第4話 非日常

 そうして、演習室に戻ってきたアラヤたちは少しの間はニナとの恋愛事情について質問攻めにあっていた。


 アラヤは心底面倒臭そうに質問してくる奴らに適当な返事を返していた。


 そのようなやりとりをしているうちにニナのグループも演習を終えて戻ってくる。


 ニナたちが戻ってくると、ミュースたちはアラヤの元から散っていく。


 どうやら、ニナ本人の前でアラヤを煽るような勇気はないようだ。


 そんな彼らを見てアラヤは本当に彼らは中学生から成長していないなと呆れる。


 まあ、それも仕方ないだろう。


 ここはマタイ共和国の中でも最難関の大学であり、それも工学系の大学であるため、恋愛経験のない者たちが多い。


 そのため、中学生の恋愛観が抜けきれていない者たちが多い。


 そうして、全ての学生が戻ってきたことを確認した教授はまとめとしてGAMESについての詳しい説明をし始めた。


 その際もアラヤは何度も当てられており、自分以外の学生も当てろよと内心毒を吐いていた。


 その様子を近くで見ていたニナはニヤニヤした笑みをアラヤに向けており、アラヤは煽ってくるニナにブチギレそうになっている。


 しかし、授業中ということもあり、アラヤは必死に怒りを抑える。


 授業はアラヤが完璧な回答をしていることもあり、だれることなく進んでいき、予定よりも早く講義は終わった。


 講義が終わった後、教授は今回の実習のレポートを生徒たちに配り始める。


 そうして、いつものようにレポートの愚痴をこぼしていると、


『ウウウウウウンンンンン!!!」


 いきなり演習室に警報が響き渡る。


 学生たちが一体何事だと騒いでいると、


『こちら防衛省!!ニニシアはレアル帝国軍による攻撃を受けている!!繰り返す!!レアル帝国軍によるこうげきをうけている!!』


 マタイ共和国の防衛省からの放送が入ってくる。


 それは誰もが聞きたくなかった内容であった。


 ニニシアがレアル帝国軍からの攻撃を受けていると。


 学生たちはいきなりの出来事にパニックを起こしかけており、演習室は悲鳴で溢れかえる。


 アラヤはこのままパニックを起こすのはまずいと思い、彼らを何とか止めようとする。


 しかし、アラヤはこの手のことは初めてであり、上手く皆を落ち着かせることができない。


 アラヤも今すぐその場から逃げ出したい気持ちは痛いほど分かるし、これから起こることへの恐怖も充分にある。


 だからこそ、今は落ち着いて的確な判断をしなければ、助かる命も助からない。


 このような緊急事態だからこそ、アラヤは平静を保とうと頑張っている。


 とりあえず、アラヤは近くで状況が理解できずにあたふたしているニナの肩を力強く掴む。


 いきなり肩を力強く掴まれたニナはその痛みの驚きからアラヤの方へ視線を向ける。


「ニナ、一旦深呼吸だ。吸って、吐いて、吸って、吐いて」


 アラヤから深呼吸をするよう言われたニナは彼の音頭に合わせるように深呼吸をする。


 深呼吸を始めたニナは段々と落ち着きを取り戻していき、何とか平静さを取り戻すことができた。


 平静さを取り戻すことができたニナはアラヤにお礼を伝える。


「ありがとう、アラヤ。貴方のおかげで落ち着くことができた」


「気にすんなよ。こういう時はお互い様だろ?」


「ふふ、確かにそうだね」 


 そうして、アラヤがニナの落ち着きを取り戻したところで、


「皆!!一回落ち着きたまえ!!ここでパニックになっても仕方ないだろう!!」


 教授が大声で皆に落ち着くように言う。


 教授が大声を出したこともあり、学生の多くは教授に意識を向けると同時に何とか落ち着きを取り戻しつつあった。


 その様子を確認した教授は学生たちに指示を出す。


「君たちは大学内にある避難シェルターへ急いで避難しなさい!!私はGAMESの起動準備をしてくる!!さあ!!早く避難を開始しなさい!!」


 教授はそう言うと、演習場の方へ走っていく。


 そして、教授が生徒たちから離れた位置に来た瞬間、いきなり天井から壁にかけて無数の砲弾が貫通し、教授は砲弾によって上半身が木っ端微塵に吹き飛ばされ、そのまま絶命した。


 あまりにも一瞬の出来事だったため、多くの学生は目の前の出来事が理解できずに固まってしまっていた。


 アラヤとニナは平静さを取り戻していたこともあり、他の学生たちよりも先に避難を開始していたため、教授の方へ視線を向けていなかった。


 それでも後方から爆音が聞こえてきたこともあり、アラヤは警戒の意図も含めて後方へ視線を向けた。


 そして、アラヤの視界の先には下半身だけが倒れている教授の死体があった。


 アラヤは教授の死体を見ると、真っ先に後ろへ振り返ろうとしているニナの顔を両手で押さえた。


 そして、ただ一言ニナに伝える。


「ニナ…絶対に振り返るな。このまま避難シェルターまで走るぞ」


 そう言われたニナはただ無言で首を縦に振る。


 ニナも後ろで起こっている出来事ぐらい察している。


 それでも実際に見たのとその事実を予測するだけでは精神的なダメージが違う。


 だから、ニナは振り返らずに演習室から走って出ていく。


 アラヤも教授の死体を目にした時、目の前の出来事にパニックを起こしそうになった。


 しかし、ニナが側にいることもあり、彼は何とか平静を保つことができた。


 他にもアラヤは教授が直接死ぬ瞬間を見ていなかったのも大きいだろう。


 あの凄惨な死を目の当たりにしていれば、アラヤもパニックになっていたに違いない。


 教授が死んだ後、彼の死の瞬間を見ていた多くの学生はその場で発狂し、あまりの凄惨な場面に耐えられずに吐いてしまう学生も出ていた。


 彼らを説得する時間はアラヤたちにはもう残されていないだろう。


 アラヤは罪悪感を抱きながら、ニナについていくように演習室を後にした。


 パニックを起こしている同期たちを見捨てるような形で。






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