第8話 遊撃部隊『ザイード隊』

 サーダマ師団と宙域防衛部隊が宙域攻防戦で激しい戦闘を繰り広げている中、レアル帝国軍のもう一つの部隊は着実に船を進めていた。


 彼らはレアル帝国軍遊撃部隊『ザイード』


 主に敵軍の懐へ潜り込み、致命的なダメージを与える奇襲に特化した部隊だ。


 彼らは奇襲に特化した部隊であるため、レアル帝国軍でも平均以上の腕前を持つ者たちで集められており、そこらの連合軍兵士では徒党を組まなければ、対処できない。


 そんなザイード隊を率いる隊長である白髪の男『ビルト』は、マタイ共和国がある惑星へ視線を向けていた。


 ビルトはレアル帝国でも有数のATLASのパイロットであり、数々の戦場で名を上げたエースである。


 そんなビルトに彼の部下である隊員が話しかける。


「隊長、この作戦は思ったよりも簡単みたいっすね」


 どうやら、この人物はマタイ共和国軍のことを舐めているらしい。


 それも仕方ない。


 ザイード隊が彼らの惑星まで迫っているのに、いまだにザイード隊を見つけられていないのだ。


 そのような敵は舐められても仕方ない。


 しかし、これは宙域防衛部隊がサーダマ師団との戦闘を行っているからであり、彼らだけではここまで上手く物事は進まなかっただろう。


 そのため、ビルトはこの隊員に喝を入れる。


「アーク、そうやって調子に乗っていると痛い目にあうと言っているだろう?相手がどれだけ弱小でも絶対に慢心はするな」


「へーい、気をつけまーす」


 ビルトの部下であり、ATLASのパイロットであるアークは適当な返事を返して、ビルトの元から離れていく。


 この遊撃部隊であるザイード隊のメンバーの大半は己の功績により、慢心している者たちが多い。


 隊長であるビルトは普段からそのような態度の隊員たちに注意を続けているが、彼らの態度は一向に変わる気配はない。


 それでも彼らの腕は確かであり、あれだけ慢心していても任務は全てこなしているため、ビルトもあまりしつこく注意できないのだ。


 そうして、ビルトが部下の態度に呆れてため息をついていると、


「隊長、我々の今回の任務も敵軍の補給基地の破壊ですか?」


 遊撃艦の操縦をしているうちの一人がビルトに質問してきた。


「いや、今回の我々の任務はとあるATLASを回収するというものだ。そのため、我々は地上へ降り立つことになっている」


 そんな部下にビルトは今回の任務について説明した。


 ビルトから説明を受けた部下は不思議そうな顔で更に質問してくる。


「そのとあるATLASって何ですか?」


 その目的のATLASとは一体何なのだと。


 それにビルドは答える。


「私にも詳しいことは分からないが、軍からの説明によると、この世には存在しない技術で作られた機体であるそうだ」


「それ本当なんですか?明らかにオカルトとか、都市伝説の類いですよね。もしかして、我々は軍に捨て駒にされたりするんですか?」


「確かに、お前の言いたいことは分かる。だが、確かにその機体は存在しているんだ。これを見てくれ。軍から提供されたデータだ」


 ビルトはそう言うと、正面にある大きなモニターにとある機体の情報を表示する。


 その機体は漆黒のフレームに包まれた機体であり、赤色のバイザーと歪な一本角が特徴の機体である。


 映し出された画像を見た隊員たちは物珍しそうな顔でこの漆黒の機体を見つめている。


「これが今回の狙いのATLASか…いいねぇ〜俺好みのデザインだ」


 アークは映し出されているATLASを見ながら、物欲しそうな目で画像を見つめている。


「これが今回の我々の目的であるATLASですか…まさか、このようなATLASが連合にあったとは思いもしなかったですね」


 先ほど質問した隊員も漆黒のATLASを見て感嘆している。


 そんな彼らにビルトは話を続ける。


「この機体は軍の情報によると、マタイ共和国の首都であるニニシアのどこかにあるそうだ。我々はニニシアに到着次第、この機体の捜索を開始する」


「隊長、一ついいですか?」


 そうして、ビルトが作戦の説明中、一人の隊員が彼に質問の許可を乞う。


 この男はザイード隊のATLASパイロットであるシークだ。


 シークから質問の許可を求められたビルトはそれを許可する。


「もしも、マタイ共和国軍と鉢合わせた場合は戦ってもいいんですか?」


「ああ、もちろん構わない。だが、我々の目的はこのATLASの確保だ。ATLASの確保を後回しにするのは断じて許されないから気をつけろ」


 ビルトはマタイ共和国軍との戦闘は許可するが、第一目標は漆黒のATLAS確保であるため、それを優先するようにと釘を刺した。


 捜索そっちのけでマタイ共和国軍と戦闘をしようと考えていた隊員たちは釘を刺されてしまったので、諦めて捜索を優先することにする。


 そうして、作戦について話しているうちに彼らの遊撃艦はマタイ共和国の惑星まで目と鼻の先まで来ていた。


「最後に、今回は重力圏内での戦闘だ。我々の機体でも重力圏内での戦闘は可能であるが、いつもの戦闘とは勝手が違うため、充分に気をつけろ。私からは以上だ」


 そうして、隊長であるビルトの言葉を最後に、彼らザイード隊はニニシアに向けて大気圏内へと降下を始めたのだった。

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