものであった。
それでもアラヤはニナの前というただ一点のみで何とか正気を保つことができている。
一方、ニナはアラヤと違って直接手を下してはいないものの、それでも相当ストレスだったのだろう。
ニナは画面から姿を消してしまっている。
きっと、アラヤに迷惑をかけないよう、見えないところで泣いているのだろう。
そうして、アラヤは絶不調の状態でも必死に操縦桿を握っていると、
『貴様ぁぁぁあああああ!!!!よくもビスマルクをぉぉおおおおお!!!!!!』
オープン回線でいきなりヤーコンがアラヤにブチギレてきた。
ニナが活動停止しているため、オープン回線を受信したのだろう。
アラヤはブチギレる相手を見て、何かが切れるような音が聞こえた。
次の瞬間、かつてないほどの怒りの感情が湧いてきた。
自分たちの街をめちゃくちゃにし、多くの友や知り合い、これから出会うであろう人たちを身勝手な理由で殺していた。
それなのに、いざ自分の仲間が殺されたら怒りを露わにして自分のことをいかにも悪人のように罵ってきたことが許せなかったのだろう。
無実で何もしていない人たちを無差別に殺したことを棚に上げたのが。
アラヤは周りにある周辺機器を探し、オープン回線に繋げる方法を探す。
そして、アラヤはそれらしいスイッチを見つけたので、それを試しに押してみると、アラヤはオープン回線に接続することができた。
オープン回線に繋げたアラヤはブチギレる相手に対しキレ返す。
「俺たちの日常を壊しておいて!!被害者ぶってんじゃねぇよ!!ゴミクズが!!お前のせいで!!お前のせいで!!俺たちがどれだけ苦しんだのか知っているのか!!」
アラヤは怒りのままに相手のことを罵る。
「分かった!!お前は仲間を殺されたことがそんなに悲しいんだなぁ!?!?それならお前もそいつと同じ場所へ連れて行ってやるよ!!」
そして、アラヤはそう言うと同時に残ったMessiahとの距離を一気に詰める。
今のアレスは極度のストレスに加え、怒りにより自分の感情をうまくコントロールできていない。
そのため、アラヤは怒りのままに行動している。
アラヤは怒りのままにMessiahとの距離を詰めると、バックパックにあるレーザーブレイドを引き抜き、そのままMessiahへ斬りかかった。
その動きには一切の無駄はなく、まるで人間がそのまま動いているかのようだった。
そして、アストライアはMessiahよりも運動性能が高く、脳波コントロールによって入力遅延などもほとんど存在しない。
そのため、ヤーコンが動き始めようとした時には既に斬りかかっていた。
ヤーコンは回避行動は無理だと判断し、レーザーブレイドを持つ左手を掴む。
左手を掴んだヤーコンはそのままアストライアを投げ飛ばそうとした。
しかし、
「な、何だと!?!?」
アストライアの圧倒的なパワーによってじわじわとヤーコンへレーザーブレイドが迫りきていた。
このままでは力尽くで両断されてしまうと思ったヤーコンは右手も動員してアストライアを押し返そうとする。
相手は片手に対し、ヤーコンは両手を使っている。
どれだけ機体のパワーが違っても両手ならば勝てるとヤーコンは思っていた。
だが、その考えは外れる。
ヤーコンは両手で押し返そうとしているはずなのに、ヤーコンのMessiahはアラヤのアストライアに押されていたのだ。
このままでは自分がやられてしまうと感じたヤーコンは焦ったような表情でビルトに助けを求める。
「た、隊長!!た、助けてください!!このままでは押さえてしまいます!!」
しかし、
『ヤーコン、お前の命を張った時間稼ぎに大いに感謝する。ゴードン?作戦は失敗した。ヤーコンが作ってくれた時間のうちに撤退するぞ』
ヤーコンはビルトに時間稼ぎのために命を張ったことにされ、見捨てられてしまった。
ビルトはヤーコンに言い残すと、遊撃艦の方へ向かって飛んでいってしまった。
それから少し後に3機のBASIAと激しい戦闘を繰り広げていたゴードンも撤退した。
ゴードンは相手の3機のBASIAのうち、2機のBASIAを活動停止までは追い込んでいたが、全員仕留めることはできなかった。
そのことを悔やみつつもビルトの指示に従い、撤退したのだった。
仲間に見捨てられたヤーコンは必死にアストライアの腕を押し返そうと足掻いているが、その行動に意味がないことはよく理解している。
そのため、ヤーコンは迫り来る死に加え、味方に見捨てられたことへのストレスから錯乱状態に陥ってしまう。
『た、助けて!!お願い!!俺、ちゃんと言うこと聞くから!!お願いだから助けて!!ママ!!ママぁぁぁあああああ!!!!』
そうして、錯乱状態に陥ったヤーコンはオープン回線を開いたまま醜態を晒し続けていたのだが、それはアラヤにとっては極大なストレスとなる。
アラヤがこのまま押し切ろうとした時、ヤーコンはコックピットを開けてその場から逃げようとした。
そのため、アラヤは右手に持つレーザーライフルをコックピットへ押し当て、外へ出るための扉を無理矢理閉じる。
閉じ込められたヤーコンは必死に泣き叫ぶ。
それを無視するように、ヤーコンの目の前にある銃口から赤色の光が溢れ始める。
迫り来る死にヤーコンは更に錯乱し、恐怖からコックピット内の壁に頭を叩きつけたり、暴れ回ったりする。
そして、アラヤはコックピットへ向けてレーザーライフルを放ち、泣き叫ぶヤーコンにトドメを刺したのだった。
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