第26話 『アストライア』出撃

 ニナはショックのあまり少しの間黙り込んでいた。


 そして、恐る恐るアラヤに質問する。


『ねえ?私って、ニナの人格をコピーしたAIの可能性とかってないよね?』


「多分それはないんじゃないかなと俺は思っているよ。可能性自体は否定できないけど」


『その根拠を教えてもらっても?』


「このATLASが起動する前、ニナの体が緑色の光を放ちながら、このATLASに吸い込まれた」


『ええ…また衝撃の事実なんだけど…私の身に一体何が起きてるの…」


 ニナはまたもや衝撃の事実を聞かされ、頭を抱えている。


「てか、そもそも俺もなんか人間辞めた臭いんだよな」


『えっ?何それ?厨二病とかじゃないよね?』


「俺も妄想ならどれだけ嬉しかっただろうな。だけど、これは悲しいことに事実なんだよ。見てくれよ、俺の体。さっきまで負っていた傷が全部塞がってる」


 そうアラヤは言いながらニナに自分の体を見せる。


 アラヤの体を見たニナは本当に傷一つない体を見て驚きを隠せない。


 そんなニナにアラヤは言葉を続ける。


「それに、今の俺って人間じゃあ、聞けないような音とか、視界の解像度も高いんだよな。明らかに人間辞めたわ、俺」


『なんで、アラヤはそんな平気そうな感じなの…普通は頭抱えるでしょ。私はこんなことになった時は凄く混乱したんだよ?』


「いや、俺は改造されていく過程を実感したし、それを見ていたからな。嫌でも受け入れる時間があったんだよ」


『まあ、そういうことにしておいてあげる』


 ニナはアラヤの謎の適応力の速さに呆れてしまう。


 普通はもっと驚くところだろとニナは思った。


 実際、ニナ自身もコンピューターと合体しているような状況に驚きを隠せず、しばらくの間は混乱していた。


 それがごく普通の反応だろう。


 それなのに、このアラヤという男はそれについて何も思っていないようである。


 まあ、アラヤは昔からこういうところがあったので、ニナは諦めるしかないのだが。


 そうして、現状について軽いやりとりをした後、ニナはアラヤに言う。


『アラヤ、このATLASで出撃するよ!』


 このATLAS『アストライア』で出撃すると。


 それを聞かされたアラヤは少し不安そうな顔で答える。


「それは良いが、俺はATLASの操縦なんてしたことないぞ?しかもこのATLAS、名前はアストライアだっけ?は謎のテクノロジーでできているんだぞ?操縦できる気がしないんだが?」


 自分はATLASの操縦経験がないため、できる自信がないと。


 それに対し、ニナは答える。


『そこは安心して。私が全力でサポートするから。ほら、早くレバーを持って!後足元にあるペダルにも足をかけておいてね』


 ニナにそう急かされたアラヤは彼女の指示通りコックピット内にある二つのレバーを手に取る。


 そして、アラヤは足元にあるペダルに足をかける。


 アラヤがレバーを掴み、ペダルにも足を置いたのを確認したニナは説明を続ける。


『このアストライアは脳波で操縦するみたいなの。だから、アラヤは頭でどういう動きをしたいのか鮮明に思い浮かべながらレバーを動かしたり、ペダルを踏めば、操縦することができるみたいだよ』


 彼女の説明によると、このアストライアは脳波コントロールで動かすらしく、あくまでもレバーなどは脳波コントロールの補助に過ぎないらしい。


 ニナからアストライアは脳波コントロールであると聞かされたアラヤはそれなら自分でも操縦できるのではないかと思い始める。


 そんなアラヤにニナは言う。


『まずは練習として、この場に起き上がることからやってみよう!アラヤならきっとできるよ!!』


 操縦の練習として、その場にアストライアを立たせてみてと。


 アラヤは首を縦に振ると、緊張した面持ちでレバーとペダルを動かしながら頭の中で立ち上がる姿を思い浮かべる。


 アラヤはATLASの操縦こそしたことはないが、それでもATLASのマニュアルは読み込み、どのように動かすのかも勉強していた。


 そして、このアストライアのコックピットは基本的な構造はATLASと変わらず、脳波コントロールの影響で簡素になっているだけだ。


 そうして、アラヤはATLASのマニュアル通りに動かしてみると、アストライアはゆっくりではあるものの、その場に立ち上がらせることに成功した。


 アストライアを立ち上がらせることに成功したアラヤは更に練習として歩行を行ってみる。


 こちらも脳波コントロールとニナのサポートもあり、易々と動かすことができた。


 そのように、アラヤがアストライアの操縦に少し慣れてきたところで、


『それじゃあ、次は武装についてだね。今、私たちが使えそうな武器はこれだけみたいだよ』


 そう言うニナはモニターに現在使用できる武装を映し出した。


 情報によると、現在使用できる武装はバックパックに装着されているレーザーライフルとレーザーブレイドの二つしかないようだ。


 他にも武装はあるみたいだが、今使えるのはこの2つのみである。


 アラヤは武器が使えないことも考えていたため、中遠距離武装であるレーザーライフルと近距離武装であるレーザーブレイドがあったことを幸運に思う。


 そうして、武装の確認を終えたアラヤはニナの指示に従い、バックパックに装着されているレーザーライフルを手に取る。


 レーザーライフルを手に取ったアラヤは上へ向けて放つ。


 レーザーライフルから放たれた超極太のレーザーは隠し整備場の天井を破壊し、上空へ繋がる穴を作る。


 アラヤは背中にある巨大背部スラスターを起動すると、勢い良く地上へ向けて飛翔したのだった。





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