第2話 日常

 宇宙暦233年6月12日、ここはサリア銀河にあるマタイ共和国。


 宇宙連合の加盟国であり、調停戦争の前線に近い惑星にこの国家はあった。


 マタイ共和国は自然が豊かな国であり、貴重な鉱石やエネルギー資源など、主に資源物資が特産品である。


 惑星の約6割が海であり、水も豊富であるが故に様々な人種がこの地に暮らしている。


 そんなマタイ共和国の首都ニニシアで一人の青年が道を走っていた。


 その青年の髪は黒色であり、背中にリュックを背負っている。


 このマタイ共和国では珍しい人間種である。


 彼の名前はアラヤ・ベルナード。


 かつて、この惑星に移り住んだ地球人の末裔である。


 アラヤは焦った様子で道を走っている。


「クソ!!こんなことになるなら、前もって課題をやっておくべきだった!!」


 どうやら、アラヤは課題をギリギリまでやっていなかったせいで昨日は遅くまで起きていたようだ。


 そして、そのせいで寝坊してしまい、必死に走っていると言ったところか。


 アラヤは全速力で走り、どこかへ向かっている。


 その行き先はこのニニシアの大学の中でも特に理系学部に特化した大学である『ニニシア工科大学』である。


 アラヤは必死に走り、何とか授業前に大学へ着くことができた。


 何故、アラヤが遅刻しないよう大学まで走ったのかと言うと、今日の講義が必修であり、授業開始から5分以内に来ない場合、欠席扱いになる実習の授業であったためだ。


 この講義は一度でも休むと単位認定が難しくなると言う鬼畜授業である。


 そのため、アラヤは遅刻しないよう必死に走ったのだ。


 何とか大学に着いたアラヤはそのまま演習室の近くにある更衣室に向かう。


 走ってきたこともあり、授業まではまだ時間はある。


 このままさっさと着替えて演習室に向かえば、確実に間に合うだろう。


 アラヤは安堵のため息をつく。


 そうして、更衣室に着いたアラヤは作業服へ着替えると、演習室に入る。


 演習室にはアラヤ以外の生徒はすでに揃っており、ホワイトボードから遠い席は全て埋まっていた。


 この演習の教師は前の方に座っている生徒にばかり質問を投げかけるため、前の方に座るのはなるべく避けたい。


 しかし、アラヤは遅刻しかけたこともあり、空いている席は前しかないため、諦めて前の方の席に座ることにした。


 アラヤは前の方の席でもどこがいいかなっと思いながら席を見渡していると、見知った顔が目に入った。


 アラヤはその知り合いの一個前の席に座ると、


「あら、アラヤがこの授業に遅刻ギリギリで来るなんて珍しいじゃない。寝坊でもしたの?」


 その知り合いはアラヤに話しかけてきた。


 アラヤの知り合いは綺麗な水色の髪をした女性であり、パッと見では人間種のように見える。


 しかし、この女性の耳はアラヤのものよりも鋭くて長い。


 彼女はこの惑星の原生生物のマリアナ種である。


 彼女の特徴的な水色の髪もマリアナ種特有のものだ。


 知り合いに話しかけられたアラヤは心底嫌そうな表情で答える。


「ああ、今日提出の課題があっただろ?あれに手間取って寝る時間が削られたんだよ。ニナこそ、ギリギリまで課題やってなかったのに寝不足になってないのか?」


「ええ、私はこう見えて優秀なの。だから、あの程度の課題なんて一瞬で終わらせられるの」


 アラヤの知り合い『ニナ』は少し自慢げにそう答えた。


 そんな彼女にアラヤはため息をつく。


 アラヤとニナは幼馴染であり、小さい頃からずっと一緒だった。


 そのため、アラヤは彼女がいかに優秀かを知っている。


 なので、アラヤはため息をつくことしかできない。


 そうして、アラヤとニナが話しているうちに大学の講義は始まる。


「今日の実習では連合軍の量産型ATLASであるPA012-GAMESガメスの整備を行ってもらう」


 教授がそう言うと同時にホワイトボードには灰色の装甲を纏った人型兵器が映し出される。


「GAMESは連合が生み出した汎用人型兵器であり、様々な武装に加え、換装をすれば、全ての領域で戦える。GAMESは連合の主戦力兵器であるため、君たちちはGAMESの整備を行えるようになってもらう」


 教授はそう言うと、一番前の席に座っているアラヤに視線を向ける。


 アラヤは教授から視線を逸らす。


「それでは、ベルナードくん?GAMESの装甲に使用されている合金は何か答えてくれるかね?」


 しかし、アラヤは教授に当てられてしまう。


 アラヤは仕方ないので、教授からの質問に答える。


「えっと、バリオン合金です」


「正解だ。それで、バリオン合金はどのような金属がどれほどの割合で配合されているかは答えられるかね?」


 アラヤは教授から質問に答えたら、さらに追加の質問をしてきやがった。


 それも中々難しい問題をだ。


 アラヤは心底嫌であったが、授業であるため、教授を無視することはできない。


 なので、アラヤは教授からの質問に答える。


「確か、バリオンが75.5%、ガラメスが20.5%、アルゲンスミスが4%でしたっけ?」


「正解だ、ベルナードくん。君はよく勉強しているようだね」


「ありがとうございます」


 アラヤはそう答えると、着席する。


 教授もどこか満足そうな顔をしている。


 アラヤは助かったと安堵のため息をつく。


 その後、教授からGAMESの説明を受けた後、アラヤたち学生は演習場に向かったのだった。






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